第18章…一緒


◎千尋side◎


着替えよし、メイク道具よし、アイロンよし、

後はトラックで運んでもらえるからよし


今日は引っ越しの当日

もう7年くらいお世話になったこの家ともさよならする

今は朝の6時

だいぶ早起きだから相当眠いけど

あと15分くらいで出発する

空と結衣には本当にお世話になったなー

翔がいなくなってからの数日間

あの2人に支えてもらってばっかだったなー

色んな思い出をくれてありがとう


「千尋ーーもう出発するぞーー」


「はーーい」


お父さんが私を呼ぶ

私は色んな思い出を振り返りながらタクシーに乗った


空とは

一緒に遊んだし一緒に泣いたし

助けてもらって好きになったり

空が居てくれたおかげで

私は今も笑って過ごせている

翔と付き合った時も色々相談に乗ってくれて感謝してる


結衣は

あの子は一見バカっぽく見えるけど

本当は誰よりも考えて行動して失敗してもくじけないで笑って

すごく明るくて素直な子

私が悩んでる時もすぐ駆けつけてくれるし

絶対笑わせてくれる

たまに喧嘩もしたことあったけど

やっぱり、純粋で真っ直ぐな結衣の言葉には敵わなかったりしていた

本当にいい子、もうめっちゃ好き!

親友って呼ぶにふさわしい子だと思うよ


昨日、空と結衣に手紙を書いて渡したけど

本当は手紙10枚くらい必要なほど書ききれなかった

それくらいあの二人への思い入れはある

だから、私はいつも元気でいて元気な赤ちゃんを産むからね


東京駅に着く

私は泣くのを我慢して新幹線を待つ

もう朝の7時半

新幹線の発車時刻は8時

広島に着くまでは絶対泣かない

そう思って新幹線を待っていた






◎空side◎


……遅い!!

おいおい出発8時だぞ!?

千尋が新幹線に乗るタイミングで俺らもサプライズでそっちまで行っちゃおうという作戦だった

6時半には最寄りの電車に乗っていたかったが

結衣のやつ……全然来る気配がねー

朝が弱い結衣はいつも寝坊していた

しかし今日という今日はそれが許されないぞ!!


結衣に電話してみる

あいつの方が駅から家が近いから急げばすぐだろうと思っていたが


『ああ"!?』


機嫌悪そうに結衣が電話に出る


「お前今どこ?」


『もうすぐ出る』


ブチッ


プープープー


ムカつくなあいつ!!!


寝起きの機嫌の悪さは異常だ

なんだよあの言い方は!

ごめんの一言もねーのかよ!くそが!


10分経った頃

結衣がのこのこと歩いてきた

眠そうな顔、スッピンの結衣が来た


「おはよー」


「おう、早く行こう間に合わねーぞ」


俺はそのマイペースな結衣の行動に少し怒りを覚えながらも足早に駅のホームに入る


「うーー待ってぇーすぐに動けないー」


俺はイラっとしながら無視して歩く


「こらー豆、無視すんな」


「………はあ」


俺はため息だけ吐く


「なーんで怒ってんの?

ごめんね遅くなって」


「いや、謝るのがおせーよ」


若干キレ気味の俺


「はいはいすいませんね」


適当な謝り方にも俺はイラっと来たがそのまま無視する


「そぉらがおこぉーそぉらがおこぉー

そらまめたべてもそぉらがおこぉー」


結衣は変な歌を歌って俺の後に着いて行く

電車に乗ってる間に電車の時間を調べる


「ほら!一本早いのに乗れば7時半には着いたじゃねーかよ!」


俺は結衣に向かって怒りも交えながら言う


「マジで!?何時に着くの!?」


「7時50分」


「やばーー!!!いそげー!」


「電車はいそげねーから!」


バタバタしそうな1日だ


急いで東京駅に向かう


「走れ結衣!」


「走ってるなう!あたし足遅いなう!」


「いいからそのまま黙って走れ!」


新幹線の改札まで行くが


「やっぱいねーよ!もう新幹線に乗ったんだよ!」


「えーー!!じゃあ空ジャンプして改札乗り超えてよ!」


「出来るか!!んなこと!!」


「じゃあ呼ぶしかないね」


「ばかやろ!ラインしたらサプライズがバレるだろ!」


結衣は深呼吸をしだす

そして思い切り息を吸って


「ちひろーーー!!!!!!!」


いつも以上に馬鹿でかい声を上げて千尋を呼んだ

周りの人たちは一気に俺たちを見る


「や、やめろって!」


すぐに結衣を止めるが


「こうでもしないと届かないよ!

ちひろーーーー!!!!!!!!」


結衣が必死に叫ぶ

……こうなったらやるしかないのか


「ちひろーーーー!!!!!!」


俺も結衣に便乗して千尋の名前を叫んだ






◎千尋side◎


新幹線の改札を通る

私はケータイを見るフリをしてやっぱり色んな思い出を振り返っていた

写真もいっぱい見返した

こんなに寂しくなるなんで思わなかったな

最後にもう一回、笑顔でさよならとか言えばよかったな

なんて思っても無駄だった


けどその時


「ちひろーーー!!!!!!!」


「……え??」


今私を呼んだ?


「お父さん、誰か私のこと呼んでた?」


「いや、わからないけど」


気のせいかな?


新幹線の外から女の人の声で呼ばれた気がする


「ちひろーーー!!!!!!!」


「え!?」


今度は男の人の声


「今のは完全に聞こえたよね??」


「今のは聞こえたな」


お父さんも聞こえたみたい


出発まであと5分ある


「お父さん、ちょっと見てきていい?」


「うん、いいよ」


声のしたところに戻ってみる

…‥嘘でしょ?

2人は今日学校のはず

こんなところに来るはずない

でも…私のこと呼ぶ人なんてあの2人以外は……

そんな期待を膨らませて声のした方に行く

改札の方かな?

戻ってみると


「あーー!!いた!!」


嘘……

なんで結衣と空がいるの?


「ちひろー!!会いに来たよー!」


結衣が大きく手を振っている


「……なんで…?学校は?」


改札の前ギリギリに2人は居る

結衣に聞くと


「ふふふふ、最後のサボり」


結衣は空の肩を組んでニヤけながら言った


「何してんの……」


ダメ…泣いちゃう


「千尋」


空が私の名前を優しく呼んだ


「元気な赤ちゃん産むんだぞ

また絶対会いに行くから

千尋が元気じゃないと元気な赤ちゃん産まれないからな」


空は声を震わせながら言った


「千尋、今までありがとな」


その瞬間


私は堪えてた涙が一気に溢れた


「ううぅぅ!!ううぅぅう!!」


手を伸ばしても届かない距離に2人が居る

でも確かに私たちは繋がっている

私はひたすら2人を見つめて泣いていた


「ちひろぉ…泣くなよ……

あたしだって…寂しいんだからぁ…」


結衣も目を抑えながら泣いていた

そして後ろにお父さんが居ることに気がつく

でも気にせず私はただひたすら泣くだけだった

そしてお父さんが私の頭をポンっと優しく叩き


「君たちありがとね、

でもごめん、もう時間なんだ

千尋は元気にやっていけるから安心しな」


そう言って私の背中を押す

私はピタッと止まってまた振り向く

こんな言葉、もう言いたくないと思ってた

こんな言葉、信用したって無駄だって思ってた

でも2人の顔を見ると何度もそう思える

この2人がそう思わせてくれてる


「今までありがとぉーー!!

"ずーーーっと一緒"だからねーー!!」


私は2人に大きく手を振った

2人もそれに答えるように泣きながら手を振り返してくれる

本当に……本当にありがとー!!

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