第32話【閑話】ジークフリード視点その2

 マリアンヌ=バルマン。

 本当に不思議な女だ。


 そして私も何故、自分の秘密の過去を、あの者に話してしまったのだろうか?

 今思い返しても、自分のことが分からない。

 だが、あの時は思わず話してしまったのだ。


 誰もいない庭の外れ。

 神々しい枝を手にもち、颯爽さっそうと現れたマリアンヌに、自分の生まれ育った時の話を。


 そして私のために、マリアンヌ“月空の涙”を流してくれた。

 我が祖国では乙女指揮官(ヴァルキリア・コマンダー)が流す涙は、どんな高価な宝石よりも価値があり、貴(とうと)い秘宝。


 それなのに、こんな復讐鬼ために、あの女は涙を流してくれたのだ。


「あっ……そうか」


 私は気がついた。

 何故、マリアンヌに自分の身の上をしてしまった理由。


「あの女は似ているのだな……私のマンマに……」


 容姿や風貌は全く違う。

 だが内から醸し出す雰囲気が、自分の母とよく似ている気がする。


 だから私は自然と話をしてしまったのだ。


「……『誰も恨んではいけません、ジーク。人を愛し、想い、労(いた)わるのです』……か」


 遠く祖国で捕らわれの身な、母の言葉を思い出す。


 復讐を誓う今の自分には、未だに全てを理解できない言葉だ。


「“月空の涙”……か」


 だが今は少しだけ、分かったこともある。

 他人のために流してくれた涙には、母の言葉の真実が込められている気がした。


「さて。次に会うのが楽しみだな、あの女……我が友マリアに。どんな馬鹿をやってくれるのだろうかな。ふっ……」


 自然と笑みがこぼれてしまったのは、母と引き裂かれて以来。


 気が付くと最近のジークフリードは、新しい友のことを考えているのであった。

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