第24章…再会
かなりでかい工場だった
そこで何が作られてるかはわからない
暴力団のいる工場だよな?
かなり危険な気もする
でもここまで来たからには怖いなんて言ってられない
「行くか」
「うん、工場見学に来た設定でやろう」
無理がある…
中に入ると、早速喫煙所だった
「くっさ!」
「ばか大きな声出すな」
不法進入をしているのと同じだ
とりあえず喫煙所を出る
すると上りの階段と下りの階段が見えた
「なんだよ、二択じゃんか」
「翔が居そうな階段に行こう!
ほら、空犬匂い嗅いで!」
「わかるわけねーだろ!」
空犬ってなんだよ!
そんなことやってる場合ではなかった
「君たち何してるの?」
後ろから聞こえたのは女の人の声だった
や、やばい
「わー!」
結衣も思わず声をあげてしまう
「何してるのか聞いてるんだけど」
振り返ると帽子とエプロンをした20代くらいの女の人が俺らを睨んで居た
「あ、ああー!すいません!
あの!友達を探していて、
申し訳ないんですけど中に入って大丈夫ですか!?」
俺は慌てていたがちゃんと伝えた
すると女の人が
「そうなの?君たち高校生くらいだよね?
もしかしたら内海翔君の友達?」
その人から聞いた言葉はやっぱりここに居たんだと期待感を待たせた
結衣もその人にがっつく
「翔はどこにいるんですか!?」
「圧が強いよ
下の階段降りたら掃除してると思うから見てみれば?」
下の階段か……
「ありがとうございます!」
俺と結衣はお礼を言って下の階段を降りた
この階段を降りたら翔がいる
会いたい気持ちと同時に伝えたい気持ちが交差して俺の足を早めた
「空早いよ!もっとゆっくりしなさい!」
「待ってらんねーんだよ!
置いてくぞ!」
俺は結衣に構わず下に降りた
そして扉をガチャっと開ける
千尋、待ってろ
今から翔と会ってくるから
なんの工場なのかは知らなかった
しかし扉を開けた瞬間
籠みたいのが上に積み上げられて居た
2メートルくらいある籠の列が一気に並んでいる
「何これ」
後から来た結衣の反応が少し怯えている
何が入ってるかは見えない
誰かがいる気配もない
「ここ…本当にやばいんじゃない?」
結衣もビビって俺の腕を両手で掴む
「でも、行くしかないだろ」
俺はそのまま工場内を歩いた
射殺とかされたら俺らはもう終わりだ
でも千尋の願いは叶えたかった
ずっと信じて来た翔と会って
千尋の思いを伝えたかった
そして
工場内の奥の方に人影が見える
「あれって…」
結衣が指差す
あいつは帽子も何もしていないのか
だからすぐに気がついた
モップを持って座ってケータイをいじっている
翔の姿が目に映った
やっと…やっと翔に会えた
どこにいるかわからなかった翔と
久しぶりの再会だ
本当に久しぶりだったから一瞬涙が出そうになる
けど我慢して翔に話しかけた
「久しぶりだな翔」
座っている翔に話しかけると
翔は体をビクッとさせる
「仕事サボってんじゃねーよ!
チクるぞさっきのおねーさんに!」
結衣も翔に声をかける
翔はまるで幻を見ているかのような顔をしていた
「……空…?……結衣…?」
聞こえるか聞こえないかの声で俺らの名前を呼んだ
翔からしてみるとこんなところに俺らがいるわけないと思っているはず
でも理由はたくさんある
「翔、お前に話があるからここまで来たんだ」
翔はまだ固まったままだった
「なんで…ここに?」
翔も色々聞きたいことがあるだろう
「お昼休憩ある?その時で良いから話せる時間欲しいんだけど」
結衣が翔に言うと
また小さな声で翔は言う
「そしたら…昼休憩の時に行くから
外で待っててくれ」
意外と潔かった
昼休憩は12時から1時までらしい
その間まで俺と結衣は外で待つことにする
なんて声をかけたらいいかわからない
結衣も珍しく黙っている
久しぶりに会ったけど明るく振る舞うのは少し違うと思った
事情はあるけど千尋から身を引いたのは俺はどうしても許せなかった
だからこそ今真剣に話し合うべきだと思う
そして12時になる
その間も俺と結衣は一言も話さないままだった
結衣も相当考えていたのかな?
後ろの方から足音がする
「よーーう!2人とも久しぶりーー!」
振り向くと
満面の笑顔で手を振る翔の姿があった
「半年ぶりくらいか!?
いやー結衣ちょっと背伸びた?
空坊は何も変わってないなー
あはっはっはー!元気だったかー??」
すごく陽気に声をかけて翔は俺の隣に座る
相変わらずテンション高めだ
変わっていないはずなのに
なぜか苛立ちを感じてしまう
それは結衣も同じだった
「久しぶりだなじゃないでしょ
あんた今まで何してたの」
結衣も少し怒り口調
でもここは
俺が言いたかった
「結衣、いいよ俺に言わせて」
翔は何故か怒られていることに目を丸くさせている
「お前さ、久しぶりに会ったかもしれないけど
自分のしたことわかってんのか?」
俺が言うと翔は真顔になる
「事情があるのはわかってる
でも、お前がやってることって本当に正しい?
彼女妊娠させて、事情があるから遠くに離れて
で、久しぶりの再会で笑ってて何なんだよ
お前、ふざけてんじゃねーぞ」
俺は今までにないくらい怒りを翔にぶつけた
「俺らは仲良く遊びたいからここに来たんじゃねーんだよ
何なら一生許されないことをお前はやってんだよ
ヘラヘラしてんじゃねーよ!」
俺が強く翔に言う
そう、例え翔の家族のためとはいえ他にもやり方はいくらでもあったはず
逃げたわけじゃないのはわかるけど千尋のためじゃない
「……ごめん」
下を向き頭を下げる翔
俺もとりあえず落ち着かせる
「事情は聞いたよ、お前、暴力団と関わりあるんだろ?」
俺は翔の事情は聞いたけど
本人の気持ちを知らないままでいた
だからこの話し合いで知りたかった
「……暴力団が来たのは本当だけど
連れてかれたとか、暴力団と一緒に働いてるわけじゃないよ」
翔は自分の口で真実を話してくれる
「……そうだったのか」
暴力団と関わってるわけではないのか?
翔は続ける
「あぁ、借金返せないままだったからな
金融会社の人が呼んで俺の母さんを脅したんだ
何もされてないけどこのままじゃやばいと思ったから
俺が働いて返すって話になって
金融会社の人達が勧めてくれたこの工場で働いてるだけだよ
ヤクザとは何の関係もない、連れてかれたわけじゃない」
俺はてっきり暴力団の工場で働いてるかと思っていた
あのカゴの中身はわからないけど
危ないものではないのかな?
翔のお母さんもテンパって少し大袈裟に言ってしまったのかもしれない
「じゃあ千尋と別れたのはなんで?」
俺が聞くと
「………それに関しては本当にごめん
大阪行くことになったし、責任取れなくなっちゃったから……
こんなの逃げだってことはわかってる」
少し涙を堪えてる様子
翔は嘘ついてまで千尋と別れて黙って大阪にいるわけだ
色々と話を聞いていたが
やはり気になることは一つだった
「それでも千尋のこと今でも好きって言えるのか?」
翔はゆっくりと縦に頷いた
「申し訳ないことしたと思ってる
でも、好きだよ、千尋との思い出は1年ちょっとだけど
簡単に忘れられるわけねーよ」
俺は少し微笑んだ
さすが翔だな
俺の知ってる翔のままでいてくれてよかった
「翔がそれなら話は早いよな?」
俺は結衣と目を合わせる
「なんのために大阪まで来たかはここからが本題だよ」
結衣が翔の肩に手を置く
相変わらず馴れ馴れしいなあと言わんばかりに顔を歪ませる翔だった
「話の本題?」
翔の本音を聞けたから
今でも翔が好きな千尋に会ってほしい
結衣はそのまま続けた
「明日、千尋と会って、千尋のお父さんとも会って話し合ってけじめつけてこい」
「……けじめか…」
めちゃくちゃ後ろめたい気持ちはわかるけど
そうでもしないと翔が最悪な男になる
そうじゃないとわかっているから
そうなってほしくない
翔には会ってほしい
俺は翔の胸の辺りを軽くポンっと拳で叩く
「絶対に見捨てるようなことはするなよ
千尋のためにここまで来たんだ
だったら翔は千尋のために広島まで俺らと一緒に行こうぜ」
また翔はゆっくりと頷く
「ありがとう…
久しぶりに2人に会えてよかった……」
涙を流す翔
それを見た結衣が翔の頭をくしゃしゃにしながら
「まだ本題終わってないんだから泣くなー!
明日大阪駅でまた新幹線乗るから
朝の9時に待ち合わせね」
そう言って結衣は頭をくしゃしゃにした後両手で肩をポンポンと叩いてあげていた
…はん!別にいいけど触りすぎじゃねーかな
なんてふてくされる俺
「おっとー?空君嫉妬しております!」
「してねーわやめろ」
ニヤニヤしながら俺の腕をぎゅっと抱きしめる結衣
「……え?お前ら付き合ってんの?」
翔が目を丸くさせて言った
「あ、そっか知らないんだ
空と付き合ってるの」
結衣はピースしながら翔に笑顔を向けた
「へえーーー変わるもんだなあんなに喧嘩ばっかしてたのに」
「喧嘩ばっかは今でも変わんねーよ」
一通り話した
翔は暴力団に連れていかれたわけではなくて
金融会社の人達が借金の取り立てに来た時に一緒に暴力団も居て
話をした翔は働いて借金を返済することにする
その際に金融会社の人達に勧められたのが大阪にある工場だった
その工場は暴力団とは全く関係なく
あの時のカゴの中身はフルーツがいっぱい入ってただけだったらしい
とにかく翔が危ない仕事をしているわけじゃなくてよかった
「じゃあ明日、翔の気持ちを千尋にぶつけてこい
んで、ケータイはあんのか?」
「おう、ケータイは一応持ってる
前使ってたやつじゃないけどな」
翔のケータイは古そうなスマホだった
そのケータイの電話番号ももらい
「じゃあ待ってるぞ」
「おう、また明日」
俺と結衣は翔を残して去っていった
俺と結衣はまた大阪の街を歩く
「とりあえずさー泊まるところないからカラオケ行って時間潰そうよ」
結衣が言う
まあ確かに時間つぶしにもなるしな
とりあえずカラオケに行く
カラオケの部屋に入ると
俺はソファーに勢いよく座る
「ふぅーーなんか疲れたな」
「ほんとそれ、眠くなって来たし」
結衣はそのままソファーに横になる
「でもさ、空があんなに怒鳴ってるとこ初めて見た
実は怖いんだね」
「まあ感情的になってたしな
いつか結衣にもああやって怒るかもしれないな」
「大人しくしてよーっと」
まあ翔のために怒ったようなもんだ
あいつも無理して明るくしようとしてたけどそうじゃないからな
カラオケのフリータイムで入ったので夜8時までカラオケで歌っていた
泊まるところは……
また満喫になりました
まあ明日は大事な日だし色々考えなきゃいけないから俺もそんな雰囲気にならなかった
シャワーもついててちょうどいいし
俺は店で着替え買ったし
まあラブホは置いとこう
うん、置いとこう…
次の日
結衣は珍しく早くに起きた
「おはよ、珍しいなこんな早く起きて」
「うん、あたしも千尋に会うからね」
予定の時間よりも早かったので余裕を持って行ける
「さあ行こう」
俺らは駅に向かう
駅まで着くと
「よう、昨日ぶり」
翔の姿が見える
俺が手を上げて言うと翔も手をあげる
「さあ!千尋に会ったらまず腹パン一発食らわせようぜー!」
「そんなことしたらぶっ殺す!」
結衣がいつもみたいにボケて俺がツッコミを入れる
相変わらず息がぴったりなのは中学から変わらないことだった
「うわ、懐かしいなその絡み」
翔も半年ぶりの絡みに感動している様子
「そうだろー?まあ翔は今クソ以下のゴミ人間って状況だけど
まあ今日けじめつければまた普通に笑えるようになるよ」
結衣がどストレートに言うと翔は嫌な顔をする
「お前よくこんな暴言女と付き合えるな」
「いやー、手を焼いてるよ俺も」
「いや、否定しろよ!」
まあそのストレートな言葉はたまーに助けられるんだけどな
まだ少し笑っていられる余裕はあった
ただ、千尋に会うまではの話で
会ってからが本当の修羅場だった
千尋には何も伝えてないまま突然家に行くことにしてる
ただサプライズで翔が来るなんてふざけたことも出来ないから
少し前に連絡は一応しておく
翔もいるということを伝えて
新幹線で1時間くらい
広島まで到着した
「さあー!大阪と広島!どっちのお好み焼きが美味しいか食べ歩きしてみたで動画出そう」
「しょうもねーことしてんじゃねーよ」
今日ばかりは時間がない
お好み焼きはまた千尋に会った時でいい
「とりあえず千尋の家まで行こう」
歩いて行く
住所とかあらかじめ教えてもらっていたからすぐに行ける
もうすぐで着くとナビが知らせてくれると
途端に翔の顔が険しくなる
緊張してるんだろうな
そりゃそうか
そして
千尋の家に着く前に
俺は千尋に電話をする
千尋はすぐに出てくれた
「あ、もしもし?」
『おっふぁーい、元気ー?』
元気そうな千尋が懐かしい挨拶をしてくる
「おう、元気だよ
この間結衣と電話してたじゃん?」
『うん、』
「それでさ、千尋がそこに翔が居てくれたらいいなーって言ってたじゃん?」
『うん』
「だからさ、俺ら今翔のところ行って連れてきたんだ」
『はい??』
「今から千尋の家に行くから」
『いやいや、待って何そのホラーみたいな展開
メリーさんじゃないんだからさ!』
「いや、ガチなんだって
翔連れて千尋の家行くから待ってて」
『何それ……』
「じゃあな」
プツンッ
無理矢理切った
確かに急すぎるが説明する暇もなかった
もう千尋の家の目の前にいるから
千尋の家は一軒家
「ふぅーー着いたー
千尋に会えるー翔も嬉しいでしょ?」
「………」
浮かない顔の翔
結衣の言葉をそのまま無視して翔は歩いた
千尋の家のインターホンを押す
俺もなんか緊張してきたな
ピーンポーン
インターホンが鳴ると
ガチャっと音がしてドアが開く
「みんな…久しぶりー」
千尋が涙を浮かべながら出てきた
「ちひろぉぉーー!!!」
結衣は千尋に向かって飛びつく
「ちょっと結衣ー痛いよー」
「我慢して!もうちょっとこのまま抱きついてるから!」
半年ぶりに見た結衣と千尋の絡み
なんだか俺も心がほっこりしている
しかし
翔だけは俯いていた
千尋は翔と目を合わせない
「うわーー千尋!お腹大きい!」
結衣がお構いなしに千尋のお腹を触る
「うん、もうすぐで生まれるからね」
もうすぐ
その言葉と共に翔はビクッと体を震わせた
「いやー楽しみだねー!
ほら!子供!千尋のお腹蹴るくらいしろ!」
「もう相変わらずうるさいなー結衣は」
笑いながらも千尋はちらっとこちらを見た
「じゃあとりあえず中入りなよ」
千尋が玄関を大きく開ける
「翔も入ってね」
千尋はやっと翔と目を合わせた
翔も頷く
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