第40話【閑話】???視点

 《???視点》


 ここは帝国の首都である“帝都”

 その中でもひと際、巨大な建物の地下室だ。


 初老の男が水晶の前に手にしている。


 ……『我がマスターよ、報告します。マリアンヌ=バルマンの乗った馬車が、バルマン領内に入ったようです』


 部屋にいた男は遠距離通信の魔道具で、通話をしていた。

 通信相手から“マスター”と呼ばれている。


「そうか。予定よりも随分と早いな」


 報告を受けて、初老の男は驚いていた。

 想定よりも早い日数で、対象者マリアンヌが目的地にたどり着いたのだ。

 普通ではあり得ない馬車の移動速度だった。


「だが問題はない。予定通り、対象者マリアンヌが城に到着したら、作戦を実行するぞ。用意しておけ」


 初老の男は口元に、狡猾(こうかつ)な笑み浮かべる。

 全身を黒衣で覆っているため、かなり不気味な表情だ。


 ……『かしこまりました。ですが本当にバルマン家ごと、あの女を始末するおつもりですか?』


 通信相手は最終確認をしてきた。

 何故なら今回の作戦は、一人の令嬢を消すために、侯爵家ごと潰す強引な策なのだ。


 ……『あのバルマン家を相手にするのは、やはり危険なのでは?』


 バルマン家はただの貴族ではない。

 彼らは帝国の“裏三役”を代々任せられ、帝国中の貴族に恐れられている存在。


 各代の皇帝ですらバルマン家を、蔑(ないがし)ろにできないなのだ。


 もしもバルマン家に手を出したら、即座に報復を受ける危険性がある。

 彼の有する見えない影の凶刃によって、暗殺されてしまうのだ。


「安心しろ。バルマン侯爵は敵も多い。それに家ごと潰してしまえば、危険は根絶できる」


 この初老の男は高い地位にいる者。

 帝国の君主たる“皇帝”に肩を並べるほどの、絶大な権力を有しているのだ。


「あまり深く考えるな。そうだな……『バルマン城と城下は、不幸な事故によって消滅する』そんな天災だと思って実行せよ』


 初老の男は残忍な笑みを浮かべていた。

 たった一人の少女を抹殺するために、数万人の市民を犠牲にしてとしていたのだ。


 ……『まさか街ごと巻き込む気だったのですか? それでは罪もない市民が、多くの命が奪われますが?』


 恐ろしい陰謀の全貌に、通信相手は言葉を失う。

 たった一人の少女マリアンヌ=バルマンを抹殺するために、マスターは街ごと消滅させるつもりなのだ。


「ああ、構わない。あのマリアンヌ=バルマン……《破壊神の巫女》の可能性がある者は、必ず滅する! 市民の命など、大事前の小事だ!」


 壮大な計画に酔うように、初老の男は雄弁に語る。

 彼は自分の信じる神から、啓示を受けていた。


 妖魔(ヨーム)の神である《破壊神》が、復活する可能性があるという内容だ。

 復活の鍵となるのが《真紅の破壊神の巫女》。


 啓示によるとマリアンヌ=バルマンが該当者なのだ。

 そのため策を弄して、厄介なファルマ学園から外に誘き出す。

 バルマン城に到着した所で、街ごと抹殺する計画を立てていたのだ。


 ……『私もマリアンヌ=バルマンの抹殺には賛成です。ですが無益な犠牲者は、やはり最小限に抑えるべきかと』


「黙りなさい! この私を誰だと思っているのだ⁉」


 自分の完璧ともいえる壮大な計画を否定され、初老の男は激怒する。

 隠していた地(じ)の言葉が、思わず出てしまう。


 ……『はい、申し訳ございませんでした。我がマスター、ヒリス教皇(きょうこう)よ』


「分かれば、よろしい。この計画が成功したら、あなた学園から帝都に戻ってきなさい。学生のフリも終わりです」


 ……『かしこまりました……』


 遠距離通信は終わる。


 初老の男……聖教会のトップである教皇ヒリスは、満足そうな笑を浮べる。

 これで自分の立てた作戦は、無事に遂行されるのだ。


「ふっふっふ……これで我が聖教会は、更なる発展をしていきますね!」


 聖教会は大陸でも最大の宗派。

 教皇ヒリスは皇帝と同等の権力者を持つ。

 自分が受けた啓示のために、一人の少女を抹殺しようと画策していたのだ。


「《破壊神の巫女》マリアンヌ=バルマン”……あの“憎き女”の血を引く者は、決して許さぬ……」


 そして彼の個人的な憎悪によって、今回の暗殺計画があった。


 ――――こうしてゲームには無かった最大の危機が、マリアンヌに迫っていた。

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