第25章…一途


なんだか見てるこっちまで緊張してくる

気まずいのか?それとも話したくないのか?

千尋は翔を捨てれないなんて言ってたけど

本当はどうしたいのかはわからない

この後の千尋を見てよう


玄関に入ると

ごく普通の一軒家だった

新しい千尋の家かー


「今お母さんもお父さんもいないから

とりあえず適当に座ってて」


3人は中に入ってリビングに入る


「じゃあ座っててー麦茶出すから」


「あー!いい!妊婦さんに無理は禁物!」


結衣は立ち上がる千尋を止めたが


「全然動けるから大丈夫!

お客は座ってなさい!」


千尋は結衣を無理矢理座らせた

まだ翔は黙ったままだ


「お父さんたちいつ帰ってくんの?」


俺が千尋に聞く


「もうすぐで帰ってくると思うよ?」


そう千尋が言うと

千尋は翔に視線を移した


「で、何の話?」


千尋は一気に顔が真剣な表情に変わる


「まあ、翔の話を聞いて欲しくてさ」


俺が言うと


「いや、まずさ

なんで私が話振らないと話してくれないの?」


千尋はわりとガチなトーンで翔を睨んだ


「いや、だって翔も久しぶりだし

多分反省してるんだろうしさ」


俺も翔をフォローするように言う

すると千尋は


「久しぶり?反省してる?

そんな言葉だけで許せるようなことじゃないでしょ?

色んな事情は聞いてるよ

でも今ここに来たなら言わなきゃいけないことまず言ってよ

何のためにここに来たの?」


千尋は翔に向かって言う

これはもう2人で話してもらうしかないな

翔はやっと重い口を開いた


「本当に悪かったと思ってるよ」


翔は声を震わせながら言う

千尋は腑に落ちない表情


「私は翔の考えてることがわかんない

いなくなるなら一生いなくなってほしいよ

謝ってもらいたいわけじゃない

どうしたいのか、なんでここまで来たのか教えてほしいの」


「……それは」


千尋が言った後翔は一瞬ためらう

その瞬間だった


ガチャ


また玄関が開く音が聞こえる

スタスタと歩く音が聞こえる

誰か来るのか?

千尋の話も途中で止まった

リビングのドアがゆっくりと開く


そこには千尋のお父さんが居た


「……お父さん…」


千尋もこの状況の中で入って来たことに動揺を隠しきれない


「ただいま」


後ろには千尋のお母さんがいる


「ん?空君と結衣ちゃん?

なんでここにいんの?」


千尋のお父さんはわざと翔の名前を呼ばなかったような気がした


「わざわざ来てくれたの

ほらもうすぐ産まれるから」


「おぉー!わざわざありがとー!

ほら、たこ焼きいっぱい買って来たから食べてくれ」


テーブルに並べられたたこ焼きの数

多分40個くらいある


「わー!すごい!食べていいんですか?」


結衣は嬉しそうに千尋のお父さんに聞く


「いっぱい食べて」


なんで結衣は食ってばっかなのに太らないんだろう

まあそんな話は置いといて

みんなでたこ焼きを頬張る中

翔だけは食べなかった


「翔君?食べな?」


千尋のお父さんは優しく翔に言う

千尋のお父さん、案外怒ってないようだ

普通に優しくしてるところを見て親子共々いい人だなと思う


みんな静かになる

結衣もこういう時は空気を読んでいるのかあまり騒がない

そして翔はたこ焼きを一口も食べずにまた黙る

空気が重いけど和ませるわけにはいかなかった


翔……


それじゃまた逃げてるんだよ

お前から話さないとダメだろ

俺は翔を見て思った


「翔君……」


千尋のお父さんが翔を呼ぶ


「はい」


返事をする翔


「君は何しに来たの?」


千尋のお父さんが言う

翔は少し間を空けてから言う


「謝りに来ました」


「それだけ?」


優しい表情だった千尋のお父さんが顔を変えた


「はい」


翔は素直に返事をする


「じゃあ聞くけど

仮に謝ったとして何が変わるんだ?」


「まだわからないです」


「まだわからない?」


千尋のお父さんはバッと立ち上がり

翔の胸ぐらを掴んだ


「ふざけんじゃねーぞ!!

俺の娘がまだ若いのに子供出来てるんだぞ!!

無責任なこと言ってんじゃねー!!」


「ちょっと!やめてよ!」


胸ぐらを掴んで怒鳴った千尋のお父さんを全力で千尋が止める


「あんた!いい加減にしなさい!

相手はまだ高校生よ!?」


千尋のお母さんがお父さんに言うと

胸ぐらを離して座る

翔の顔は覚悟を決めているような気がした

深呼吸をしてから千尋のお父さんは話を続けた


「まだ君は高校生だからわかんないと思うけど

大事なものなら自分がどうなったって構わないってくらいじゃないとダメなんだよ

責任取れないならもう二度と顔を見せるな!」


翔はすぐ立ち上がり

床に手の平と膝をつきそのまま頭を下げる


「本当にすいません!!」


翔は大きな声で謝った


「だから謝るだけで済む問題じゃねーんだよ!

今すぐ出てけ!!」


翔の胸ぐらをまた掴み

千尋のお父さんは翔の顔面を思い切り殴った


「お父さん!やめてってば!」


また千尋は止めに入るが

千尋のお父さんは千尋を突き放し


「千尋はな!俺のたった一人の大事な娘なんだよ!

いつも俺が迷惑かけても我慢してくれるめちゃくちゃ優しい子なんだよ!

お前に俺と千尋の気持ちわかるか!?」


千尋のお父さんは翔に向かってそう言うと

千尋は途端に涙を浮かべる


「本当にすいません」


まだ翔は謝り続ける


「まだ言うのか!」


「お父さんやめてってば!」


千尋がまた止める


「千尋はいいから座ってろ!」


「違うの!お父さんが来る前に翔が言いかけてたことがあるの!」


千尋がそう言うと

千尋のお父さんは体の力を抜き


「言おうとしてたこと?」


「そう、だからその話を聞いてあげて?」


千尋のお父さんは椅子に座り


「なんの話?」


と冷静に言う

翔は椅子には座らず正座で話した


「僕は…千尋たちと離れた後

ずっと千尋のことを考えてました

今お腹の子が何ヶ月かとかも知ってます

どうでもよくて離れたわけじゃないけど

責任取れないまま一緒にいる方が辛いと思ったので離れました」


翔の本音だ

昨日話したことの内容だろうな


「謝っても無駄なことくらいわかってます

ただ、ここまで来たからには僕の本当の気持ちを知ってほしいです」


翔は一瞬千尋に視線を移しまた下を向く


「千尋のことは今でも好きです

小学校の頃からずっと、

別れるための理由を作るために小3の頃から好きだったのは嘘だって言いましたけど

それも嘘です、ずっと好きでした

千尋と付き合ってからの1年間

本当に幸せでした

だから今ここに来たからにはけじめをつけようと

新しい決心をします」


また翔は千尋に視線を移す

今度はずっと千尋を見ていた


「父親の借金返済するまで

何年かかるかわかんないけど

もし、信じてくれるなら…

“また一緒に居たい”」


翔がそう言うと

千尋は溜めていた涙を溢れさせた


「千尋のお父さんとお母さんには本当にご迷惑をおかけしました

絶対信じてもらえないけど

俺の気持ちは、まだ千尋と一緒に居たいっていう気持ちしかないです

離れてからやっぱこうしとけばよかったとか

色々思うことはありましたけど

今のこの気持ちは絶対にブレません」


千尋のお父さんも少し下を向いて


「信用出来ねーな」


と、一言言った

翔もそれを承知で言ったはずだ


そして

溜めていた涙を流した千尋は立ち上がり

翔の方へ近づいた


「何で今更そんなこと言うの?」


千尋は未だ涙を止めず


「じゃあ離れる前にもっと話し合える時間を作って欲しかったよ

離れてから気づいちゃ遅い

離れる前にもっと本当の気持ちを聞かせてよ」


千尋が言うと翔も涙を流す


「ごめん、もっと早く気づけばよかった

もっと早く千尋のお父さんにこうやってけじめつけとけばよかった……

後悔しかしてないよ」


翔は千尋の目を見て言う

そして千尋のお父さんも立ち上がって翔に近づく


「まだ高校生だからな

わからないことはたくさんある

けど、責任取れない人間は高校生でもクズ人間だよ

責任とるのに早いに越したことはない

……けど、遅くてもその責任が取れるなら

取っといた方が良いよ

今後君がどうなりたいかが問題だからね」


千尋のお父さんはさっきとは裏腹に少し優しく言う


「はい、借金返せるように働き続けて

それでもたまに千尋と会えるなら会いたいですし

子供にも会いたい……」


「……千尋はどうしたい?」


千尋のお父さんは千尋に優しく言うと

千尋は泣きながら答えた


「私も離れてる期間

翔の事しか考えてなかったよ

戻って来てくれるなら一緒に居たいし

今後会ってくれるなら会いたいし

その言葉に嘘がないなら

“私は信じていたい”

離れてる間、ずっと信じてたんだもん

ここまで来てくれた理由がそれなら翔を信じるよ」


千尋の本当の気持ちを言うと

翔は一気に崩れ落ちるように

泣き出した


「ありがとう……」


翔はそう言って千尋の肩に手を置く

その瞬間だった

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