第5話《顔合わせ会》に潜入

 前世の記憶を取り戻した私は、ゲームのメイン場となる聖剣学園に入学。


 悪役令嬢としての死亡フラグを折るため、裏ワザ狙いで主人公の元に向かう。


 でも幼馴染なオレ様系のイケメン騎士ラインハルトに、邪魔をされちゃう。


 お蔭で主人公と会えず。


 次なる作戦の場、騎士との《顔合わせ会》で絶対に主人公ちゃんを見つけないと。


 ◇


 庶民宿舎での一件から、少し時間が経つ。


 私マリアンヌは若執事ハンスの待つ、自分の寮室に一旦帰還。


 着替えや化粧を直す。


 よし、これ準備はOK。


 いざ、次なる戦場である《顔合わせ会》にいくぞ。


「ここが騎士様との《顔合わせ会》の会場なのですわね」


 ハンスをお供にして、私は会場に到着した。

 ここは学園の中にある大きな建物一つ。中にある“騎士の間”という大広間だ。


「随分と賑やかなところね?」


 会場に入って、ちょっとビックリした。

 広間は相変わらずの豪華なゴシック様式。


 そして広間を華やかに飾っているのは、数百人の若い男女。


 華麗なドレスで着飾った令嬢。

 聖剣学園の制服のイケメン騎士たち。


 色彩美に溢れた圧倒的な迫力。

 まるで映画に出てくるような優美な光景だ。


「それにしてもハンス。早くも混雑しておりますわね、ここは?」


「さようですね、マリアンヌ様。何故なら《顔合わせ会》すでに始まっておりますからです」


 うつ……こいつ、痛いところ突いてくるな、本当に。


 そう――――私は《顔合わせ会》に遅刻しちゃったのだ。


「お嬢さまの準備が、もう少し早く済めば、間に合ったのですが」


「し、仕方がありませんわ。何しろ大事な騎士の皆様との、初の顔合わせ会なのですから。身だしなみは大事ですわ」


「…………」


 無言で私にプレッシャーを与えてくる、若執事ハンスの言葉は間違っていない。


 今回の遅刻の原因は、完全に私。

 お化粧直しや着替え選ぶのに、手間取っていたからだ。


 でも、遅刻といっても、ちょっとの時間でしょ。


「…………」


 そ、そんな目で見ないでよ、ハンス。


 だって《顔合わせ会》は運命の“パートナー騎士”を選ぶ、大事なイベント。


 誰だって自分を素敵に、見せたいと思うでしょ?

 普通の女の子だったら。


 だから、少しの遅刻も仕方がない?


「………………」


 いや、すみません、ハンスさん。


 やっぱり、どんな理由があっても、遅刻はよくないね。

 特に今回は自分の死亡フラグを、回避しなきゃいけなかったのに。(反省)


 よし、ハンスに目線で謝ったところで、気持ちを転換。


 《顔合わせ会》に参戦するぞ。


「それではマリアンヌお嬢様、この会場内にいる騎士様の中から、“パートナー騎士”をお選び下さいませ」


「そうですわね。任せてちょうだい」


 遅刻はギリギリセーフ。

 ちなみに《顔合わせ会》の流れは、ゲーム的に説明すると次のような感じだ。


 ――――◇――――◇――――


 1:この“騎士の間”には、私マリアンヌを含めて、指揮官適性のある新入生の乙女が百人近く集まっている。

 ↓

 2:騎士適正のある美男騎士も数百人いる。

 ↓

 3:あとはカップルマッチングみたいに、最初の相棒“パートナー騎士”を探す。

 ↓

 4:基本的に指名権は、指揮官である乙女が持っている。あとは騎士と契約を結び、無事に完了となる。



 ☆基本的には私たち指揮官一人に対して、最初に契約する騎士は一人だけ。

 でも学園生活をしていけば、契約する騎士の数は段々と増えていく。


 ☆最初のパートナー騎士は、補正が付くので最初から強くなる。自分との相性も考え、慎重に選ぶ必要がある


 ――――◇――――◇――――


 ゲーム的に説明すると、こんな感じだ。


 ハンスに聞いてみたところ、実際の《顔合わせ会》もほとんど同じ。


 うーん、不思議。

 この世界はリアル世界だけども、こういう設定だけ妙にゲームしてる。


 まあ、乙女ゲームの世界の中? だから仕方がないかも。


 あんまり気にしないでおこう。


 あと最初の“パートナー騎士”のことを、もう少し簡単に説明しておく。


 わかりやすく説明すると、"ポケットモンス○ー”の最初のアレだ。


 はじめのお供のポ○モンを、三匹のうちから一体だけ選ぶ感じかな。


 それがイケメン騎士になった感じ。


 とにかく私たち乙女な指揮官は、直接的な戦闘能力を持たない。

 だから敵と戦うには、彼ら騎士の戦闘力が必要。


 あと騎士たちも、私たち乙女な指揮官の補正がないと、本来の力が出せない。

 お互い支え合って、これから敵と戦っていく感じだ。


 あっ“敵”に関しては、今度ゆっくり説明するから。


 私はこれから主人公ちゃんを、探さないといけない。

 一刻も早く友好的に挨拶して、私の死亡フラグを消去しないと。


 それじゃ、さっそく、この男女数百人の中に突撃じゃ!


「これはバルマン侯爵家のマリアンヌ様!」


「マリアンヌ様、ご無沙汰しております!」


 でも、私の突撃は、第一陣で防がれてしまう。

 私の前に数人の騎士たちが、立ち塞がってきたのだ。


 えーと、彼らは、たしか。

 美男騎士の人たちで、あんまりメインではない人たち。

 ゲーマーとしての私も、そこまで印象はないキャラたちだ。


 あとマリアンヌさんの令嬢としての記憶だと。

 彼らは貴族のダンスパーティーや晩餐会で、面識がある人たちだ。


「これはご機嫌、麗(うるわ)しゅうございますわ……」


 マリアンヌさんの記憶と私のゲーマー記憶。

 二つを組み合わせ、彼らの名前を思い出しながら、こちらも丁寧に挨拶をする。


 本当は全員無視して、早く主人公ちゃんを探しに行きたい。

 でも今の私は貴族令嬢。

 お家のためにも一応は挨拶されたら、返事をしていかないと駄目なの。


 あと私が名前を忘れてしまった時も、大丈夫。

 陰のように控える若執事ハンスが、そっと耳打ちをして教えてくれる。


 暗記帳みたいで、すごく助かる。


 なんでも全ての貴族と騎士の名前と顔を、ハンスは暗記しているという。

 自分と同じくらいの年なのに、こいつは本当に超有能だ。


 まぁ、でも少し堅物で小言が多いのが、玉にキズかな?

 小言を言わなければ、けっこういい男なんだけども……というか、かなりの美形かな、うちのハンス?


 あっ、やばい。

 またハンスに睨まれたので、ちゃんと騎士たちに返事しないと。


「オッホッホ……それではわたくしは、先約があるので失礼いたします」


 挨拶してきた騎士たちとの挨拶は、適度(適当)に済ませておく。

 よし、これで自由の身になれた。


 あとは早く主人公ちゃんを探さないと。


 うーん、それにしても凄い人の数。

 この中から、たった一人の女の子を見つけるのは、かなり難儀だな。


 それにしてもこうして眺めていると、騎士たちは本当にイケメンだらけだ。

 さすが美男騎士という名称だけあって、皆さん素晴らしいお顔の持ち主。


 圧倒的なイケメン集団の圧力。

 前世の私だったら、間違いなく足がすくむ状況だ。


 でも今は大丈夫。

 マリアンヌさんの令嬢パワーで、平然していられるのだ。


 それにしても、こうして考えるとマリアンヌさんって、かなり有能かも。

 どんなイケメンに迫られても、さっきから平然としている、男子の受け流しも上手い。


 そういえばマリアンヌの家族の男性陣は、全員いい男だらけ。

 もしかしたら“イケメン耐性”があるのかもね、マリアンヌさんには。


 ふう……それにも、主人公ちゃんが、なかなか見つからないな。


 もう少し奥の人だかりを、確認に行きたい。

 けど私があんまり動けば、また騎士に捕まっちゃう。


 あっ、そうだ。

 こんな時はウチの有能な若執事に、動いてもらおう。


「ハンス、お仕事よ。この会場の中で“違和感がある”乙女な子を、探してちょうだい」


「“違和感”ですか、お嬢様? 具体的には、どのようなですか?」


「視界に入れば、すぐに分かると思いますわ。その子は」


「……かしこまりました。では、探してまいります」


 私の曖昧あいまいな指示に、ハンスは何かを察して動いてくれる。


 普段は私に対して小言が多い若執事。

 でも幼い頃からの付き合いであり、彼は執事の中でも有能。


 私の言葉の意味を理解して、きっと主人公ちゃんを探し出してくれるはずだ。


(早く見つかるといいな……"あのイベント”が起こる前に、早く主人公ちゃんに接触しないと……)


 気持ちが焦る。

 とりあえず自分でも会場内を動き回る。


 でも、やっぱり動き回ると、騎士たちに捕まってしまう。

 マリアンヌさんの令嬢スキルで、何とか受け流して、また捜索再開。


 うーん、でも、やっぱり、なか見つからないなー。


「マリアンヌお嬢様、あちらに対象者おりました」


 ハンスが戻ってきた。


 おお、ナイスタイミング!

 さすがウチのハンスは有用だ。ありがとう。


「では、その者の所まで案内してください、ハンス」


「承知いたしました。ですがお嬢様、"あのような者”と会ってどうする、おつもりですか?」


「それはアナタには関係はありませんわ。さぁ、案内を」


「……承知いたしました」


 ハンスが渋る理由は、分かっている。

 何故なら主人公ちゃんは、私とは身分が圧倒的に違う。


 普通は上級貴族である侯爵令嬢から、庶民には挨拶にいかない。

 たとえ学園の校則で生徒は平等とあっても、それはあくまでも名目上。


 この世界では身分の差は、予想以上に大きいのだ。


「ハンス、これからわたくしがその子に、どんなことをしても、アナタは絶対に口を挟んではいけませんわよ? よろしくて?」


「……承知いたしました」


 ハンスに釘を刺しておく。

 これから私は主人公ちゃんに、令嬢らしからぬ態度で会いにいく。


 どんな手段を使って、たとえ土下座をしてでも、私は死亡フラグを回避するのだ。


「お嬢様、あの集団の中です、目的の方は」


「わかったわ」


 ようやく到着した。

 主人公ちゃんがいる場所に。


 ん?

 でも、何かがおかしいぞ。


 ハンスの指さすに先には、かなりの人だかり。

 すごく騒然としている。


 何かあったのかしら?

 ちょっと険悪な空気がする。


 あの人の輪の中で、何が起きているのかな?

 ちょっと近づいて確認してこよう。


 野次馬根性を発動だ。


「失礼いたしますわ。わたくしを通していただいて、よろしいかしら?」


「ん? なんだと、後ろから無礼な……あっ⁉ こ、これはバルマン侯爵家のマリアンヌ様。大変失礼いたしました!」


「マリアンヌ様、どうぞお通りください」


 上級貴族の身分は、こんな時はとても便利。

 群がっている人たちは、みんな私に道を譲ってくれる。


 みなさん、ありがとう。

 ごめん、あそばせー。


 さて、お蔭さまで、何とか騒ぎに近づけた。


 うーん、でも、前の人が邪魔で、まだ見えないな?


 本当に、この騒ぎ、いったい何が起きているのであろうか?


 あと主人公ちゃんは、この輪のどこにいるのかな?


「……ん? あれは?」


 そんな時。

 私は気が付く。


 この騒ぎの中心人物を。

 輪の中心にいたのは、一人の少女であった。


 豪華絢爛ごうかけんらんなこの場に似つかわしくない、みすぼらしい格好の女の子だ。


(あれは……主人公の……ジャンヌ……ちゃん?)


 彼女の愛称のテンプレ名、思わず心で叫ぶ。

 あの浮いた雰囲気は、間違いない


(ようやく見つけた! よかった! あれ? でも、この騒ぎの中心って、あの主人公ちゃんなの⁉)


 こうして《聖剣乱舞》の主人公を、私は無事に発見するのであった。


 ――――あっ、でも、この騒ぎの状況は、明らかに無事にじゃない感じかも。


 どうしよう……。

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