第16章…心境

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それから1ヶ月


いまだに翔の行方はわからない

それでも俺らは変わらない日々を過ごしていた

変わったことといえば

結衣はパン屋でバイトを始めて週5で入ってるからわりと忙しいらしい

俺もラーメン屋でバイトを始めた

週3で6万は稼げるのですごくありがたいバイトだった


千尋は体を安静にさせるために学校が終わったらすぐに帰っている

体育にも参加せずに見学しているのを見て他の男子たちが千尋が妊娠してると噂をしているがその通りだ

しかし翔と付き合っていたことはみんな知っている

退学したことも知っている

そんな状況で妊娠したなんて他の人に言ったらまた翔が逃げただの言われるのは目に見えている

だから千尋に持病があることにした

先生も妊娠したことは知ってるけど

そういうことになってる


結衣と俺は壁があるわけでもなく今まで通り関わっているが

いつもは冗談だと思っていた言葉が本気に聞こえるようになって少し戸惑う

でもそんなに大きな事もなく何でも話し合えるような仲にはなっている

千尋は心なしか徐々に元気が無くなってる気がする

やっぱり翔がいないことと自分の体調で余裕がなくなっているのかな?


それと今日は7月3日

千尋の引越しは7月20日と決まっている

あと2週間くらい

その日が近づいてるのもあって千尋の元気がないのかもしれない


ある日のこと


千尋がいつになく眠そうな顔をしながら教室に入ってきた


「おっふぁーい空」


「おはよーどうした?」


眉間にしわを寄せ薄目をしながら椅子に座る千尋


「んーーなんか最近体がだるくてさ」


「あーそういう時期か?」


まだ俺もよくわからないが

妊婦さんは常に具合悪いイメージがあるんだよなー

千尋は病弱とかそういうイメージないから余計に心配になる


「まあもしあれだったら保健室とか行って休みな?」


「うん、まだ大丈夫だけど

本当に辛くなったらそうするね」


そう言ってノートをうちわにして扇ぐ千尋


「あっつーーーーいーー」


「溶けそうだなー」


この日は33度を超える猛暑だった


「飲み物とかは?なかったら買ってこようか?」


「大丈夫、お茶があるから」


「おう、そっか」


俺は取り出した財布をしまう

その時に千尋が俺をガン見していたのは気づかなかった


「よーし、じゃあ授業の準備を、

…ん?」


俺はやっと千尋の視線に気がついた

少し微笑んでる千尋

なんだ?俺の顔になんか付いてるのか?


「最近、空更に優しくなったよね」


「………え?」


俺はドキッとしながらも微笑み返してみた


「ど、どゆこと?」


「いや?わかんない

でもかっこいいよ」


なんだよそれ

よくわからないまま褒められてるけど

なんか嬉しかった


「余裕のある人って感じ?

最近、結衣との絡みも濃くなって元気とかそういうパワーもらったんじゃない?」


千尋はニヤッとして言う

果たしてそんなものがあるのか

と思ったいたけどそれはあながち間違いではなかった

結衣が元気だと俺も元気でいたい

結衣がいつも千尋を励ましてるから

俺も千尋を励ましたい

なんて便乗してる感じだけど

それが1番いいと思っている


ただのバカだと思っていたけど結衣は1番みんなのことを考えていて

そんなところが俺はすごいと思った


お昼休みになると


「おーーいそらー!ちひろー!

めしだー!いくぞー!」


教室のドアの外から顔を覗かせている結衣がいた


「うん、ちょっと待ってて」


千尋がロッカーに教科書をしまう

俺も続いてロッカーにしまうためにしゃがんだ


その瞬間


「よっ!」


結衣の声が後ろから聞こえたきて


「どわ!!」


背中に重みが乗っかり

首に腕が回される

数週間ぶりに結衣をおんぶした


「ほら!動け馬!」


「馬じゃねえー!暑いから降りろ!」


「じゃあこのままいつもの屋上までお願いしまーす」


「あああーー!降りろー!」


と言っても離れない結衣

千尋はそんな俺らを見てニヤニヤしていた

な、なんなんだよ……

とりあえずおぶったまま屋上に行き

着くと結衣は離れてくれた


「はい、ご苦労様〜」


「うるせー…暑いんだこっちは」


「じゃあご褒美にサイダーあげる」


キンキンに冷えた缶のサイダーを取り出す結衣


「おう、これくらいなくちゃ理不尽すぎて泣くところだったわ」


キンキンに冷えたサイダーをおでこに当てる

あーー生き返るわーー


「あーあーこうやってご飯たべれるのもあと2週間くらいかー」


千尋が上を向いて足をバタつかせて言う

俺は確かにと思いながらも言葉には出来なかった


「引っ越したら学校どうすんの?」


俺はそんな千尋に聞く


「行くわけないじゃん

中退して子供が大きくなったら働くつもりだし」


千尋は目を見ずに言った

千尋も色々考えてるんだな

千尋のこれからのこととか

あんまし考えてなかったのが本音だ

今どうしたいのかってことばっか考えていたから

子供生まれて大きくなったらどうするってることまで考えてる千尋がすごく大きく見えた


「千尋、広島行っても元気でな」


俺は思うがまま言った


「いや、早いから!笑

しかも広島行っても電話くらいできるでしょ?」


「あ、そっか」


千尋は笑いながら弁当に蓋をする


「お腹いっぱい」


半分も食べていない弁当をしまう千尋


「千尋、食欲ないの?」


結衣が聞くと


「いや?すぐお腹いっぱいになるだけだよ」


「そっか」


結衣もなぜか悲しそうな顔をする



「千尋と離れるのはやっぱ寂しいよ」


結衣が千尋に抱きつく


「なに、急に」


千尋は笑顔になりながらも目がうるうるしてるのが見えた


「千尋に会ったの中1の時だったけど

いつも優しく話しかけてくれるのうれしかったよ」


「そんなの私だって一緒だよ

毎日結衣の声聞いて元気出るもん」


暑い中くっつく2人


女の友情だなこれ


「まあ子供出来ても出来なくても

広島に帰るのは変わらないことだし

それでも絶対に切れない縁だよね」


千尋は結衣の頭を撫でる

俺はある言葉を思い出した


"ずっと一緒だよね"


千尋が言った言葉だ

俺はあの日から千尋のこと好きになって

ずっと一緒にいれるならいたいと思った


ただ“今は違う”


変わったのは千尋だけじゃない

頭の片隅に置いてある言葉

“空の事本当に好きだからね?”という結衣の言葉が

その期待が大きく膨らんでいる“自分がいた”

変わったのは俺もそうなのかもしれない

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