第33話友の帰還

 ヒドリーナさんが里帰りしてから、日が経つ。


「マリアンヌ様、ただいま戻りました!」


 ついに学園に戻って来た!

 ところで実家の曾(ひ)おじいちゃんの危篤は、大丈夫だったのかな?


「文(ふみ)では危篤のはずでしたが、私(わたくし)が戻ったころには元気に回復しておりました」


 話によると彼女の曾(ひ)おじいちゃんは、年に一回くらい危篤状態になるという。

 高齢ということもあり『今回が最期の……』と、毎回思わせてから、また元気になるのだと。


 そんな訳でヒドリーナさんは数日間だけ実家に滞在して、急ぎ学園に戻ってきたのだ。

 とにかく何もなくてよかった。


「ヒドリーナ様のお戻りを、私も心からお待ちしていましたわ」


 私は大喜びで出迎える。

 ヒドリーナさん、おかえりなさい!


 本当に帰ってきてくれて、よかった。

 本当に寂しかったんだよー。


 彼女がいなかった期間は、本当に辛い一人(ぼっち)強化週間であった。


 宿舎の朝食(モーニング)を一人で食し、午前の授業も一人。

 午後の授業と、宿舎の夕食(ディナー)も一人(ぼっち)だった。


  でも、そういえば、『マリアンヌ様……あのう……』と、声をかけてくる同級生が何人かいた。


「あら、何かしら?」と自分では笑顔で返事した。

 でも次の瞬間、彼女たちがおどおどしながら離れていっちゃったのだ


 今思うと、あれは何だったのだろうか?

 ドッキリや罰ゲームで、一人でいた私に声をかけてきたのかな。

 学生時代によくありがちな感じで。


 それとも私の顔に、変な虫とかが付いていたとか? 

  もしくは……香水の匂いがキツかったのかな? 


 くんくん。うん、いい匂いだ。


 とにかくヒドリーナさんがいない一人でいた期間、私は何とも言えない周りの視線を感じていた。

 興味本位な視線というか、おどおどした視線というか、緊張感みたいなのが混じった感じだった。


 気になった私は、控えている若執事ハンスに聞いてみた。

 何か心当たりがないかと?


 ……『マリアンヌお嬢さまは、“いろいろと”近づき難い存在感があります。どうか気を落とさずに』と、そんな言葉が返ってきた。

 なんかハンスも慰めの表情だったな。


 それに、“いろいろと近づき難い存在感”って何だろう?

 気になるけど、あまり気にしないでおこう。


 ――――とにかくヒドリーナさんが無事に帰ってきてよかった。


「マリアンヌ様は今や、この学園の中でも“特別な存在”でございます。それで他の皆さまも、声をかけ辛いのかもしれませんね」


 ヒドリーナさんも慰めてくれた。

『声をかけ辛い』……なるほど、そういうことだったのか。


 それにしても“特別な存在”ってなんのことだろう?

 自分としては目立たないように、普通の学生生活を過ごしているなんだけど。


 あっ、もしかして……最近、持ち歩いている“木の枝くん”が変なのかな?


  あの時に中庭で拾ってから、実はお気に入りになったんだよね。

 ちょうどいい長さと持った感じなの。

 だから毎日、学園用のカバンに隠して持ち歩いているんだ。


 あっ、ヤバイ!

 枝の先が出ている。ヒドリーナさんに見つかる前に、隠さないと。


「まぁ! マリアンヌ様は自然を愛しているのですね。素晴らしいですわ!」


 なんか木の枝くんのことを、ヒドリーナさんは誤解してしまっている。


 あっ、お土産を?

 ヒドリーナさん、ありがとう。


 さっそく二人で食べてみようね。

 うん、このチョコレートのお菓子、鮮やかな赤い色でおいしそう!


 いただきまーす。ぱくり。


 あっ……これは……まさか……の⁉

 か、辛い。


 これはドルム領の銘菓の激辛チョコレートだったのか。

 凄すぎる辛さ。 


 でもヒドリーナさんの目の前で、吐き出す訳にはいかないし。

 ハ、ハンス……水を……ちょうだい……。


 ふう……無事に食べ終えた。


 それにしてもヒドリーナさん、戻って来てくれて本当に良かった。

 これで私の学園生活も、通常業務に戻った感じだ。


 えっ?

 彼女がいない間、自分はジーク様と密会デートしていたくせに、だって?


 しー。

 その話はまだヒドリーナさんに教えてないから、内緒でお願いします。

 実はその件はサプライズ演出で、ヒドリーナさんも教えようと思うっているの。


 作戦としては、ヒドリーナさんも中庭ランチ会に勧誘。

 そこでジーク様と偶然を装って遭遇。

 実は私とジーク様が仲良くなったことを、彼女にも教えてあげるのだ。


 よしっ。

 さっそく今日の昼食時間にでも、作戦実行してみるか。

 ハンス、ジーク様の今日の予定はどうなっているの?


 えっ、今日ジーク様は学園内にいない、ですと?


 ふむふむ。

 ジーク様やラインハルトが所属する蒼薔薇騎士(ブルーローゼス・ナイツ)は、昨日から遠征でいないのか。


 なるほど妖魔(ヨーム)兵が急に活発化したから、討伐に出かけたのね。


 あれ?

 でも、おかしいな。


 ジーク様が遠征に行くのは情報、私は初耳だ。

 友だちになったはずなのに、本人からなにも聞いてなかったよ。


 ま、まさか友だちになった、のは私の勘違いだったとか⁉


 そういえば、『変なうえに、鈍感なのか、私の新しい友人(とも)は』と、あの時のジーク様は言っていた。


 よく考えたら、冗談半分にも聞こえる言葉だ。


 もしかしたら“ミューザス王国ジョーク”みたいな、言い回しだったとか⁉

  ジーク様はちょっと中二病っぽいところがあるから、可能性がある。


 よし。

 遠征から戻ってきたら、本人に確認してみよう。


 あとラインハルトにも遠回しに聞いてみよう。

 もしかしたら遠征中のジーク様の、新情報もあるかもしれないし。


「マリアンヌ様、お変わりなくほっとしていますわ、私」


 鼻息を荒くしていた私に、ヒドリーナさんが微笑んでくれる。


 オッホホホ……ありがとう。

 私は見ての通り、何の変化もなくいつも通りだから、安心してね。


 ジーク様は友だちとして、あまり当てにできない危険性がある。

 だからヒドリーナさん、これからも友だちでよろしくお願いします。


「では、本日の授業に参りましょうか、ヒドリーナ様」


「はい、マリアンヌ様」


 こうして通常の学園生活に戻る。


 そしてファルマ学園でも最大級イベントの準備が、私の知らぬまに近づいてくるのであった。

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