第18話事件、その後

 私とヒドリーナさんは、無事に戻ってきた。


 ファルマの街で買い物中。

 私たちは不思議な異空間に、突然閉じ込められた。


 妖魔(ヨーム)兵に殺されそうになったが、褐色の大剣使いベルガによって救われたのだ。


 脱出した後は、若執事ハンスと合流。

 今はファルマの調査騎士団によって、現場検証が行われている。


 ◇


「団長! 妖石(ヨーセキ)を使った魔方陣の跡が、ここにもありました!」


「よし、もっと隅々まで探し出せ!」


 調査騎士団は法術に優れた調査のエキスパートである。

 数々の物的証拠を、現場から見つけていた。


 どうやら何者かが、故意的に妖石(ヨーセキ)を設置。

 私たちを罠にハメたらしい。


 私とヒドリーナさんは立会人。

 今のところは、この事件の犯人の証拠は見つかっていない。


 ◇


「マリアンヌお嬢さま! よくぞご無事で……」


 そういえばハンスと対面した時、彼らは顔を真っ青にしていた。


 ハンスの話によると、私とヒドリーナさんは突然、目の前から消えたという。


 その後は、必死で私の探し回ってくれたのだろう。

 いつもは冷静沈着なハンスが、髪を乱し汗だくになっていた。


 ありがとう、ハンス。

 そんなになるまで、心配かけちゃってごめんね。


 でも、そんな人間らしいハンスも、たまにはいいかも……。


 ん?

 あれ? 


 でも次の瞬間には、いつものビシッとした生真面目なハンスに戻った⁉

 むむ、その髪の毛は形状記憶合金製なのか?


 ジロっ。

 ご、ごめんない。感動と安心のあまり、ついつい言葉が過ぎました。



「ヒドリーナ様、よくぞご無事で……」


「セバスチャン、心配をかけましたわ」


 一緒に巻き込まれたヒドリーナさんも、執事セバスチャンさんと感動の再会をしていた。


 閉じ込められた当初、彼女は恐怖のあまり混乱していた。

 だが今は、気丈ないつのも顔に戻っている。


 この辺りはさすが。

 軍家として名を馳せている、ドルム伯爵家の跡継ぎだ。


 ヒドリーナさんは「何もできず悔しいですわ……」と、自分の不甲斐なさを、悔しがっている。

 意外と負けず嫌いな彼女は、これからもっと強くなりそうな気がする。


 ◇


 そういえば調査騎士団には、ベルガのことも報告してある。


「"あの”大剣使いの騎士(ナイツ)ベルガですか」


 剣士ベルガに助けてもらったことは、調査団に全部包み隠さず報告した。


 調査騎士の団長さんは、なんか渋い顔をしながら聞いていた。

 その表情から推測。


 ファルマの街では、やっぱり色々と面倒くさい人なんだな、彼は。


 ちなみに団長さんの話では、ベルガはこの街のどこかに住んでいるという。

 だが、どこに住んでいるかは、誰もしないらしい。


「マリアンヌ様、調査の協力ありがとうございました。今後はファルマの周囲の結界は、改善し強化しておきます。お気をつけてお帰り下さい」


 色々と聞き出された後、私たちは開放された。


 どうやら今回の妖魔(ヨーム)の出現は、彼らにも想定外の事件だったみたい。


 何しろ白昼堂々、街の真ん中に、人類の敵が出現したのだ。

 誰も、そんな事件が起きるとは、思ってもいなかったのだろう。


 あと市民の無用な混乱を避けるために、今回のことは極秘に。

 情報統制をしつつ、今後は再発防止に取り組みむたいだ。


 この辺はかなり独裁政権みたいな感じもある。

 けど国や大都市を治めるのは、色々と大変なのかもしれない。


 まあ、その辺は難しくて分からないから、私たちは去ることにした。


 ふう……事情聴取も全部、終わった。


 では、ヒドリーナさん。

 学園に戻りますか。


 あっ、もちろん、気をつけながらね。


 ◇


 調査団から開放され、学園への帰路につく。


 一行は私と若執事ハンス、ヒドリーナさんに執事さん。

 あと周囲には数名の護衛騎士が、安全な学園内まで警護していた。


「ん? マリアンヌお嬢さま、母上様の形見のネックレスが……?」


 帰路路、私の変化に気が付き、ハンスが訪ねてくる。


 いつも私が形見離さず、大切にしていた大事なネックレス。

 無くなっていることに気がついたのだ。


「これは……言い忘れていましたが、実は……」


 正直に事情を説明する。


 大剣使いベルガに、この命を助けてもらったこと。

 お礼として、形見のネックレスを差し上げたことを。


 あっ、もちろん、首からブチン!って剥ぎ取られたことは、ハンスには内緒にしてある。

 なんか私が襲われたみたいで、話がややこしくなりそうだし。


 あれは本当にマリアンヌさんの、大切な形見の品。

 でも命の対価としては仕方がない。


 亡くなったお母さんが、私たちを救ってくれた。

 そう割り切って、考えることにしていた。


「あの母上さまの形見の品を、その、ベルガとやらが……だと」


 ん?


 私の話を聞いていたハンスが、肩を震わせながら何かつぶやいている。


 下を向く顔は、何か怖い。

 いつもの冷静なハンスとは別人の……鬼神のような顔に⁉


 あっ、でも、いつもの表情に戻っている。


 ごしごし。

 あれ? 今のは、私の見間違いだったのかな? 


 私もかなり疲れていたから、幻覚を見たのかもしれない。

 何しろハンスは冷静沈着で、どんな時も激情にかられない。


 あと能面で融通の利かな、い口うるさい若年寄りなのよ。 


 じろっ。

 オッホホホ……ごめんなさい。でも、いつものハンスに戻ってくれてよかった。


 あー、それにしても今日は、本当に疲れちゃったな。

 せっかくの休息日だったのに、変な事件に巻き込まれちゃって、本当に大変だった。


 あー、何かいい事ないかな。


 学園の生徒らしい、ぱぁっと楽しいことがさ。

 よし、ヒドリーナさんに聞いてみよう。


「それでしたら、来週の休息日には、“お花見会”というお祭りがあるみたいですわ、マリアンヌ様」


「お花見会……でございますか?」



「はい、聞いた話によると……」


 情報通なヒドリーナさんが、情報を教えてくれる。


 それによる次の休みに、学園の春の一大イベントが開催されるという。

 学園の敷地内にある庭園で、毎年恒例の華やかな花見会があるのだ。


 なるほど、お花見会には、お茶会や、甘味とお菓子もあるのか⁉。


 それは楽しそう!

 これはテンションが上がってきたぞ、わたしゃ。


 えっ?

 ……『つい、さっきまで命の危険があったのに、学園は随分と呑気ね』ですか?


 この世界は常に妖魔(ヨーム)と戦乱に、見舞われている厳しい世界。


 だから、いつまでも過去を引きずっていたら、乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーの身が持たないの。

 それに気分転換も大事だし。


 それにしても一週間後に、お花見会か……。

 楽しみだな。


 何のドレスを着ていこうかな。

 やっぱりお花柄かな?


 今週はそわそわした、一週間になりそうね、私は。


 じろり。

 は、はい、ハンスさん。

 もちろん勉学と訓練も、ちゃんと頑張ります。


 ◇


 そして無事に一週間が経ち、ファルマ学園の春の最大行事、お花見の当日がやってきた!


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