第4話壁ドンなオレ様
前世の記憶を取り戻した私は、ゲームのメイン場となる聖剣学園に入学。
悪役令嬢としての死亡フラグを折るため、裏ワザ狙いで主人公の元に向かう。
でも、そんな前に立ちはだかるのは、オレ様系のイケメン騎士だ。
◇
今、私は絶賛“壁ドン”され中。
「マリア、なぜオレ様の呼びかけを、無視したんだ⁉」
相手は赤髪のイケメン騎士。
長身のすらりとした青年で、年齢は自分と同じくらい。
少し気が強そうで顔立ちは、"超”がつくほど整っている。
ひと言で説明するなら。――――“オレ様な超イケメン”だ。
男子だけど、若手のハリウッドスターも真っ青な美形。
切れ長の瞳は、陽の光を浴び美しく輝いている。
あっ、まつ毛もかなり長い。
もしかしたら、女である自分よりも長いかも。
でも悔しさすら感じない、完璧な美形だ。
(これがあのラインハルト= ヘルトリングか……)
私はこの美男騎士に“二つの面識”があった。
一つは令嬢マリアンヌの幼馴染として、この人との過去の記憶。
もう一つは乙女ゲームのメイン登場人物として、私のプレイヤーとしての記憶だ。
「おい、マリア、聞いているのか⁉ さっきから、どこを見ている。」
ラインハルトは私の目を真っ直ぐ見ながら、再度問いてきた。
壁ドンは絶賛続行中だ。
それにしても、顔が近い。
憧れのイケメン騎士からの壁ドン。
このまま天国に行ってもいいくらいに、幸せな状況だ。
えー、ごほん!
でも、私は心の中で咳ばらい。
やっぱりここで死ぬのは嫌。
だから確固たる意思で、この人に対応しないといけない。
自分の死亡フラグを、早く配収しに行くために。
「……聞こえております。ですがその前に、この手をどいてくれませんか? ラインハルト様?」
私マリアンヌは
表情ひとつ変えずに、かなりクールな感じ。
でも中身の私は、心臓がバクバク中。
相手に動揺を悟られないように、平静さを装っていく。
ちなみに超イケメンを目の前にしても、私マリアンヌは表面上クールを保てる。
マリアンヌ自身がこの十数年間で培った、令嬢スキルなのであろう。
助かります、マリアンヌさん。
「"ラインハルト様”だと? なんで、そんな他人行儀でオレ様を呼ぶ⁉ 昔みたいに“ライン”の愛称で、なんで呼ばないんだ、マリア⁉」
ラインハルトは不機嫌そうに、怒って訪ねてくる。
でも私マリアンヌは知っている。
この人は本当に怒っている訳ではない。
オレ様キャラだから、これが地の口調なのだ。
「私たちはもう、あの頃の幼子ではありませんわ。それに、人目もありますから」
「ちっ……野次馬どもか」
いつの間にか周囲に、野次馬が集まってきていた。
彼らはこの学園の生徒たち。
何事かと思って、こちらを遠巻きに見てくる。
「この場で、これ以上の騒ぎは、お互いの家名のためには、よろしくなくて?」
ここは庶民用の宿舎の玄関で、私たちは貴族令嬢と騎士。
明らかに違和感がある状況だ。
「くっ……そうだな」
ラインハルトはオレ様系だが、バカではない。
状況が悪化するのを恐れ、壁ドンを止めて、私から距離をとる。
あっ……壁ドンが終わっちゃった。
なんか、もったいない気もするけど、これで私も開放された。
ここから脱出するために、更に口撃をしかける。
「あと、ここは栄光ある聖剣学園の敷地内。今後もお気をつけてくださいませ、ラインハルト様」
「ああ、そうだな」
聖剣学園は校則により生徒の身分は、基本的に平等とされている。
だから上級貴族の嫡男であるラインハルトも、自分の領内とは違い
「あと、あの頃とは違い、私たちは成人済み。先ほどのような軽率な真似は、今後はお気つけてください」
「……わかった」
悪役令嬢としてのマリアンヌの毒舌は鋭い。
ラインハルトは急にシュンとなる。
可愛い子犬のような顔だ。
「では、ラインハルト様。
だが今がチャンス。
私はこの場を立ち去る。
あー、でも本音を言うなら、この場にもっといたよ!
だって死ぬほどやり込んだ乙女ゲーム。
その主要キャラであるイケメン騎士ラインハルトの実物が、目の前にいるのだ。
個人的にはもっと、壁ドンして欲しい。
リピート機能で連打して、あと百回ほど壁ドンして欲しいぞ。
うっ……でも、今は心を鬼にして我慢。
だって、ここで時間を浪費するのはマズイ。
私は早く主人公ちゃんの部屋に、行かないといけない。
主人公ちゃんと友好的な初対面を済ませて、自分の死亡フラグを消去しないといけないのだ。
「……マリア、さっきは悪かったな。だが、この後の騎士との顔合わせ会では、オレ様のことを指名するのだろう? “パートナー騎士”として?」
叱られた子犬モードから、ラインハルトは復活する。
さすがオレ様キャラ、復活はやっ!
立ち去る私に向かって、ラインハルトは声をかけてくる。
仕方がないので、私は後ろを振りかえって答える。
「あなた様を“パートナー騎士”に、私が指名しない可能性もありますけど? そのことは考えていないのですか、ラインハルト様は?」
「いや、お前は必ずオレ様を指名する! オレ様にはそれが分かる!」
すご過ぎる自信だ。
いくら私マリアンヌと幼馴染とはいえ、ここまで断言しちゃうのは流石だ。
でも不思議と嫌味はない。
これがオレ様系男子のカリスマ的な魅力なのであろう。
実際に対峙する本当にたいしたもの。
でも今の私は後ろ髪を引かれている場合はない。
「では、その自信が折られないことを、心より祈っておりますわ。では失礼いたします」
マリアンヌ的な毒舌を言い残し、私はその場をすっと立ち去る。
とにかく今は急がなと。
かなり後ろ髪を引かれつつ、私は主人公ちゃんの元へと向かうのであった。
◇
だが時は遅し。
私はやってしまった。
なんと主人公ちゃんは既に部屋にはいなかったのだ。
おそらくは私がラインハルトに捕まっている間に、騎士との顔合わせ会場に向かったのであろう。
うわー、これは私の大失態。
いや、ラインハルトの責任だ。
あんちくしょー。
とにかく私も急いで準備して、主人公ちゃんを会場に探しに行かないと!
早くしないと私の死亡フラグが立っちゃうよー。
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