第3話いきなり最大のフラグを狙う

 前世の記憶を取り戻した私は、乙女ゲーム《聖剣乱舞》のメイン場所である学園に到着。


 午前の入学式は簡単な感じで、短め終わった。

 昼食をとってスケジュールは、午後の部へと移行していく。


 私は若執事ハンスを後ろに従えて、校内の移動をする。

 同時に学園の様子を観察。


 今後のために情報収集だ。


(ここが……あの聖剣学園か……)


 歩きながら感動に浸っていく。

 前世の私が通っていた日本の学校と、この学園がまるで違う。


 ゴシック様式風なの豪華な建物内は、ヨーロッパの大聖堂のようなに重厚感。

 いたる所に絵画や彫刻が立ち並び、美しいステンドグラスなんかもある。


(それにしても、凄い広さ……)


 ファルマの街の三割を占める、広大な学園の面積。

 敷地内には何でもある。


 男女別々の宿舎にコンサートホール、温室庭園。

 騎士の訓練のための闘技場や、社交ダンスや晩餐会をおこなう迎賓館など、巨大な建物もある。


 それ以外にも庭園や水辺がある森、自然も豊富で建物と調和している。


 うーん、これは凄いな。


 ここまで規模が大きいと学園というより、小都市に近いかもしれない。


 とにかく広大な聖剣学園は、色んな楽しそうな所がいっぱいあるのだ。


 ◇


 そんな感じの学園探索で、だいたいの地理は把握できた。


「マリアンヌお嬢様、そろそろ散歩も終わりにいたしましょう。今日はこの後、騎士の方々との顔合わせがありますので」


 若執事ハンスが、私の午後のスケジュールを告げる。

 時間が差し迫ってきたのだ。


「わかりましたわ。ハンスは顔合わせ会の準備をしてください。わたくしは一人で、もう少し学園の中を、散策してきます」


「一人で散策を……ですか? マリアンヌお嬢様が?」


 ハンスは目をスッと細めて、鋭く問いかけてくる。


 普段のマリアンヌは、絶対に一人では散歩などしない。いつも従者と一緒。

 だから言動を不審に思っているであろう。


「ええ、一人で結構です。何か問題でもあって、ハンス?」


「……かしこまりました。ではお気を付けて」


 ふう……危なかった。


 どうやらハンスの目を誤魔化せたようだ。


 こいつはイケメンのクセに神経質で、無駄に勘が鋭い。

 有能だけど、本当に危険な男だよ、まったくさ。


「では、後は頼みましたわよ」


 侍女たちに指示を出しておく。

 私が住むことになる寮へ、荷物の搬入をしてもらう。


 これで少しは時間が稼げるであろう。


「よし……これで一個目の死亡フラグを、折りに行ける」


 こうして私は作戦の実行に移るのであった。


 ◇


 口うるさい若執事から逃れ、私は“ある場所”へ急ぎ向かう。


 目的は自分の死亡フラグを回避する為に。


(本当、このマリアンヌは、死亡フラグが沢山あるから、根本を何とかしないと……)


 移動しながら、この身マリアンヌの設定を思い返す。


 マリアンヌ=バルマンはまさに悪役令嬢の鏡のような存在。

 どんなルート選択をしても、彼女は成敗されてしまう。


 冷静になって考えると、本当に可哀想な存在。


 でも、まぁ、私も実際にプレイしていた時は、彼女を成敗していた。


『よっし! 憎きマリアンヌを成敗じゃ! いまこそ天誅じゃ!』と私も気分よく、成敗しまっていたもんだ。


 とにかくゲーム中のマリアンヌは厄介な存在。

 主人公の前にゲーム開始当初から登場し、何かと邪魔してくるのだ。


 上級貴族の権力を使い、身分の低い主人公を徹底的におとしめてくる


 あれはライバルというよりは、もはや姑(しゅうとめ)。

 あと職場に一人は必ずいる、嫌なお局様な先輩だ。


 だから、どんなルートを通っても、マリアンヌの周りからは人が離れていく。

 最終的には主人公側の勢力が大きくなり、悪役令嬢マリアンヌをみんなで断罪するのだ。


 とにかくマリアンヌは最初から、主人公に攻撃を開始。

 その後は数多の分岐ルートで、更にエスカレートしていく。


(でも、ということは『最初のイベント』さえ、潰しちゃえば、何とかなるはず! これから行われる騎士たちの顔合わせ会……あの最初のイベントさえ無事に回避できたら、私マリアンヌは大丈夫よね!)



 私が今から行おうとしていることは、裏ワザの一種。

 《聖剣乱舞》のストーリーを思い出しなら、私が自分で編み出した作戦だ。


 ちなみにゲームの序盤では次のような感じで、強制的にストーリーが展開してゆく。


 ――――◇――――◇――――


 1:庶民な主人公の少女が、才能を見出されて学園に入る。

 ↓

 2:貴族だらけの場違いな学園に気後れしながらも入学。

 ↓

 3:午後の騎士との顔合わせに参加。

 ↓

 4:そこで貴族令嬢たちから、身分のことを馬鹿にされる。悪役令嬢マリアンヌに口答えをして、彼女と対立してしまう。《ここまで開幕強制イベント》

 ↓

 5:その後、悔しさをバネに主人公は努力重ねていく。心優しい他の美男騎士たちと、親交を深めて仲間を増やしていく。

 ↓

(中略)

 ↓

 ☆:マリアンヌを断罪。もしくは物理排除。またはマリアンヌ地獄の穴に自滅。


 ――――◇――――◇――――


 序盤はこんな感じ。

 マリアンヌとの対立までは、強制イベントなのでゲームでは絶対に回避不能。


(でも、今の私なら……)


 この後に行われる

 《4:主人公は貴族令嬢たちから、身分のことを馬鹿にされる。悪役令嬢マリアンヌに口答えをして、彼女と対立してしまう》

 のことを知っている。


 だったら最初のフラグが発生する前に、根本を折ってしまえば、生存率は上がるのだ。


 これが私の考えた裏ワザで、バク技。

 この乙女ゲームをやりこんだ私だけの、必殺の計画なのだ。


(そのためには主人公ちゃんに、早く会いにいかないと……)


 だから今、私が向かっているのは、主人公ちゃんの元。


 目的は有効度を高めるため。

 私の方から友好的な態度でいけば、必ず主人公ちゃんと仲良くなれるはず。


 それさえクリアしてしまえば、あとは何とかなるだろう。


『ストーリーとイベントが開幕する前に、主人公ちゃんと仲良くなっちゃう作戦!』


 これは私の編み出した最大で最強な、全フラグへし折り生存作戦だ。


 ◇


(あっ……あそこが、たしか庶民用の女性宿舎よね……)


 目的の場所が見えてきた。

 庶民用の宿舎、主人公ちゃんが住むことになる場所だ。


 最初のストーリー的に、彼女は今あの建物の中にいるはず。


 この後は彼女を呼び出して、友好の笑みで親交を深める。


 よし、作戦は完璧。


 令嬢である自分から挨拶にいけば、主人公ちゃんも感じてくれる。

 私の想いが普通じゃないと、きっと理解してくれるはずだ。


 私と主人公ちゃんの相性は良い。


 何しろ私の前世は平凡な日本の女の子。

 考え方と会話も、あの主人公と合うだろう。


 最終的には、私の前世の秘密を話して、彼女に助けてもらうのもいいかもしれない。

 主人公ちゃんは正義感にあって、困った人を見捨てることば出来ない性格。


 誠心誠意で話していけば、必ず私の味方になってくれるはずだ。


 よし……作戦と覚悟は決まった。


 いざ、主人公ちゃんのいる宿舎の中に突入だ!


「マリア!」


 そんな時だった。

 後ろから誰かに、呼ばれたような気がする。


 でも無視する。

 何故なら今の私は忙しい。


 主人公ちゃんの元に、一刻も早く行くのだ。


「マリア! おい、マリアンヌ!」


 更に背後から声がする。

 だんだん近づいてくるような気がする。


 かなりイケメン風な美声のだけど、心を鬼にして無視。

 後ほど戻って来て、対応しますから悪しからず


「マリア! 無視するな!」


 宿舎の玄関に入ろうとした、その時だった。

 声が真後ろから来た。


 そして私の顔の真横に“ドン”の衝撃音がきた。


(これは……まさか伝説の“壁ドン”⁉)


 なんと私は“壁ドン”されてしまった。

 先ほどからの声の主がしびれを切らして、私の進行方向を“壁ドン”で止めたのだ


 私はおそるおそる“壁ドン”の主の顔に、視線を向ける。


「ラ、ラインハルト……様?」


 “壁ドン”してきた青年の名を、私マリアンヌは口にする。

 彼女の記憶で、よく知っている青年だった。


 正式な名は“ラインハルト= ヘルトリング”


 私マリアンヌの幼馴染幼であり、そして聖剣学園の騎士な一人。


「おい、マリア! なんで、さっきからオレ様を無視しているんだ!」


 そして作中では“オレ様担当”のイケメン美男騎士だ。

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