第36話学園祭の準備

 

 学園祭に向けて本格的な準備が始まる。

 まずは衣装デザインの確認から。


「これが“メイドカフェ”の……私(わたくし)たちの衣装ですか……? マリアンヌ様」


 出来立ての試作メイド衣装を、クラス委員長さんはまじまじと見つめる。


「はい、そうですわ。実際にはスカートの丈や、細かい部分はもう少し可愛らしくなりますわ」


 メイドカフェの衣装デザインの担当は、私マリアンヌ。

 ラフ画を見せながら、今後の仕上げてゆく衣装の説明をする。


 委員長は『なるほど』と頷(うなず)きながら、細かい点を確認してくる。

 表情と言葉から、好印象であることが伺(うかが)える。 


 ちなみに試作メイド服のラフ画デザインは、私が描いたものだ。

 試作の服は、ファルマの街に店を構える高級仕立ての屋さん製作。


 私が次のような感じで頼んで、急遽(きゅうきょ)作ってもらったものだ。


 ◇


『こ、こんな奇抜なデザインの女中(メイド)服を、仕立てるのですか、マリアンヌ様?』


「はい、できる限り大胆に、なおかつ可愛らしくお願いしますわ!」


『なるほど、そういうことですか。これほど素晴らしいアイデアの詰まったデザインは、初めて目にしました。これをバルマン侯爵家のお嬢さまが考案されたとは、いやはや』


「では明日の朝までに、まずは試作品をお願いしますわ」


『えっ、明日の朝までですか⁉ いくらなんでもそれは……』


「条件として学園祭までの期間、こちらの店の売り上げを、全て当家で補償いたしますわ。いかがですか?」


『す、すべて⁉ は、はい! 喜んで明日の朝までに、試作品を完成させます! マリアンヌ様』


 ◇


 こんな感じで、メイド服の試作一号機が完成していた。


 えっ? 

 服のデザインなんて描けたのか、お前は……ですか?


 ふっふっふ……私は前世での漫画やゲーム、アニメが好きな女子。

 だから乙女のたしなみとして、イラストを少しだけ描いていたの。


 あと、ちょっとアダルトなイケメンの絵も(小声)


 それにプラスして、マリアンヌさんの技(スキル)もおかげもある。

 令嬢な彼女は幼い頃から、絵画や楽器演奏などの芸術的な教育も受けてきた。


 だから私の前世のメイドカフェ服の記憶を元に、デザイン画を用意したのだ。


 さて、クラス委員長たちの反応はどうかな?


「これは……想像していた庶民の女中(メイド)服とは違い、素敵な衣装(ドレス)ですわ、マリアンヌ様!」


「これほどの素晴らしい才能があったとは……さすがマリアンヌ様ですわ!」


 おお、好反応。

 クラスの委員長さんをはじめ、他の子たちも試作メイド服を手にして、目を輝かせ感動している。

 うんうん、確かに可愛いメイド服は、乙女心にぐっとくるよね。


 今までのメイド服と彼女たちはイメージが、違っていたのだ。

 何しろこっちの世界の女中(メイド)さんといえば、掃除や家事などの肉体労働をする労働者。

 そのために女中(メイド)服は汚れてもいいように、生地や色合いも作業服に近い。

 あまり可愛らしくないのだ。


 記憶が覚醒したばかりの私も、バルマン家に仕える女中(メイド)たちの格好を見て、実はびっくりしたのだ。


『こ、こんな地味なのはメイドさんの服じゃない!』って内心ね。


 だから今回のデザインは、とにかく明るく可愛らしいものにした。

 乙女でも萌える感じね。

 デザインを忠実に再現してくれた職人さんよ、ぐっじょぶ。


 ちなみに秋葉〇とかのメイドさんみたいに、この衣装にはエロスはあんまりない

 何しろ私たちは恥じらいのある、乙女な女学生なのですから。オッホホホ……。


 メイド服の可愛らしさが火を点けたのか、クラス委員のみんなはヤル気が出ていた。


「では、マリアンヌ様の衣装を元に、カフェの内容を決めましょう」


「まず飲み物は王室御用達の……」


「料理はオムライスが必須だということで、当家専任の料理人(シェフ)を……」


「教室の内装は、新進気鋭のデザイナーの方に改装を……」


 私の説明したメイドカフェのシステムを元に、どんどんと内容を細かく詰めていく。

 凄く具体的に決めていっていた。


 取りまとめが的確なのは、流石は人望ある委員長さんだ。

 更にはクラス委員のみんなも、自分たちの持てるコネと財力を使い、凄い内容で計画してゆく。


 “王室御用達”や“専任の料理人(シェフ)” 、“新進気鋭のデザイナー”とか、凄すぎる単語が出ているけど、その辺は気にしないおこう。


 何しろ彼女たちは、金持ち過ぎる貴族令嬢ばかり。

 この辺の金銭感覚は別次元であり、現実世界と比べてはいけないのだ。


「では、料理と飲み物、それに内装工事はこの内容でいきましょう。マリアンヌ様は衣装デザインと統括(プロデューサー)をお願い致します」


 委員長の役割指示も済み、今日の放課後会議は無事に終了。


 学園祭までの時間は限られている。

 でも学園祭の準備は基本的には、令嬢的な金力(マネー・パワー)による外注がほとんどだ。


 だから企画さえ決まってしまえば、スケジュール的にはまだ余裕があるのだ。


 それにしても私の担当は統括(プロデューサー)か。

 かなり大事な役職っぽい。


 でも実質な運営は、委員長さんが取り仕切ってくれている。

 私も面倒くさいことは執事ハンスに丸投げしちゃえばいいから、何とかなりそうだね。


 よし、やる気が出来たぞ。

 明日からも頑張って、学園祭の準備をしないとね!


 ジロリ。


 わ、分かっているわよ、ハンス。

 もちろん、毎日の学業も忘れてないようにするわ。


 ◇


 それから数日後の休日。

 街の仕立て屋さんに、クラスの皆とやって来た。


 職人さんが突貫作業で、クラス全員分のメイド服が完成したのだ。

 サイズを微調整するためにやって来た。


「この可愛らしい衣装が、私(わたくし)の"メイド服”……」


「スカートや首回りも素敵ですわ! マリアンヌ様」


 この数日間、私が改良に改良を重ねたメイド服は、“メイド服三式”まで到達。

 その努力も甲斐もあり、クラス内で大好評。

 クラスのみんなからも感嘆の声があがっている。


 皆は今、実際に試着していた。

 鏡に写る自分の姿に、誰もが感動している。


 そんな中でクラスメイトのヒドリーナさんも試着していた。


「ヒドリーナ様、大変お似合いですわ」


 試着してご機嫌そうなヒドリーナさんを、褒め称える。

 でもこれはお世辞ではなく、確かに彼女は似合っていう。


 今回のメイド服はデザイン都合上、女性的な体型のメリハリが強調される。

 だからヒドリーナさんのスタイルの良さが、よく分かるのだ。


 ヒドリーナさんはスタイルが良い。

 胸も適度に大きいし、腰もくびれて細い。


 前に聞いたらドルム領特産の激辛料理の効果で、スタイルを維持しているという。

 女性の美しさを引き出す効果があるみたいだ。


 えっ、私の身体ですか?


 ヒ、ヒドリーナさんと比べないで欲しいんだから……私の可愛いお胸さまを。

 うちのバルマン領には、そんな素晴らしい特産品が無いから、仕方ないのよ……。


「マリアンヌ様も素敵でございます。この中で一番に似合っておりますわ!」


 でも落ち込む私を、ヒドリーナさんが褒めてくれる。


 えっ。そ、そうかな?

 この中で一番似合っている、だってさ。


 えへへっ……お世辞でも嬉しいかも。

 ハンス、鏡をここに!


 うん、たしかに私マリアンヌも、メイド服が良く似合っている。

 これで私の機嫌も回復だね。


「では明日からまた学園祭に向けて、最終準備をしてまいりましょう」


 委員長さんの号令で、いよいよ学園祭の準備もラストスパートだ。

 今のところ準備は順調に進んでいる。


 私も少しだけクラスのみんなと、打ち解けたし、衣装も好評。

 当日になるのが楽しみだ。


 えっ? 

 油断はできない……ですか?


 止めてよ、そんな不吉な予言!

 久しぶりに……というか、私がはじめて順調に、イベントが進んでいるんだから。


 でも、私も心配になってきた。


 塩でもまいておこうかな……ぽいっ!

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