第11章…過ち


結衣のやつ先に店出てんじゃねーよ!!

……俺が結局払うのかよ

と思いつつお金を払い外に出る


「まあ優しい空君、好きになっちゃいそう」


「おい、これからは冗談に聞こえないからな?」


「いいんだよ、思ったこと素直に言っちゃう人間だよあたしは

だーっはっはっはっはー!」




何が面白いんだよ

しかも笑い方やばすぎだろ

本当に好きな人の前でやる笑い方か?

とりあえず俺と結衣はそのまま駅に向かった


「さーーてどこに行こっかなー」


「もはや俺は場所決められないんだな」


「うん、まああたしについてきて」


結衣が言うには

最寄り駅から少し離れたところに

なんとどでかいゲームセンターがあるらしい

どこくらいでかいかと言うと

学校の中が全部ゲーセン

と考えてくれたら簡単だろう


「そんなでかいゲーセンあんのかよ!」


「しかも遊び放題ってやつにすれば

ゲームやり放題だって

半端なくね?」


「半端ねーな、これはやるしかねーな!」


「よーーし!やろー!!」


俺らはそのどでかいゲームセンターへ向かう


「ほらー!行くよー空」


どでかいゲームセンターに着いた

め、めっちゃでかい……

学校の中が全部ゲーセンって盛ってるかと思ってたけど

本当にその通りだった


「あはー!初めて行くよこんなとこ」


無邪気にはしゃぐ結衣

まだ中に入ってないのにスキップをしたり飛び跳ねたりしていた

たまにこういうところがあるから可愛く見えるときもある

中に入ると


「うわーー!でかーー!!」


結衣は大きく口を開けてあたりを見渡す


「マジで全部ゲーセンじゃん」


「本当だねー!すっごーーい!」


両手を広げ走り回る結衣

本当に元気だよなーこいつ


「早く受付しよーよー!

楽しみだぜー!」


受付に行くと

最大4時間コースで2500円で出来る

もちろん俺らは学校をサボっていて平日だったので少し空いている状態だ


「サボタージュ様々だな!」


「まあ結果オーライだな!」


俺と結衣は肩を組み同志と認めた


4時間コースで入った俺らは

もう何から入ればいいかわからない状態だ


「よーし空ー!何からやるかー!」


「とりあえずゾンビ殺すゲームにしようぜ!」


結衣は「おぉー!いいねぇー!」と言って好みのやつに入った


今流行りのVRとかいうやつだ

メガネを装着するとあたりがゲームの場面になり

本当にこの場にいるような感覚になる


「うあーめっちゃ怖そうだなこれ」


メガネを装着してる時点でビビる俺


「なーさけないなー空豆ー

こんなのねーゲームなんだから大丈夫だっての」


ゲームが始まると


バーーン!!


「いいいぃぃやああああぁぁぁ!!!」


結衣が思い切り叫ぶ


「うるせーなお前!」


「だ、だってゾンビが

わあああ!!!」


ゾンビが結衣に攻撃をしてきた


「俺が撃つから!」


ゾンビを撃って倒す


この調子だと結衣に任せるのは危険だろう

と思った矢先


「やあああああああ!!!!」


結衣が足元から攻撃されると

なぜか乗ってる台が震え出した

こんなにリアルなのかよ!!


「もう無理ー!!」


ついにしゃがみこんでしまった結衣


「おいー!まだ終わってねーだろ」


俺が結衣の肩をポンっと叩くと


「いやぁぁぁぁぁ!!なんでゾンビ触って来んのー!!」


パッチーーン!


と言って俺の顔に思い切りビンタを食らわす


「いてー!!!俺だよバカ!」


「え?」


メガネを外す結衣

目がウルウルと涙目になってる

しかしお前がビンタしたのは俺だ


「なーんだ空かー」


「俺でしかないだろ」


「顔がゾンビに見えた」


「やかましいわ!」


そしてしばらくゲーセンで遊ぶ

かなり凝ったゲームばかりだった

例えば画面に映ってる自分たちに向かって剣を振りかざすと

血を流して倒れるシーンを作れたり

太鼓の超人ではびっくりするほど曲数が多くて

どれをやっても飽きなかった

あとは無駄に長いホッケーとかもやったなー

長さは15メートルくらい離れてて

少し力入れて弾くだけでも相当スピードが出るホッケーで

障害物とかも出てきていたので楽しかった

めっちゃ遊べる、4時間なんてあっという間だった


「いやー楽しかったなー」


結衣は満足気にベンチに座る

残り30分あるけどもう満足

休憩所で2人座っていた


「なんだかもう眠くなってきたよパトラッシュ」


「俺は犬じゃねーよ」


と言いながらも顔や頭をわしゃわしゃされてることに抵抗しない俺

今日1日だけで距離が近づいている

まあ元からベタベタと触ってくる結衣だったから何とも思わなかったけど

今は完全に千尋にフラれたことを忘れていた

それは結衣が俺を励まし叱りその後こうやって楽しませてくれたおかげだと心から思った


「もうお昼の3時だよ

そろそろ二次会的なことしようよ」


「そうだな、次はどこ行こうか」


今日1日は結衣と一緒に居たい

千尋のことは全部忘れて楽しくやりたかった


俺の心はちょっと弱いのかな?

千尋にフラれて

優しくしてくれる結衣の方に頼って

情けないなと思うけど

こういう時こそ甘えさせて欲しかった


「よーーし!カラオケいこー!!」


結衣が立ち上がり


「おぉー!いいねー!

かなり久しぶりだな!」


千尋と翔がまだ一緒だった頃はよく行っていたけど

最近は行ってなかった

結衣と2人は初めてだったけど

何も問題はないと思っていた

でもなんかすげー楽しくなってる俺がいて

もう何でもいいや、


なんて……


カラオケに着くと


「ふーーーあつーい

やっぱ6月は暑いわー」


そう言ってブレザーを脱ぐ結衣

クーラーのスイッチを入れて胸元を扇ぐ姿が何故か可愛く見えてしまう


「さーて空何歌うー?」


「……?」


「寝ぼけてんじゃない!

何歌うの?って聞いてんの!」


何も考えちゃダメだ

今までの俺を思い出せ

そう思っても


“千尋が頭の中に入って来なかった”


「何?あたしと密室で2人きりだからってドキドキしてるの?」


顔を覗かせる結衣

いい加減冗談だと言ってくれ

いや、冗談でも今はやめてくれ

少し視線を下にずらすと

屈んだ時にブラウスの胸元に目がいってしまう

あぁ何考えてるんだろう

こんなはずじゃなかったのに


なんでこんなにも人肌恋しいのか

なんでこんなにも変わってしまうのか

高校生の俺にはよくわからなかったけど

俺は無性に結衣が愛おしくなった

触れていたくなった

無意識に俺は結衣の頬に手を添えた


「……ん?」


よく見るとまん丸い目をしていて可愛い

そして俺の視線は口元にいってしまう

もう俺はダメな男だ

結衣に顔を近づけた


スッ


結衣は俺の顔をスッと避けた

そこで俺は我に帰る

ハッとした時にはもう遅い

結衣は俺の肩に顎を乗せそのまま腕を背中に回した


「……なんでそういうことするの…?」


その一言で自分の犯した事の重大さを感じる

何してんだ俺……

なんで結衣にキスしようとしたんだ…?


沈黙の時間

俺は結衣に抱かれたまま

俺は抱き返すことはしていない


「今、あたしに何しようとしたの?」


耳元から囁かれる

どういうわけか言い訳の一つも出て来ない


「あたしとちゅーしてどうなるの?

千尋はどうすんの!?」


少し怒鳴るように結衣が言う

もう、俺、終わったな……


「……ごめん」


一瞬の気の迷いだった

俺は千尋にフラれたから結衣に甘えて

結衣が俺を好きだと言っていたから

“何でもいい”なんてふざけた考えになるんだ

俺は一言謝るだけだった

それでも離れようとしない結衣

どうせならまたさっきみたいにビンタをしてほしいくらいだった

なのになんで離れないんだ?

俺は無理矢理結衣を離そうとする

それでも結衣は離れようとせずに

俺の肩に顎を乗せたままだ


「………結衣…?」


「………なんだよ…」


結衣は泣いていた


「…結衣、本当にごめん!」


結衣がこんなテンション低く泣いてるところは初めて見た


「空って本当バカだよね」


結衣は重たい口を開いてくれた

確かに俺はバカだ


「あたしが何で泣いてるかわかんないでしょ?」


「それは…無理矢理キスしようとしたから?」


「……本当にバカ」


そう言って結衣は俺の背中を叩いた


「……あたしのこと、強い女の子だって思ってるでしょ?」


強い女の子……

確かに結衣は明るい

落ち込んでるところなんて見たことない

千尋がへこんでれば慰めて

みんなを笑わせてくれて

元気付けてくれる


「でもね、空が泣いた時、1番泣きたかったのはあたしなんだよ?」


「……どうして?」


「空が千尋にフラれて泣いてるってことは

千尋のこと好きすぎたからだよね?

空はあたしのこと好きじゃないじゃん

それはわかってるのに

なんでちゅーしようとしてくるの?

その場しのぎ?ただしたかっただけ?」


何も言い返せなかった

その通りだったから


「ごめん」


「謝ってばっか、

今日は空が落ち込んでたから元気付けてあげようと思っただけだよ

千尋を諦めろーとか、あたしを好きになれーなんて言わないよ

それなのに空がそんなことしてきたら期待しちゃうじゃん…」


結衣がまだ声を震わせて言う


「最後に言わせて?」


「……ん?」


「あたし、さっきは軽く言っちゃったけど

空のこと、本当に好きだからね?

中学の時からずーーっとだからね?

だから人一倍空のことで傷つくの

めーーーっちゃ泣きたくなるの

今度そういうことしてきたら

もう抵抗しないからね?」


俺はコクリと頭を頷くだけだった

結衣はメイク直すと言ってトイレに行った

1人の間、すげーやらかした感が漂っていた

昨日までカッコつけて千尋に告白した人間と同じとは思えない

最悪だ……

深くため息を吐く

結衣から言われた一言一言がグサグサと突き刺さる

意外にも結衣は繊細でちゃんとした女の子だった

って言ったら失礼だけど

でも、つくづくそう思った

行動、言動が子供だと思ってバカにしていたのかもしれない

あいつはあいつなりに考えていたんだ


中学の頃から思い返してみる

結衣は本当に人を元気にさせる強い人だった

本当にその頃から考えてみると

結衣には感謝しないといけなかったんだな

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