第14章…友達

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◎千尋side◎


私は1時間目からどうも落ち着かなかった

空に怒っちゃったこと

それだけが心残りなのに

私の斜めに空は居なかった

空に電話しても出ない

一体何してるんだろ?

そんなにやだったのかな?

でも私は空の気持ちには答えられなかった

翔と一緒に過ごした日々がすごく大切に思えて

妊娠した時も、不安だったけど、翔の子なら……

なんて思っても翔はいない

だからこそ空じゃダメなんだって思う


好きだったけど、翔が大事

翔との子だから翔しか許されない

居なくなっても翔とあたしの中で生まれた愛だから


お昼休み


私は結衣を探した

結衣のクラスまで行ったけど


「結衣なら今日休みだよ?」


って他の子に言われちゃった

なんなの2人して!

一緒にサボってるわけ!?

もういいよ

私は1人でもやっていける!

周りに友達がいないわけでもない

でもいつも一緒に居た人達がいないとなんだか寂しくなる

そして学校も終わり下校時間になる

空も結衣も戻ってこなかった

この時間、いつもなら


『ちっひろー!かえろーぜー!』


結衣が元気に言ってきたり


『千尋ーほら、帰るぞ』


空が優しく言ってきたり

あの2人がいないだけでこんなにも違うなんてなー

とりあえず結衣に電話してみよう

電話すると結衣は出てくれた


「空は?」


結衣に聞いてみたけど


『見てないよ?』


なんて言われた

えーじゃあどこに言ったの

いつもなら早く帰ってたけど

ちょっと図書室でもいこーっと


図書室にいると時間を忘れてしまう

読書が好きなわけじゃないけど

本の表紙とかあらすじだけ見たりするのが好き

この先どうなるんだろ!?とか期待はするんだけど

結局読まないんだよね


夕方くらいになってきた

そろそろ帰ろう

ぱたっと本を閉じて校門を出た


明日空になんて話しかけよう…

普通に接してれば上手くいきそうだけど

まあなんとかなるっしょ!

そんなに落ち込んでたならまた話せばいいしね

って思いながら最寄りのまで降りた


すると私の目の前でイチャイチャしてるカップルらしき人たちがじゃれ合っていた

その光景を見るとついこの間の翔との日々を思い出す

私も帰り道にあんな風にふざけ合ってたなー

なんて思いながらふと思い出に耽る


でもあの2人うちの制服?

少し近づいてみると

え?うそ?


そのカップル2人はまぎれもない

空と結衣だった


ちょ、ちょっと待って!?

……なんで?

結衣に電話した時は空は見てないって言ってたよね?

そして2人は立ち止まり空がしゃがむ

空の背中に結衣が乗りおんぶをしていた


……なんで…?

色々な疑問が頭の中を飛び交う

そして結衣がケータイで写真を撮った

多分私は写ってないと思う

まるで付き合ってるみたい

私は2人の後ろを遠くから見てるだけだった


いつもの2人だったら

結衣がおんぶをせがんでも

空は断ると思う

結衣がケガした?

じゃあ空と一緒に居るのに見てないって嘘ついたのはなんで?

色々と整理ができなかった

なんだろうこの胸騒ぎ

いつになく激しく胸が痛む


私はまだ空に未練があるの?

いや、そうならないように決心したばかりだし

例えこの2人が付き合ってたなら私に何か関係ある?

……ないとは言えないよね

私は昨日、空にまた告白されたんだもん

だからってわけじゃないけど私のことが好きな空が結衣と…?


結衣はいつもベタベタ触るけどどこまでなら許容範囲なの?

おんぶするのは空だから?それともある程度仲よかったら普通なの?


何このモヤモヤ……

私は途中で曲がる道を曲がらずそのまままっすぐ行った

2人をこれ以上見ないために

これ以上自分が傷つかないように


次の日


なんでか早く起きちゃって

少し早めに登校した

やっぱり昨日見たことが信じられなくて

今の私の心境としてはすごくショック

2人の間に何もなかったらいいんだけど

もし何かあったとしたなら

空が言った言葉も結衣が言った言葉も全部嘘になる

空は私を守ってくれるって言っていた

守ってほしいとか図々しいことは言わないけど

その言葉に期待してしまうからこそ

2人の間に何かあったらすごくショックなの


学校に着く

教室に入ると

2人はまだ来てない様子


それだけで胸がキューっと締め付けられてるようだった

お願い早く来て、どっちかで良いからお願い

そう思った時


「ちっひろー!

おはよおはよおはよー!」


朝から元気な声が聞こえた


「あ、おっふぁーい」


教室に入って来たのは結衣だった

私は平然を装っていつも通り挨拶を交わす

いつもはストレートヘアーだった結衣だけど

今日はなぜか髪を巻いてる

可愛いけどなんで?


「結衣今日巻いてるの?めずらしいね」


「そーなのー!おしゃれに目覚めようかなーなんてねー!」


「急にどうしたの?恋でもした?」


確実に私は引きつった笑顔だったと思う

けど不意に聞いてみた

結衣はまるでいつものような明るい表情で


「まあそんなところかなー!

だーっはっはっはっはー!」


と言って高笑いを始める結衣

もう我慢は出来なかった


「ごめん結衣、ちょっといい?」


何かが壊れる予感がした

結衣が何考えてるかわかんない

中学の頃から一緒にいるけど

初めて結衣に苛立ちを覚えてしまう


結衣を人気のないところに呼んだ

別に喧嘩したいわけじゃない

結衣と空との仲を引き離したいわけじゃない


でも、嫌な予感がする

これ以上は我慢出来なかった

自分自身、納得のいく答えを求めて結衣にぶつけようと思う


「どうしたの?」


結衣が首を傾げて聞く


「昨日さ、結衣、どこで誰といたの?」


そういうと結衣は少し固まる

でも少し間が空いてから結衣は私に頭を下げた


「ごめん、空と一緒に居た」


「なんで?」


私がそう聞くと結衣は頭を上げ


「なんか朝空を見かけたらすごい悲しそうな顔してたからさ

元気付けてあげようかなって」


「でも私が電話した時は空は見てないって言ってたよね?」


「んーーーなんて言うんだろうね

あたしの中で昨日のことはなかったことにしたくて

だから誰も見てない、誰も知らないことにしたかったんだけど

昨日空と写真撮った時に後ろの方に千尋が写ってたから

これは隠せないなって思ったよ

あたしも話そうと思ったし」


写ってないと思ったけど、写ってたんだ私

でもそれって


「結衣、それってどういうこと?

なかったことにしたいのはなんで?」


「あたし、空のこと好きだからさー」


聞きたくない事実だった

昔、私が好きだった空が誰かのものになる

考えたこともなかったことが現実に起こるかもしれない

それを受け入れるかどうかは私次第


「まあ昨日見られちゃった以上はあたしは隠さないよ?

千尋にさっき恋してるって言ったもんね!」


結衣の目は真っ直ぐだった

いつも明るい結衣だけど

こういう思いとか伝える気持ちの力強さはやっぱりすごかった


「千尋は?空とどうなりたいの?」


私は……


「私は…やっぱり翔じゃないとダメなんだよね」


私も曲げたくはなかった

すぐには変えられないから昨日空に言ったんだし


「そっかー」


結衣はなぜか不満そうな顔を浮かべた


「千尋は空にどんなことされても

好きにならない?心変わりもしない?」


「んーー昔好きだったし

この前も色々と助けてもらったけど

やっぱり妊娠したってわかった時、

翔と一緒に過ごしたいって思ったの

まあその肝心な翔がいないから意味ないんだけどね

今は翔が好き、そこは変わらないと思うよ」


「ふーーん」


まだ不満そうな結衣

そんな表情が私は何か気に食わなかった


「何か問題でもある?」


私は苦笑いで結衣に聞いた


「あたしは羨ましいけどなー

そんな風に大事にされて助けてもらえて

自分のために一生懸命になってくれる人がいるなんて」


「…………」


私は何も言えなかった


空がこんなに優しくしてくれるのは本当に嬉しい

けど、そういう問題じゃない


「そんなの、結衣が空を好きだからそう思うだけでしょ?」


「違うよ、あたしは今まで空と千尋を見てきたけどお似合いだと思うよ?」


「何その皮肉、結衣らしくないじゃん」


「皮肉なのは千尋の方でしょ?

空の気持ちも考えてあげなよ

翔と千尋が付き合って1年も辛い思いを耐えてきたんだよ?

翔ときっぱり別れたんだったら本当に大事してくれる人といるべきだよ」


「………」


「別にあたしが嫉妬してるとかそういうのじゃないんだけどさ

“逃げた翔”よりもよっぽど男らしくない?」


「勝手なこと言わないで!!」


私は怒鳴るように結衣に訴えた

さすがの結衣も少し怖気付く


「翔は……逃げたんじゃないよ」


何も知らない結衣は悪くないと思ってる

……けど、それだけは違う


「ごめん、そういや、何があったかわかんないからさ」


「……色々あったけど

翔が守りたいものの優先が私じゃなかっただけ」


「……何があったかわかんないけど

それでも翔を大切にしたい

千尋はそれでいいんだよね?」


「うん」


私が二つ返事で答える

すると結衣はまた自然な顔に戻り


「じゃああたし、もう空から身を引かなくていいんだよね?

千尋から空を奪っちゃうかも知れないよ?」


素直にいいよとは言えない自分が居た

でも、自分に嘘をついてまで私は


「うん」


空を捨てた

翔との子供だから翔以外の人じゃダメなの


「……うん、じゃあわかった

でもさ、今まで通り普通に接してくれたら嬉しいな

あたしと空が2人でも千尋が居ないとイツメンじゃないじゃん?」


結衣がいつもの笑顔に戻った


「うん、それはもちろん

昨日だって寂しかったんだからね」


「おいおい相変わらず可愛いかよ」


「やめてやめて、触らないで」


私がそう言うと

結衣は勢いよく抱きついてくる


「だああーー!!触らないでってば!」


「いいじゃないのー!

昨日ぶりで寂しかったんでしょ?

ち・ひ・ろ・ちゅわーーん!」


「暑苦しいから離れてー!」


なんて言いつつも私は安心してる

結衣がわかってくれる人でよかった

確かに今は空の方がいいのかもしれないけど

私の決めたことは絶対に変えたくない

それが空に対するけじめだとも思ってる


「じゃあ結衣、空と進展あったらすぐ教えてね?」


私が結衣に言うと


「教えなーーい!だって付き合いたいって思ってないもん」


変顔をしながら結衣は答えた


「はい??どゆ意味?」


「あたしね、空が誰かを守りたいって思いながら生きてるんだとしたら

あたしは逆にそんな空を守ってあげたいかな

空がいつも何かに一生懸命になってるなら

あたしは空に一生懸命になる

空がやってることをそのまま空にしてあげたい

ただそれだけで、そのついでに付き合えるんだったらハッピーだよ」


「んーーなるほどねー」


「ほら、あたしも一応乙女だし?

空の行動言動に期待したり凹んだりするけど

千尋はその辺察してくださいな」


正直よくわかんなかったけど

結衣なら大丈夫!

その後は自分の教室に戻ることにした

後は空だけだ

結衣と初めて本音で話せたから多分空も大丈夫だよね?

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