第10章…意外


◎空side◎


俺はトボトボと廊下を歩く

千尋は怒って教室に戻っていったし

俺はマジでどうすればいいんだ…

教室に向かう途中

背中の方から声がする


「ふっふっふっふー

くらえ空豆!」


怪しい声とムカつく呼び方で呼んでくるあいつがいた

そう結衣だ


「うわー!!つめた!」


背中に当ててきたのは水鉄砲

おいおいいくら初夏でもつめてーよバカヤロー!

勢いよく俺が振り向くと


「まずい!気付かれた!

にっげろーー!」


「待て!」


俺は結衣の制服の襟を掴んだ


「はい。私が悪かったです許してください」


「お前は朝からなんなんだ?」


テンション高く絡んでくれるのはいいけど

ちょっと気持ち的にブルーだから

悪気のない結衣には八つ当たりとかしないけど

ちょっとついてけないな


「いいじゃんかー!

百均に売ってたんだよこれ」


「知るか!捨てろ!」


「ほっ!」


結衣の水鉄砲は俺の顔面を濡らした


「うああー!バカ!マジでそれはないぞ結衣!」


俺は結衣の制服の襟を離し顔を拭く

その間に結衣は逃げて


「はっはっは!顔が濡れて力が出ないか?空豆!」


「……コロス」


俺は結衣を追いかけた


「に、逃げろー!」


結衣も走ったが元陸上部の俺に敵うわけもなく

俺はまた結衣の制服の襟を掴んだ


「おい、フェレットじゃないんだからその掴み方やめておくれ」


結衣が俺の掴んでる手をペチペチ叩くが

もう俺は怒った


「今日という今日は許さねーぞ」


「なんでそんなに機嫌悪いんだしー

千尋にフラれたか?」


ギクッッ!!

図星もいいとこだった

俺は結衣を離し


「うるせーな…

ほっとけ」


俺はいつも以上に悲しい表情を見せてしまった


キーンコーンカーンコーン


授業のチャイムが鳴る


「マジで?フラれたの?」


結衣がお構い無しに聞くと俺はそこから動けなかった


「みたいなもんかなー」


俺はそう言いながらそのまま地面に座った


「座んな!立て!」


結衣は俺の腕を持って体を起こした

そうだよなーチャイム鳴ったし授業始まるしな

結衣も何気に真面目なとこあるんだなー


「よーーし!行くよー空!」


俺の腕を掴んだまま結衣は階段に向かって歩いた


え?どゆこと!?

向かっているのは下りる階段

まさかこいつ?


「おい、どこに向かってる?」


「ん?外」


何考えてんだこいつ!

これはまずい!


「待て!俺はサボるなんてやだぞ!」


「いいから来るの!」


結衣は俺の腕を抱くように完全に離れようとしなかった

結衣には申し訳ないのとあんまり結衣をそういう目で見たくないんだけど

完全に胸が当たっててちょっとドキドキしている俺がいた

相手は結衣だぞ?ダメだダメだ俺!

と言いつつも結衣について行ってしまう


靴を履き昇降口を出て

職員室を通る時はしゃがんで窓から見えないようにした

そして校門を出てしまった


「ひゅー!わくわくするねー!」


「は、ははっ」


俺は苦笑いを隠せなかった

こうなってしまった以上は逃げられない

その間にも結衣は俺の腕を離していた


千尋と2人で出掛けた以来の女の子と2人で出掛けるのが結衣って……

でも結衣と居ると気が楽なのは確かだった


「よーし、じゃあとりあえず奢ってあげるからカフェでも行って話聞くからね!」


無理矢理連れてこられたのは学校の近くのカフェ

たまーーに放課後みんなでここに寄ってたけど

まさかサボってまでここに寄るとはな


カフェに入り

とりあえずアイスココアを頼む

んーーー結衣に話していいものか

色々な葛藤とその中にも結衣の優しさが身に染みていた


「んで?」


先に切り出したのは結衣


「ちゅーしたの?」


俺は飲んでいた水を吹き出しそうになる


「し、してねーよ!」


「だって今日動揺したし

そっからフラれたんでしょ?」


「あーもー!何回もフラれたとか言うなよ!

デリカシーねーのかよお前は!」


こうなると思っていた

あいつの喉には心のストッパーというものがないのか

言いたいことを好きなだけ言ってくるのが良いところでもあり、悪いところでもあると俺は思う


「まあ別にさ、空がフラれようがあたしには関係ないけど

千尋がどういう思いなのかが気になるんだよ

空が好きなの?翔が好きなの?

それともあたしが好きなの?」


おめーはねーよという言葉をかろうじて飲み込む

こういうのを心のストッパーというのだよ結衣さん


「昨日と今日であったこと全部話す」


千尋が俺のプリクラを捨てたこと

そして親友とかいう言葉で誤魔化したくないってこと

千尋と一緒に住もうと思ったこと

改めて好きと伝えたこと

その後翔の方が大事と言われたこと

全部結衣に話した

そして全部話したことで少しスッキリしていた


「やーーいやーーいフラれてやんのー」


「うるせー!」


もうネタにされるあたり結衣は心強かった

フラれていいじゃねーかよ

俺だって必死に頑張って考えた結果なんだよ!

……哀れ


ココアが届く

飲むとめっちゃうまい


「くあーー!ココアたまんねー!」


「めっちゃビール飲んでるおっさん風だけどココアだからダサいぞ空豆」


「いいんだよ、ココアってやっぱ最高にうめーな

ごちそうさま」


結衣は「へいへいどーも」と適当な返事をした


「空は千尋と今後どうするの?」


ココアに感動している中

そこが1番重要だろ!っていうことに気付かされた

でも俺は千尋の考えてることがよくわからなかった

プリクラを捨てた後に俺を特別扱いして

かと思いきや翔の方が大事?

じゃあ今翔はどこにいんだよ

千尋は俺との思い出に何があったんだよ

小学校の頃の話とかあまり覚えてない

けど昔じゃなくて今を変えたいから

俺は千尋に想いを伝えたんだ

なのにどうして……


「泣くな空豆ーー!!」


結衣は俺の頭をくしゃくしゃと撫でた


「……!?」


俺は慌てて目のあたりを触る

涙?いつの間に泣いてたんだ?


「なんだ、寂しいのか、

あたしの胸に飛び込むか?」


結衣が席を離れ俺の隣に行き両腕を広げるが


「行かねーよ」


拒んだが


「いいからこっち来なよ」


結衣は俺を無理矢理抱きしめた

いつもならやめろって言って離れてたが

なぜか心地よく感じてしまって

このまま動けずにいた

結衣……?何してんだ?

俺は少しドキドキしてしまう

結衣がこの後言った言葉に

俺の心臓が更に激しく動くことになる


「あたしね?

本当は空の悲しむ顔とか見たくないの」



頭が一瞬真っ白になる


「……どういうことだ?」


結衣の言葉の理解が出来なかった

戸惑う俺に結衣は優しく声をかけた


「深い理由は聞かないで

でも、中学の頃からこんな空を見るのはあたしも辛かったよ?

千尋のこと好きなんだろうなって気づいてたし

でも翔に千尋取られて毎日浮かない顔して

ずーーっと見てたけど言わなかった

言えなかった…」


なんで結衣がずっと俺を見てたんだ?

その深い理由がわからずにいる

とりあえず離れてもらうことに


「めっちゃ急だなどうしたんだよ結衣」


いつものようにふざけた感じで言うと

結衣はしかめっ面に変わる


「そうやってごまかして

いつもあたしを置いていくじゃん

逃げんなよ!」


結衣は怒鳴るように言う

俺はその言葉にはっとさせられる

結衣に初めて怒られた気がするけど

何も言い返せなかった


「自分の気持ちに嘘ついてまでいい子ぶってどうすんの?

楽な方に進みたいだけじゃん!

仲良く友達やってたけど

翔と千尋が別れた瞬間吹っ切れたように千尋千尋って

あんたが千尋を守るんじゃなくて

守られたい人を千尋が決めるんでしょ!?

自分の考えた事が通らなかったからって拗ねていじけて、

じゃあ千尋が空のわがまま聞けば空はそれで満足なの?

それじゃあ自己満足じゃん、

自分のことしか考えてないってことじゃん」


ズキズキと刺さった言葉だった


結衣が言っていることは全部正しかった

広島に帰る千尋の理由は親の仕事のためであって

今の千尋には俺との昔の思い出しかない

でも千尋は昔の俺に助けられたって言ってる理由は未だにわからない


俺と千尋の間になんかあったっけ?

それでも千尋と一緒にいれないから意味のわからないことを言われて腹が立ったのも事実だ


「空はもっと人の心の変化に気づいた方がいいよ」


結衣は俺の肩をポンっと手を置いて


「ま、あたしはフラれることもなかったけどねー!

空はちゃんと失恋ってもん味わえていい経験になれたんじゃない?」


結衣はそう言って自分の席に着いた

こいつも何言ってんのかわかんねーな


「そういうお前も意味深なこと言って逃げてんじゃないのか?

俺のことどう思ってんの?」


俺はストレートに結衣に聞いた

しかし結衣は動揺することもなく答えた


「ん?空のこと?めっちゃ好きだよ?

言ったことなかったけど」


ドテーー!!


俺は思わず席から転げ落ちた


「お前な!ノリが軽すぎるんだよ!

重さが伝わってこない!全く!」


「えーー?別に空が千尋のこと好きだって気づいてて言いたくなかったし

それこそ聞かれたら答えようと思いまして」


なんだそれ…

でも結衣の芯は全然ぶれてなかった

今でも慰めてくれるしこうやって叱ったくれているのも結衣だけだ


「さーーて、空に告ったし

フラれた空に優しくしたし

そろそろあたしの虜になるかな?」


「いや、ならねーよ」


「ぎゃははー!ですよねー!

いいとこ生意気な妹くらいにしか思ってなさそうだもんなー!

いいんだよ分かりきってたことだからさ」


結衣はそう言ってカバンを持った


「んじゃ、本格的にサボタージュ再開ってことでよろしく先輩!」


結衣はそのまま店を出ていく

結衣のいつもの笑顔は少し引きつってるようにも見えた

結衣…俺は結衣のこと友達にしか思えなかったよ

でも結衣の優しさと明るさは俺は好きだ

結衣は人を元気にさせる素敵な人だと思う

だから毎日飽きないんだなって思った

結衣と一緒に居るのも悪くないなって

今日この瞬間で思ってしまった

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