第12話修練場

 食堂(レストラン)で令嬢ヒドリーナさんと友だちになった。


 そんな中、“壁ドンなオレ様”ことラインハルトと、銀髪のクールな美男騎士ジーク様が襲来。


 二人に誘われて学園内の修練場(しゅうれんじょう)に、私とヒドリーナさんも同行することになった。


 ◇


【修練場(しゅうれんじょう)】


 騎士たちが己の力と技を、ぶつけ合う場所。

 互いに切磋琢磨(せっさたくま)して、自分を磨き上げる訓練の場である。


 あとゲーム的には、美男騎士の能力を育成できる場所。

 騎士の基礎能力をアップすることが出来て、剣技や法術のスキルを習得も可能だ。


 ちなみに騎士たちは妖魔(ヨーム)との実戦でも、経験値をゲットしてレベルアップできる。

 でもバランスよく育成成長するためには、修練場での基礎的な訓練も欠かせないのだ。


 騎士は色んなことを、会得する必要がある。

 礼節、戦術や教養など、学園で学ぶべき事は多い。


 だが人類を守る剣(ソード)である騎士にとって、最も重要なものは武の修練なのだ。


 ◇


 そんな修練場に、私たちはやって来た。


 ラインハルトとジーク様は鍛錬の準備をして、中央の闘技場に立つ。


「お互いに礼! 模擬戦(プラクティス)、はじめ!」


 審判である学園の教官の号令、が響き渡る。


「いくぞ、ジーク!」


「ああ、こい、ライン!」


 騎士(ナイツ)同士の模擬戦が始まった。

 剣を交えるのは、ラインハルトとジーク様の二人。


 私マリアンヌとヒドリーナさんは、離れた上の観覧席から見守っている。

 ラインハルトは自分たちの模擬戦を、私に見せたかったようだ。


「マ、マリアンヌ様……あの二方……大丈夫でしょうか? 剣を握っていますが……」


「安心してください、ヒドリーナ様。あれは訓練剣でございますわ」


 ラインハルトたちは訓練用の軽鎧と、模擬剣を装備して戦っている。

 摸擬剣は刃の部分を丸く削ってあり、実際に斬れることはない。


 だが素材は実際の騎士剣と同じ、金属製

 当たり所が悪ければ、大怪我を負うだろう。


 だから剣を交えているラインハルトとジーク様、二人の表情は真剣そのものだ。


 ガッ、キーン!


 剣同士がぶつかり合い、激しい金属音と火花を発する。


「キャ⁉」


 隣にいたヒドリーナさんが、思わず小さく悲鳴をあげる。


 自分たちのいる観覧席は、騎士たちの場から離れているので危険はない。


 でもヒドリーナさんは貴族令嬢。

 剣と剣が本気でぶつかり合い、火花が飛び散る光景は、危なく感じるのかもしれない。


 一方で私は感心しながら、二人を観戦していた。

 何しろ騎士同士の模擬戦は、凄い迫力。

 剣捌(けんさば)きはもちろん、身体の動きや踏み込みも速すぎて、私の目で追えなくなる時もある。


 まるで剣舞のような二人の戦いに、私は釘付けだ。


「……さすがはラインハルト卿とジークフリード卿だな」


「……ああ、学園でもエリートしか入団できない、蒼薔薇騎士(ブルーローゼス・ナイツ)の二人だけある」


 ん?

 いつの間にか観覧席に、他の騎士たちも来て雑談している。


 彼らも私たちと同じように、二人の模擬戦に観戦している。

 凄いベタ褒めだ。


 彼らの会話にあるように、ラインハルトとジーク様の二人は、学園の騎士の中でもエリートだ。


 実は彼らは二年生の設定。

 新入生である私より、一個上の先輩だ。


 そんな二人が入団しているのは、蒼薔薇騎士(ブルーローゼス・ナイツ)という騎士団。

 三年生ですら中々入団できない、エリート集団だ。


 でもラインハルトとジーク様は一年の時から、そこに所属。

 その実力は学園の若手の中でも、トップクラスなのだ。


 そして観覧席に来たのは、騎士たちだけはなかった。


「キャー、ラインハルト様の御腕に、剣が当たってしまいましたわ!」


「いえ、ジーク様の御足にもですわ!」


 自分たちから少し離れた観覧席から、黄色い悲鳴が聞こえてくる。

 乙女な生徒たちが、二人の模擬戦を見に来ていたのだ。


 あっちは、とても盛り上がっている。 


 雰囲気的に乙女たちには、各人の"推し騎士”がいるらしい。

 今だとラインハルト派にジーク派に別れ、キャピキャピ盛り上がっている。


 なるほど、乙女な女子のファンも、あの二人には多いのか。

 たしかに二人とも魅力的な美男騎士だ。


 赤髪のラインハルトは少し強引で、自己中心的な性格。

 でも本当の性格は温かみがあり、太陽のように人を引き付ける人物だ。


 銀髪のジーク様は対照的に、クールで北欧の氷のようなオーラ。

 ミステリアスな部分も含めて、多くの乙女に人気がある人物だ。


 そんな魅力的な二人の模擬戦。

 段々と観覧席の乙女の数が増えてきた。

 口コミで集まってきたのだろう。


 それにしてもファルマ学園の乙女な生徒の皆さん、やけにミーハーだな?

 ものすごくキャピキャピしているぞ。


 ここにいつ乙女たちは、一応は乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーの適性のある者たち。

 つまり人類を救うべき候補者たちなのだ。


 それなのに、このミーハーぶり。

 この子たちに騎士の指揮とか任せて、本当に大丈夫なのかな?


 ちょっと不安になってきた。

 私はクールに観戦しておかないと。


 んっ?


 おおぉお⁉


 ねえ、今の見た⁉


 今のラインハルトの突き技は、彼の固有スキルの“二段月突き”だったよ!


 それを受け流したジーク様のスキルは。“水流の構え”だよ!


 いやー、凄かったね、今のスキルの攻防戦は。


 スキル発動なんて、ゲームの中の動きでしか見たことなかった。

 実際に目にしたら、予想以上だったね!


 本当に感動ものだ!

 あたしゃ、ゲーム内に転生できて、本当に幸せだよ。


 あっ……大変失礼いたしました。


 何だかんだ言って、私もキャピキャピして申し分ありません。


 はい、そうなんです。

 じつは私もミーハーだったのです。


 ちなみに私の場合は【スキル】フェチで、スキルマニア。

 ゲームの【聖剣乱舞】でも、美男騎士と合わせて、各スキルを愛していたのだ。


 ちなみにゲーム内では、戦闘モードが基本はオート。

 でも騎士の育成は自由度が高かった。


 各自キャラの固有スキルを組み合わせて、オリジナルの連撃技(アーツ)も育成可能。

 新しい技を編み出した時は私も、ほんと感動と興奮ものだったな。


 あっ、そう言えば新しい【連撃技(アーツ)】は、最初に発見したプレイヤーが命名できるのだ。


 実は私も何個か命名していたんだ。

阿修羅神乱舞あしゅららんぶ】とか【神殺かみごろし魔葬まそう】とか知らないかな?

 実はアレの命名は、私なんだよね。


 えっ、知らない?

 そして中二病っぽいって?


 そ、それは言わない約束でしょ。


 とにかく騎士の扱うスキルは素敵で、尊(とうと)いんだから。


 ◇


「そこまで!」


 教官の宣言で模擬戦が終了となる。

 ラインハルトとジーク様の二人は、お互いに礼をして訓練を終える。


 あっ、こっちにくる。

 私たちのすぐ目の前にある待機場で、装備していた軽鎧や模擬剣を取り外していく。


「おい、ジーク! 前よりも腕を上げたな⁉」


「ラインこそ。まさかキミが“二段月突き”を、会得していたとは」


「そっちこそ“水流の構え”なんて聞いてなかったぞ!」


「秘密はお互いさまだ」


「あっはっは……そうだな」


 戦いを終えた二人は、何かいい感じで笑みを向け合っている。

 女子には入れない、男同士の雰囲気だ。


 スポーツ漫画とかにある、戦いを終えた後の雰囲気。

 男子同士の熱い友情、"オレたち分かりあえたぜ!”みたいな熱い雰囲気だ。


 とても素敵な光景。

 そして羨(うらや)ましい。

 私も騎士に転生していたら、あの輪に入っていけたのに。


 ん?

 でも、こうして離れている場所から眺めている方が、実は眼福(がんふく)なのかな?


 美しい華は、目で愛でてこそ趣(おもむ)きあり、みたいな。


「ふう……それにしても汗をかいたな!」


「無駄な動きは多いからな、ラインは」


「そういうお前もな、ジーク!」


 あっ……ついにきた!


 ざわざわ……ざわざわ……


 ついに“あのシーン”がくるよ!


 そう……こ食堂(レストラン)で私が言っていた、ゲーム内での注目の“あのシーン”がくるのよ!


 撮影の準備をしないと。

 あっ、でも今の私はカメラとか持っていない。


 スマホのカメラもない。


 そうか……ゲーム内は異世界ファンタジーの設定だから、そんな文明の機器はないのか。残念。


 仕方がない。

 それならこの目(アイ)と脳(のう)に焼き付けておく、準備をしなきゃ。


 二人とも上半身の服を、脱ぎ始めた!


 よし“あのシーン”がくるよ、いよいよ!


「ほら、これで汗をふきなジーク!」


「ああ、悪いな。お前の背中も拭いてやろうか?」


「おい! 変な冗談は、や、止めろ⁉ ジーク、くすぐったいだろう!」


「ほう、冗談じゃなかったら、いいのか、ラインは?」


「いや……ダメだ」


 ――――んんん!


 いい!


 凄くいい二人のやり取り!


 戦いを終えた二人の美男騎士。

 上半身だけ裸になって、汗を拭き合っている。


 神のような尊い光景だよ、これは……・


 何とも言え神々しい光景。


 激しい戦いを終えた青年たちの身体は、軽く赤みを帯び、素肌から湯気がたち、妙に艶(なま)めかしい。


 服の上からだと細身に見えた二人。

 でも脱いだら、かなり鍛えられていた肉体。


 ボディビルダーみたいに無駄な筋肉じゃない。

 研ぎ澄まされた日本刀の機能美みたいな、筋肉美な二人だ。


 そんな二人の美男騎士が上半身を剥き出して、じゃれ合っている。


 あー、これはいいわ。


 想像以上に美しい光景だ。


 私は感動のあまり、魂が抜けた状態になる。


 でも両眼はバッチりオープン。

 脳内にこの神光景を記憶。


 ああ、何度見でも、まさに 神 画 像 。


 あっ、ちなみにゲームでも訓練後の騎士が、上半身を脱ぐ展開はある。


 でも発生確率は、かなり低い。

 でも自分のお気に入りの美男騎士の上半身を見るために、確率なんて気にしているプレイヤーはいない。


 このスペシャル映像を見たいがために、《聖剣乱舞》をダウンロードする乙女も多いのだ。


 むふふふ……いいな、この光景……


 えへへ……


 もちろん、この私とて例外でない。



 ◇


「おい、マリア、どうした?そろそろ戻るぞ」


「……あっ、はい、それでは皆さまで、戻るとしましょうか」


 どうやら嬉しさのあまり、私はしばらく意識を失っていたようだ。

 着替えを終えたラインハルトとジーク様が、目の前に立っていた。


 また、あの神光景がみたいな。

 でも低確率だからこそ、神映像なのかもしれない。


 だから今後に期待しておこう。


 ラインハルトとジーク様は用事があるので、先に行ってしまう。


 残れたのは私とヒドリーナさんの二人だけ。

 二人で雑談しながら宿舎に歩いていく。


「マリアンヌ様、いよいよ明日から、授業もスタートいたしますわね。私、今からドキドキですわ」


「そうでございますわね、ヒドリーナ様」


 ヒドリーナさんの言葉の通り。

 いよいよ明日から本格的な授業がスタート。


 ついに開幕か。

 ここ数日、色々あったけど私も頑張らないとな!


 ん?

 アレ?


 私はとても重要なことを忘れているような、気がする……。


 うーん、何だっけな?


 まあ、いっか。

 後で若執事のハンスにでも、聞いておくか。


 とにかく今は美男騎士の映像で、お腹がいっぱい。

 明日からの毎日の生活も、楽しみて仕方がない。


 『乙女ゲームの世界も悪くないかも』


 改めてそう思いながら、私はヒドリーナさんと歩いていくのであった。



 ん?


 でも、やっぱり忘れているような……。


 “パートナー騎士”を選び忘れていたとか、そんな感じの話を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る