第13話【閑話】ジーク様の視点

 私の名はジークフリード。


 ミューザス王国の第二王子ジークフリード・ザン・ミューザスだ。

 今は身分を隠し、ファルマの街の聖剣学園に騎士として通っている。


 学園生活は悪くはない。

 騎士として自分の力を磨きつつ、スキルを会得してきた。


 祖国のために、誰よりも強くなる必要がある私にとって、最良の環境。

 孤独は人を強くする。


 ラインハルトという強引な奴以外は、友人を作らないようにしていた。

 乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとも無視して学生生活を過ごしてきた。


 このまま誰とも絡まず、何の事件もなく、無事に卒業していくと思っていた。


 ◇


 だが私が二年生なった時、"変な女”に出会う。


 その者の名は、マリアンヌ。


 今年の新入生であり乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーの一人だ。


 彼女を初めて見たのは、つい数日前のこと。

 騎士と乙女指揮官(ヴァルキリア・コマンダー)の《顔合わせ会》の時だった。


 顔合わせ会の会場で、ちょっとした騒ぎあった。

 庶民と令嬢同士が、何やら揉めていたのだ。


 私は他人の揉め事には、興味はない。

 少し離れた所から、冷笑しながら見ていた。


 だが、その時だった。

 あの女……侯爵令嬢マリアンヌが、颯爽(さっそう)と騒ぎの中心に登場したのだ。


 会場の騒動を見事な演説で収めて、彼女は風のように去っていった。


「マリア⁉」


 私の隣にいた学友のラインハルトが、彼女を見て叫ぶ。


「知っているのか、あの令嬢を?」


「ああ……オレの幼なじみのマリア……マリアンヌだ。でも、何で、あんな事をしたんだ? 昔は、あんな奴じゃなかったんだがな」


 ラインハルトは彼女のことを教えてくれた。


 幼い時から、神童と呼ばれていた令嬢だと。


 十歳を越えたくらいから、傲慢ごうまんさが出てきてしまったと。


 なるほど。

 侯爵令嬢のマリアンヌか。


 私の目から見た評価は、普通のレベル令嬢だ。

 特筆することはなかった。


 だが先ほどの演説。

 あの言葉が……氷のような私の心を、魂を揺さぶっていた。


 その日を境にして、私は何故か彼女のことが気になる。


「ライン。もしも良ければ、キミの幼馴染を紹介してくれないか?」


「ん? マリアのことか? ああ、もちろんいいぜ!」


 だからラインハルト頼み彼女に、実際に会ってみることにした。


 ◇


 当日、食堂(レストラン)の外から遠目に見たマリアンヌは、やはり“変な女”だった。


 彼女は上位貴族令嬢であるにも関わらず、下級貴族たちと同じように食堂(レストラン)で昼食をしていた。

 かなり身分に対して無頓着なのであろうか?


 あと凄まじい大食漢だった。

 三人前ものランチを、一気に空にしていた。


 ん?

 彼女の後ろに控える若い執事が、オレの視線に気が付いた。


 ほほう。

 あの執事はタダ者でないな。

 これには感心する。


 その後、ラインハルトに呼ばれて、彼女と話をした。


 だが会話をして残念な気分になった。

 令嬢マリアンヌは他愛のない、普通の女だったのだ。


 あの時の私の魂の高揚感は、幻だったのかもしれない。


 会話しながら、そう失望した時。


 ――――次の彼女マリアンヌの一言で、驚愕へと変わる。


『ジークフリード様……もしかしたら、貴方様は、ジークフリード=スザミ……様でございますか、あの?』


 そう尋ねてきた。


(なっ⁉ 何だと⁉)


 心の臓の鼓動が一気に早くなった。

 そして脳裏に疑問が浮かぶ。


(なぜ、この者は私の名の……“真の発音”を知っているのだ⁉)


 学園での私の仮の名は“ジークフリード・スザミ”。

 それは多くの者が知っている。


 だがマリアンヌが口にした『スザミ』の発音は、ミューザス王族だけが知る秘密の発音だったのだ。


 特殊なイントネーションのために、その場にいたラインハルトですら気が付いていなかった。


 いや、当たり前だ。

 あの特殊な発音は、普通の者は聞き取れないイントネーションなのだ。


(マリアンヌ……この者は、一体何者だ?)


 私の中の彼女に対する失望感は、驚愕へ。

 驚愕は、疑念へと変化していった。


(まさか、私の身分が、漏れていた……いや、そんなハズはない)


 私の身分を知るのは、学園長ただ一人。

 あの賢人が、まさか口を滑らすとは思いえない。


 では、いったいなぜ、彼女は? 


(令嬢マリアンヌ……油断ならざる者だな)


 もしかしたら食堂(レストラン)での不可思議な言動も、演技の可能性もある。

 マヌケ者のふりをして、実は裏があるのかもしれない。


 この学園や大陸の運命を握る、重要人物である可能性もある。


 彼女のことは今後も調べていく必要がある。

 ラインハルトに頼んで、今後もマリアンヌとの機会を作ってもらった。


「マリアンヌ……か」


 私はいつの間にか彼女の名を、口にするようになっていた。

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