第12章…何か

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◎結衣side◎


中学の時の話

なんか妙に気になる人が居た


中1の4月

まだ全然友達とかができる前のこと

名前も知らない人ばっかりだけどあたしは手当たり次第に声をかけていた

一応人見知りとかないし

楽しいならなんでもいいかなって思ってたから


でも最近変なやつがいる

最初は放課後に何となく見てただけだった

あいついつまであそこにいるんだ?

当時あたしはバドミントン部に所属していた

いつものあいつは陸上部かなんかかな?

あいつは毎日授業が終わったら速攻で校門の裏の方でこそこそしている

部活に行かないで何したんだろ?

ずっと思っていた


給食の時

あいつとは違うクラスだからよくわからないけど

たまたま通りかかったあいつは明らかに今日の給食のツナサラダを袋に詰めてカバンにしまってるところを見てしまった

あいつ…貧乏なんだな…

変なやつだと思ってたけど

かわいそうなやつに思えてきた


そして放課後

あたしはついに

やつの生態を暴くことにした

ぜってーおかしい!

校門の裏でそれも人気のいないところで一体何してんだよ!

もう好奇心が止まらなかった

絶対面白いやつだと思った

あたしは校門裏であいつを待ち伏せした


カサカサっと音がする

ん?人の足音じゃないな?

何だろと音がする方を見てみると


「ニャーーー」


小さい猫と大きい猫がつぶらな瞳でこちらを見ていた


「ん?どうした?」


あたしは2匹に問いかける


「何も持ってないよ」


「ぅぅぅぅゔゔーー!

にゃーー!!!!」


「うるさーい!威嚇したなー!?

にゃーー!!」


「うぅにゃーー!!!」


「うるさいにゃぁーー!!」


「おい、やめろ!」


「え?猫が喋った?」


あたしは目を疑った


しゃ、喋る猫?


まさかポ○モンのニャ○ス!?


「お腹空いてんだよこいつら

離れろ」


「……?」


後ろから声が聞こえて

スッと人の姿が現れ

地面にツナサラダを置いてサラダだけを抜いていた


「あーー!あんた貧乏なのにあげていいのー?」


おもくそ失礼なことを言うあたし

そう、現れたのはあいつ

名前はわかんないけどあいつが現れた


「誰が貧乏だよ!

いつも食えそうなご飯をこうやってあげてるんだ!」


ほーなかなかツッコミが鋭いようで


「この子達捨て猫なの?」


「多分な、かわいそうだよなー

買ってやりたいけどうちアパートだからなー」


「お前、いいやつだな」


あたしはそいつの肩に肘を乗せる


「なんだお前馴れ馴れしいな」


「お前もお前って言ってんじゃん」


「お前がお前って言わなきゃお前って言わねーよ」


なんだこいつおもしろっ


その次の日

あたしは給食とかあんまり残さないんだけど

今日は小魚をいっぱい残した

むしろ他のクラス、学年の残ってる小魚を全部袋に入れてカバンにしまった

ツナサラダじゃ余計な味もついてるし絶対お腹壊すと思って


放課後


あたしは校門裏に行った

今日も来るかな?

猫というよりはあいつ

あたしが鳴き声出せば来てくれるかな?


「にゃぁーー!」


1人で恥ずかしいけど鳴き声であいつを呼んだ

でも誰も来ない

あれ?せめて猫くらい来いよなんて思った

そんな時

後ろから聞こえた足音

あたしは勢いよく振り向いて

小魚を取り出した

いっぱい持って来たよってあいつに見てもらいたかったから

喜ぶ顔が見たかったから


「……あれ?」


振り向いたら昨日の女の子だった


「ごめんなさい、空を探してたんだけど

どこにいるかわかるかな?」


昨日の女の子はよく見るとかなりの美人さん


「空って、あいつ?」


「あ、いつもここに居ると思うんだけど

あれ?2組の小島さんだよね?」


あたしはこの子を知らなかった

なんで知ってんだろ?って思ったけど


「そうそうそうそう

あたしが小島結衣ですよー!

お嬢ちゃんが子猫ちゃんだったらあたしもう持って帰るどころじゃ済まないよー!」


テンションマックスで絡んだ


「あ、あははは

ありがとうー」


うん、あなたの反応は正しい反応だよ


「千尋ーー空坊いたかー?」


今度は背の高い短髪の男が来た


「んーーわかんない

小島さんはいつもここにいるの?」


「いやー?昨日初めて来た」


この子千尋って名前なんだ


「あれ?翔、あれ空じゃない?」


「ん?あーっぽいな」


千尋が指す方を見てみると

先生と何やらもめてる様子


「だから!俺は猫を助けたかったんだよ!」


「でもなー給食の残りを食べさせるのはダメだろ」


「じゃあ動物が死んでもいいっていうの?」


「そういうことじゃなくてだなー」


困った顔を見せる先生

千尋って子と翔って奴はあいつのところに向かった


「そらー!何してんのー!」


千尋はあいつに向かって走って行った


「あ、千尋ー

聞いてよ、先生達捨て猫をほっとけって言うんだよ?」


「そうじゃなくて

学校の中に入って欲しくないから言ってるんだよ」


「かわいそうだって言ってるじゃん

学校側で飼えないの?」


「無理だ」


空はすごく不満そうにしていた


「じゃあこうしよう

飼ってくれる人を探すってのはどうだ?」


「……え?」


わりといい条件でも悲しい顔をしていた


「生徒の中で飼ってくれる人がいれば猫達は無事だろ?

それでいいよな?」


「……まあ」


すっごく悲しい顔してる

なんで猫でそんなに悲しい顔すんだ?

助かるんだからいいじゃん?


「空坊、いいんじゃん?

外よりはマシだろ?この猫達も」


「……うん」


翔が空の肩をそっと抱いて言ってる

こんなに必死になって猫を助けたかったんだなー

これが空との出会いだった

自分を犠牲にしてまでも何かを守ろうとしていて

一生懸命になってるのが印象的だった


そして中2になると

クラス替えがある

それまではあの3人とは見かけたら話すくらいだった

でも千尋とはわりと喋ってるかな?

後の男2人は無視!

自分の決められたクラスに行くと

偶然にもあの3人が居た


「わー!!結衣ー!同じクラスだねー!」


千尋があたしを見た瞬間

すぐに駆けつけてくれた

はーーーーん!なんて可愛いの!

千尋だけは好きだった

最初はあたしがテンション高く絡んでたけど

千尋もだんだんあたしとバカみたいなこと言いながら笑ってることが多かった


「へーい!彼女ー!よろしくなー!」


翔があたしに手を振る


「ふぁっく!!」


あたしは翔に中指を立てた


「おい、あいつ本当に女か?」


翔が空に聞くと


「品のない女だよな」


……プッチーーン


「おいおいおい!会うなりおめーは悪口かよ!空豆が!」


「誰が豆だよ!」


あの猫の件から

空の悲しい顔が見たくなくていつも怒らせてる気がする

怒るほど元気ってことだしね

あの猫達は一個上の先輩の家に引き取られたらしい

元気に育ってくれればいいじゃん


でも一つ気づいてしまったことがある

千尋と一緒にいるともれなく男2人が来るわけだけど

千尋、この2人に好かれてる?

いや、待って、ということは

空は千尋のこと好きなの?

なぜか胸の奥がチクっとする

猫とお別れした時の空の顔を見た時は

胸がズキっとした

よくわからないけど

それから空の表情とか

ついつい見ちゃう

だから千尋を見る空の顔とか

すごい気になっちゃう


千尋が色んな人からラブレターをもらうと

いちいち悲しそうな顔を浮かべる空

本当にその顔に弱い


「空豆ー!千尋がお嫁に行っちゃうよーー?」


「うるせーな、どうせ断るだろ」


そんな悲しい顔しないで

チクチクと痛い胸を抑える

千尋がラブレターの返事を断ったって聞いた時


「あ、そーなんだ!

そーだよなー!千尋彼氏いらないって言ってたもんなー!」


パーっと明るい顔になる空

……なーんかその顔は嫌い


そして、

千尋が最後のラブレターを受け取った日

あたしは翔の様子がおかしいことに気づいてた

何となくだけど千尋に手紙書いたの翔なのかな?

って思ってたけどここで言ったら翔の今までの努力が無くなる気がして言わなかった

空は相変わらず落ち込んだ表情

その顔…本当に見てられないんだよ

そして手紙の主が翔だって知らされて


「私………付き合ってみるよ」


千尋が一歩踏み出した

空は今にも泣きそうな表情

だからあたしは半分冗談で


「よっしゃ!空豆、あたしたちも付き合うか」


なんて言ってみたけど

軽く流されて泣きそうになった

気づけばあたしはいつも空の顔を見てあたしの心も動いていた


それは今だって変わらない

いつも空の心の中には千尋がいる

そんな千尋が悲しめば空だって悲しむ

そんな空が悲しむとあたしが悲しむ

もうどうしたらいいかわかんない

でもやっぱり楽しいのが1番で

あたしはみんなの楽しいの二の次でいいや


もし今日カラオケの中であたしが抵抗しなかったら

本当に空はあたしにキスしていたのかな……

フラれたから空はあたしに甘えて来たんだって思ってる

フラれてるのはあたしなのに

しゃーない、あいつは単純だしバカだし人の心読めないし鈍感だから

でもそんな空を好きになってあたしは後悔なんてしてない

千尋が好きな空だってあたしは胸を張ってそんな空が好きって思える


涙も止まったし

カラオケ再開と行きますか!

トイレを出た瞬間だった

化粧ポーチに入れてたスマホが鳴り出す

誰から?見てみると

ありゃ、こりゃまずい


「もしもし?」


まずいと思いながらも出た


『もしもし?結衣?

もーなんで学校にいないの?』


「あーごめんごめん

急に家に用があって帰ったら寝ちゃったーひひひひ」


こんなお節介を言って来る子はあの子しかいない

そうです。千尋です。


『空は?私空と話した後怒っちゃったからさ

どっかで見かけてない?』


千尋も空を心配してる


ごめん千尋


「空?見てないよ?」


あたし、嘘つくね


『ほんとにー?どこ行っちゃったんだろ?

結衣、サボりすぎもダメだからね?』


「わかってる、ありがとー

ばいばーい」


無理矢理切った

ごめん千尋

ごめん空

あたしが空に言った言葉そのまま返す

いい子ぶって仲良く友達やってちゃダメなんだ

身を引いて怖がってたのはあたしの方だった

空はずっと1人で戦って誰かを助けて来た

だったらあたしだって

そのくらい出来るもん!

少しでも空にあたしを見てもらえるように

絶対諦めないから!

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