第35話クラスの委員会

 クラスの皆の集まっている所にやってきた。

 目的の人は学園祭でのクラス委員長さんだ。


 その場で、私はお手伝いを名乗り出る。


「マリアンヌ様が、学園祭のクラス委員にですか⁉ は、はい、もちろん大歓迎でございます!」


 私の申し出は、あっさりと承認された。  

 これで晴れて私も、クラス内での委員会に入ることができたのだ。


 あれ?

 ずいぶんと簡単に、受け入れてもらえたな。


 自分の中では"人生最大級の勇気”を振り絞って、ここに来た。

 委員長さんは即答で、了承してくれたのだ。


 私が話かけた最初、彼女はビクッて驚いていたような?

 でも一瞬だったので、気のせいかもしれない。



「で、では、今日の放課後にクラス委員会がございます、マリアンヌ様」


 真面目そうな委員長さんは、さっそくスケジュールを教えてくれる。


 おっ、そうか。

 今日の夕方クラス委員会があるんだね。


 放課後の活動か。これは楽しみだな。


 何しろ私はいつも授業が終わったら、すぐに教室から出ていた。


 周りの子たちはいつも放課後、教室に残り楽しそうにしている。

 けど私は基本的に一人ぼっちなのだ。


 そんな私もついに放課後の教室に、残る"権利”を得たのだ。

 それもクラスの命運を背負う委員会メンバーなのだ。


 よし、これは気合を入れていかないとね。


 あっ、ハンス。


 私が午後の授業を受けている時間に、ちょっと調べてきてくれないかな?


 内容は、“他のクラスがどんな出し物を予定している”か。

 何しろ他のクラスと企画が被っていたら、大変だからね。


 それにしても執事は有能で便利よね。

 身の回りの世話から諜報活動に、護衛と何でも出来るし。


 えっ、他の皆さんの執事は、そこまでのスキルはないの? 


 そうだったんだ。

 ハンスはやっぱり優秀だったんだね。

 融通の利かない、口うるさい堅物なのが、玉にきずだけど。


 ジロリ。


 あっ、ごめんなさい。

 ハンスの悪口なんて考えてもいなかったですよ。オッホホホ……


 よし、これで事前の準備もオーケーだ。


 あー、放課後の委員会が本当に楽しみだな。

 積極的に手をあげて、自分の意見をだしてクラスに貢献しなきゃ。


 こんな感じで上の空な気分のまま、私は午後の授業を受けていく。


 ◇


 午後の授業は、あっとう間に終わる。

 放課後のクラス委員会が開催される。


 議長は真面目な令嬢の、クラス委員長さんだ。


「では他に意見がなければ、この三つの案の中から選びます」


 今日の議題は学園祭の日に、クラスの出し物の最終決定について。


 すごくナイスタイミングな議題。

 私はギリギリで最後の重要な話し合いに、参加できたんだね。


「何か意見や質問がありませんか?」


 委員長さんが議長となり、テキパキと話を進めていく。

 彼女は確か伯爵家の令嬢で、学園の成績も優秀な優等生だ。


 こうして面倒見もいいから、クラス内での人望もあった。

 うーん、素晴らしく、まぶしい子だな。


 私も生まれ変わったら、彼女みたいな人気者になりたかったな。

 目つきが鋭い悪役令嬢じゃなくて。


 あっ、でも後悔はないわ。

 こうして侯爵令嬢として転生して、今も楽しいし。


 よし、こんな人望のない私でも、今はクラスの学祭委員の一人。

 委員長さんのサポートを、頑張ってしていかないと。


 まずは候補にある三つの出し物を確認して、ちゃんと考えていこう


 ん?

 でも、なんか違和感があった。

 そ候補の“三つの案”があまりにも“普通”ではなかったからだ。


 ちなみに候補としては出ているのは


 案その1.一流のプロ交響曲団による演奏会


 案その2.劇団○季みたいな凄いエンターテインメント集団によるステージ


 案その3.王都の有名店を丸ごと貸切ケータリングによる高級カフェ


 だった。


 自分が想像していた学祭の出し物とは、まるで別次元なのだ。


 なんか『全てお金で解決!』みたいな感じ。

 特に自分たちは何もしないで、外部に委託しちゃう出し物である。


 もしかしたらファルマ学園では、これが"普通”なのかもしれない。

 何しろ生徒のほとんどが、大金持ちの貴族な子息令嬢たちなのだ。


 更にはこのクラスは、伯爵以上の令嬢しかいない特別なクラスなのだ。

 だから予算が半端ないのだろう。


 うーん?


 でも、なんか面白味はなさそう。

 だって学園祭の醍醐味といえば、“手作り感”であり“素人感”だ。


 決められた予算で、クラスの皆が試行錯誤。

 予算が少ないから、自分たちの手作りとかで協力して仕上げていく。


 だからこそ学園祭の当日は、全員が輝くような気がする


 そんなことを考えながらも、会議は進んでいく。


「他に案はございませんか? 無いようなら、三つの中から決めたいと思います」


 委員長さんが最終確認をしていた。


 よし、ダメ元で私も発言してみよう。

 いきなり委員会に入った身として、候補にも取り上げられないと思うけどね。


「あの……よろしいでしょうか、委員長様」


「は、はい! なんでしょうか、マリアンヌ様……」


 これまで黙っていた私の挙手。

 委員長がビクリと反応する。

 気のせいか、何か怯えている?


 でも早く私も発言しないと。

 みんなの注目が集まっている。


「出し物の案なのですが、“メイドカフェ”などはいかなでしょうか」


「女中(メイド)……喫茶(カフェ)……でございますか?」


 委員長さんは首を傾げる。

 この世界の人たちは、初めて耳にする“メイドカフェ”。

 単語の意味が理解できないのだろう。


 よし、こうなったら私が頑張って、皆に説明してあげるよ。

 “メイドカフェ”の素晴らしと楽しさをね。


 こう見えて、前世の私は“メイドカフェ”通であった。

 自分自身は女子だったけど、メイドさんが好きだったのだ。 


 非現実的な可愛いな衣装(コスプレ)に、独特のメイド言葉。

 ケチャップでハートマーク(別料金)をオムライス描いてもらった日には、私も大興奮であった。


 最後の"萌え萌えキュンキュン光線”とかもいいよね、あれは。

 まあ、これは私の好みかもしれない。


 でも、みんなでワイワイしながら、喫茶店を運営するのは、絶対に楽しいはず!

 色々と準備はあるかもしれない。

 けど、みんなで協力していけばね、いい思い出になるはずだ。


 私は委員長と皆に、メイドカフェのシステムを説明していく。


「つまり、マリアンヌ様。私(わたくし)たちが女中(メイド)の格好をして、庶民の喫茶(カフェ)の店員と同じように給仕する……ということですか……?」


 私の説明を聞き終えた委員長さん。

 声を震わせながら確認してくる。


 うん、そうだよ。

 だってそれが“メイドカフェ”だからね。


 でも委員長は凄いびっくりしている。それに他のクラス委員の人たちも。


 あれ……もしかしたら、私は変なアイデアを言っちゃったのかな。

 この学園に相応しくない、みたいな。


 で、でもそれだったら、別の案にしてもいいのよ。

 ほら、他に三つも候補もあるし。


 ダメ元だったアイデアだし、この後の多数決で落ちても仕方がない。


 ◇


 その後、多数決でクラスの内容を決定することになった。


 集計を終えて、委員長が結果を発表する。


「で、では満場一致の決議により、クラスは学園祭で……メ、メイドカフェを行います……」


 結果は委員長さんの震える言葉の通り。 

 なんと多数決でメイドカフェが、正式に選ばれたのだ。


 私にとっても、まさかの結果。

 何しろ、いきなりの出した私のアイデアが、他の候補を押し退けて選ばれたからである。

 全員賛成で“メイドカフェ”が選ばれたのだ。


 ん?

 でそういえば……なんか投票の前に、私以外のみんなが教室の後ろに集まって、なんかヒソヒソ話をしていたような?


 みんなで何を話し合っていたのかな。


 ふう……でも素直に嬉しい。

 自分のアイデアがみんなに認めてもらえて。


 よし、明日からさっそく頑張って、学園祭の出し物の準備をしていかにとね。

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