第17章…時間


そして1週間が経つ

千尋が引っ越すまであと1週間


「よーーーし!!お祭りじゃあああ!」


結衣が町のど真ん中で思い切り叫ぶ


「うるせーお前!

他の人も見てるからやめろ!」


「ほんと迷惑」


今日もテンションマックスの結衣に俺と千尋は鬼の形相で結衣を睨んだ


「まあまあ、今日はお祭りなんだから

楽しもうよ」


千尋が引っ越す前に思い出が欲しかった

だからめちゃくちゃ楽しそうな超大規模のお祭りに来ている

お神輿を担ぐ人、太鼓を叩く人

歌を歌う人、踊りを踊る人

お祭りならではのイベントはもちろん

半径10キロ以上は続く屋台の豊富さ

赤字にならねーの!?ってくらいにサービスしてくれる屋台のおじちゃん達が俺は魅力だと思う


「にしてもやっぱ広いんだなー」


結衣ははしゃぎながらあたりを見渡す


「ほら!千尋ー!きゅうり買ってあげるからおいで!」


と言って千尋の腕を引っ張る結衣


「うん、わかったから声のボリューム少し抑えて」


千尋はそう言いながらも微笑ましそうに結衣を見ている

あーーこんな日々が続くのもあと1週間かー

ほのぼのとした1日だが貴重な1日だ

俺も全力で楽しまないとな!

お祭りも多分全部回りきれないけど半分くらいは回った

くじ引きで当たった熊のぬいぐるみも千尋にあげた


「やったー!これほんとにもらっていいの?」


「おう、俺が持ってたら気持ち悪いだろ?」


「確かに、

じゃあこれ空だと思って飾っとくね」


「そうしてくれ」


俺は楽しみながらも少しずつ感じていた

千尋がどんどんと遠くなっていく

ずっと一緒だった千尋が千尋との繋がりが

どんどんと離れていってる気がした


気がつけば夕方になっていた

そろそろ2人も疲れてくる頃だろう

もういっぱい回ったしな


「そろそろ帰るか?」


俺が2人に聞く


「えーーもっと千尋と一緒に居たいなー」


「なーに結衣、めっちゃ嬉しい事言ってくれるじゃん!

でも無理はしたくないからなー」


そうだよなーただでさえ最近体調良さそうには見えないのに


「んー確かになー」


結衣は腕を組んで目を瞑る


「そーだ!あたしの家に泊まる!?」


結衣は飛びつくように千尋の肩を両手で掴んだ


「おおー!それいいね!」


千尋も同じように結衣の肩を両手で掴む


「きーまり!」


おう、楽しそうだな2人とも

俺は帰ってのんびりしてよ


「じゃあ空もね」


千尋が俺の背中を叩く


「……はい!?」


「はい決まりー!」


結衣も俺の肩に腕を組んで駅へと向かった

な、なんてこったーーー!!


駅を降りてしばらく歩く

結衣の家の外観は見たことあるんだよな

いい感じの一軒家でなかなか広い家に住んでいる

でも中に入ったことはなかった

中学から一緒だけど意外と知らないことってあんだな


「さあ着きましたよー」


「おおーー結衣の家に入るの初めて」


千尋も初めてらしい

てことは誰も入ったことないんだな


「まあ、家にいるより外の方があたしは好きだからね

今日は特別だよー」


そう言って玄関を開ける

中に入ると花のいい香りがする

ローズか?めっちゃ落ち着く

意外に結衣は女子力高めだからな

さすがって感じ


「お邪魔しまーす!」


俺と千尋でハモる

リビングの方に行くと

やっぱ綺麗にされてるんだなー

整った家具の配置が本当に綺麗

リビングには結衣のお父さんとお母さんが居た


「おぉー!いらっしゃい!

結衣ちゃんのお友達?」


めっちゃ感じのいいお母さんと

ニコニコしているお父さんが出迎えてくれて居た


「そうです、いつもお世話になってますー」


千尋が礼儀正しく言う

俺もつられて


「いやー本当にいつも元気もらってます」


お父さんに言った


「そうかそうか、

まあゆっくりしていってよ

ご飯は食べたの?」


「まだ食べてないよ」


お父さんが聞くと結衣が答える


「じゃあ食べていく?」


「あ、あたしが2人の分作るから

美菜さんが作ったやつあたし食べるね」


……美菜さん?

お母さんのことか?

少し違和感を感じた


「あーそうか

2人の分作るなんて偉いじゃん結衣ちゃん」


「まあねー!せっかく来てくれたし

おもてなしってやつだよ」


結衣は明るく2人に振る舞った

すると遠くの方からドアが閉まる音が聞こえる


「お、里穂と健也いたの?」


結衣は2人の少年少女を見る

弟と妹だろうか?

顔を見る限り健也君は中学1年生くらい

里穂ちゃんは小学5年生くらいかな?


「あたし今から友達とお泊まりだから

うるさくしたらごめんね?」


「いいよー別に」


里穂ちゃんは元気に返事をする

やはり姉に似たのか?


「じゃあ美菜さんと洋平さん

悪いけどキッチン借りるね?」


自分の家なのに借りるってなんだ?

色んな疑問が生まれながらも


「あ、空と千尋は部屋行ってて

今案内するから」


そう言って俺と千尋を引っ張る結衣

賑やかそうな家族だな

そう思っていた

だから結衣に言った


「お父さんとお母さん、めっちゃいい人そうだな」


俺は結衣に言う


「え?あの2人両親じゃないよ?」


「「え!?」」


俺と千尋は同時に声をあげる


「んじゃここで待っててー」


部屋に入れるや否やすぐにドアを閉める結衣

両親じゃない?

どういうこと??


結衣の部屋だ

特に片付けるから待っててとか言われてないのに片付いている

常日頃から綺麗にしてるのかな?

俺と千尋はテーブルの前に座った

俺と千尋、2人だけになる


「両親じゃないってどういうこと?」


千尋も同じ疑問を持っていた

家に住んでるのに

両親じゃないのか?

でも確かに似てる感じはしなかった

どういうことかわからなかった


そして


バタン!と勢いよくドアが開く


「おいこら客、麦茶だ飲め!」


結衣がお盆に二つ麦茶を乗せて俺と千尋の前に置く


「あ、結衣待って!」


千尋が結衣の腕を掴むと


「なになに?あたし急ぎなんだから

フライパンに油しいちゃったよ」


と顔をしかめる結衣


「今いる2人はどんな関係なの?」


千尋が俺の疑問を結衣にぶつけてくれた


「ん?おじさんとおばさんだよ

いとこの親、で、あのがきんちょ2人はいとこ」


………


「それってつまり…」


「うん、親居ないの」


俺の体にずっしりと何かが乗った気がした

親がいない?なんで?

いつも明るい結衣からは考えられないほど悲しい事実だった

中学の時から一緒だったけど知らなかった

確かに結衣の親の話とかは聞いたことはない


「んじゃ急いでるからあと30分くらいは待ってて」


結衣がバタバタと部屋を出る


「……結衣って大変だったんだね」


千尋も同じことを思っていたのか

深刻そうな顔を浮かべていた


「私もお母さんは本当のお母さんじゃないけど

一応両親って言えるからさ

でもお母さんもお父さんもいないなんて、絶対にやだよね」


千尋がそう言って暗い表情を浮かべた

千尋のお腹の中には千尋の子がいる


でも


翔はいない

もう父親がいないことが決まっているも同然だった

だから千尋の今の言葉の意味がすごく重く伝わってしまう


「どんな事情があるのかわかんないけどな

でもそれを隠そうとしないし堂々としてる結衣ってすごいよな」


「昔は辛かったと思うよ?」


「そうだよなーー

明るいなあいつ」


今まで何度も言ってきたけど

何度も思う

あいつはただのバカじゃない

人として尊敬出来るくらい結衣が輝いて見えている


「人って大事だよね

私も死にかけたことあるしさ」


千尋が思い出を振り返っているのか上を向いて話していた


「そうなの?」


俺が聞くと


「はあ!?覚えてないの?」


「?????」


なんのことかわからない


「まあーなんかすごい泣いてたしね空

あの時はほんと嬉しかったなー」


あの時っていつだろう

そこまで昔の話ではないと思うが

いつだろう?

めっちゃ大事なことのような気がする


「ほら、空と2人でかくれんぼした時」


俺のかすかな記憶が巡ってくる

千尋が言っていたあの言葉って

どの場面で言ってたんだっけ??

かくれんぼ?


断片的に記憶が薄くなっていることに気づいた

かくれんぼ……


「私がトラックに轢かれそうになった時だよ?」


プツンッ!


俺は脳に突き刺さるような衝撃を受ける

あの時って……

巻き戻されるように頭の中が昔の出来事でいっぱいになる

思い出した……あの時か


「トラックに轢かれそうな千尋を

俺が庇ったんだ」


その後に言われた言葉がある


“空と私はずっと一緒だよね"


……そうか

俺が千尋を助けたんだ


「あ、思い出したんだ」


忘れていたわけじゃない

なんでだろう

そこだけ記憶が薄かった

言われた言葉だけが鮮明に覚えたいたからか?


「結局トラックは止まってくれたけど

空がいてくれたおかげで

なんか安心出来たんだよ」


「……あの時、千尋が言ってくれた事があったんだけど覚えてる?」


「……ん?」


逆に千尋はそこだけ忘れているらしい


「空と私はずっと一緒だよね

って言ってくれたじゃん?」


「あーー言ったかも」


「じゃあ聞きたい事があるんだ」


千尋は首を傾げる


「ずっと一緒ってありえる?」


俺が聞くと千尋はしばらく固まる


でもその後、腕を組みながら俺に言った



「ないかな」



千尋は真っ直ぐ俺を見て続ける


「あの時、空も私も死ななかったからずっと一緒だと思ったけど

結衣の親も離れた、私の親も離婚して離れた、私と空ももう離れる、翔も離れた、

ずっと一緒ってなに?って私が聞きたいくらい

人は人を離すと思ってるよ」


千尋の言葉の一言一言が

俺の中に重く入ってくる


「もう、離れるのは嫌だけど

慣れちゃってる自分がいるかな」


千尋の言葉に何も返せなかった

ただただ重い空気だけが流れていくだけだった


千尋に言われて変わった言葉は

もう千尋は信じれない言葉になっていた

俺はその言葉だけを頼りに千尋を好きでいたのかもしれない


ただ


それももう壊れた

でも壊れても胸が痛む事がない

やっぱりそうなんだなって思うから

千尋と俺は一緒にはいれない運命だったんだって


それに


今も思い出すとどっしりと重くのしかかるような言葉の方が強かった

やっぱり俺も変わったんだ


“親居ないの”


という結衣の言葉

俺が結衣を1人にさせたくないと思わせる言葉が今は心を重くさせている


まだ結衣は戻ってこない

しばらくすると

千尋があるものを見つけた


「あ!これ中学の時の卒アルじゃない?」


記憶に新しいものだった


「おぉー!めっちゃ最近だけど懐かしいなー!」


こんな形で振り返るとは思っていなかった

ペラペラとめくると

俺らのクラスの写真が載っていた

本当に最近のことだからあんまり顔変わってねーな

やはりクラスの写真を見ると

千尋の可愛さが目立つ

この頃は結衣も千尋もメイクしてないから顔が薄く見えるけど

見慣れているから普通に見えるなー


「なんか付箋貼ってあるよ?

シークレットかな?」


千尋が気付く

卒アルに付箋貼るってあいつどんな趣味してんだよ

と面白半分で付箋の部分を開いた


それは何てことないクラス写真

しかしその中にあるのは

俺と結衣が隣の席だった時2人で写っている写真が見えた

まさかこのためだけに付箋貼ってたわけじゃないよな?

さらに先を見ると


「あーこれ懐かしいー書いたよねみんなで」


後ろの方になると余白の部分がある

そこにクラスみんなでメッセージを書いたりしていた


「書いた書いたこんなん」


俺、結衣になんて書いたんだろ?

見てみると

すごく、わかりやすかった

1番左端にハートマークで囲んであるメッセージがあった


“結衣へ

お前のテンション最高!

一緒に居て楽しいよ

高校同じだからまた一緒に仲良くやろうなー!


空”



俺のメッセージがハートで囲まれていた


「空のだけハートマークにされてるね」


千尋も見えたのかそれに触れてくる

しかし結衣が俺を好きなことを千尋は知らないと思うから

とりあえず無視して次のページを開いた


しかし


これまた大きなメッセージが書かれていた

結衣の文字は汚い字ではないが

まるで字が踊っているかのような個性的な字をしている

だから俺はこのメッセージは結衣の字だと確信した

その踊るような字でこう書かれていた


“ヒミツメッセージ

空豆へ

あたしは

ずーーっと好きなんだよー!!!

高校とは言わず

この先ずーーーっと

空と一緒にいる!

あたしくじけないし泣かないから!!

うざいくらい空のそばにいるから

かくごしとけーーー!!!


結衣”


俺は慌てるようにアルバムを閉じる

千尋に見られたらまずいと思ったから

あいつ…どんだけ真っ直ぐなんだよ…

俺はこんな風に誰かに好かれたことなんてなかった

だから結衣の言葉、行動が俺をまた惑わせる

パタンと閉じたアルバムをしまい

千尋を見ると

俺の方を見て少し微笑んでる


「結衣が空のこと好きなの知ってるよ」


「……え?」


千尋、知ってたのか?

なんで知ってるのかはわからない

でも結衣のことだから

何も隠さずに千尋に言ったんだと思う

でも俺は何故かそこに触れられたくはないと思ってしまう


「あんまり触れてほしくないんだよ

結衣に期待させるだけさせて

あとで落ち込んじゃうとやだから」


「なんで?期待に答えればいいじゃん

本当に無理なら断ればいいし」


「でも、俺はここ最近色んなことがありすぎて

少し落ち着いてから考えたいんだ」


「ふーーーん

もっと素直になればいいのに

結衣みたいにさ」


俺が中途半端なのは自分でもよくわかってる


でも、


千尋のこと好きとか言って

すぐ結衣に心変わりしてたらまるで俺は恋多き男みたいになるのが嫌だった

正直なところ

結衣への思いがどんどん募っていくばかりだけど

その中途半端な俺の考えが

その考える時間がほしかった

むしろもう少し結衣と居てどうなのかを確かめたい


目を開けてぼーっとしてみる

そのうち眠くなるだろう

と思っていたら

いきなり目の前に顔が出てきた


「うわ!」


びっくりして思わず声が出る


「しーーうるさい

今千尋寝てるんだから」


声の正体は結衣だった


「まだ起きてたの?」


「うるせー、寝れねーんだよ」


俺がそう言うと


「ふーーんじゃあ誰かの温もり求めれば安眠できるんじゃん?」


何が言いたいんだ


俺はその言葉をそのまま無視した


「ほんとに空は素直じゃないなー」


「何が?」


「なんでもない、おやすみ」


すぐに眠りにつく結衣だった

俺はまだ寝れずにいるが

本当に時間をかけてやっと寝れた

結衣の家でお泊まりも終わり


一週間が経ち千尋の引っ越し当日になった

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