第9章…昔話


◎千尋side◎


空のバカ

なんでそんなこと言うの?

私は本当に昔の空が居たから

今も一緒にいられるって思ってるのに

もう忘れちゃったのかな?

空が私を助けてくれたの


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


小学5年生の頃の話

空と翔と3人でいつも一緒に居た


「なあ千尋!今日も学校終わったら公園で遊ぼうぜ!」


まだ幼い顔をしていた空はランドセルを背負って校門を出た

女の子の友達も居たけど

なんとなく空と翔と一緒にいる方が楽しかったから

遊ぶってなる時はいつもその2人だった


「いいよー帰ったらすぐ行くね!」


その時、翔は風邪を引いて休んでいた

家に帰って空と約束した公園に向かう

思えば空と2人で遊ぶのも不思議な感覚だった

いつもは翔も一緒だったし

でもそんなに気にしてなかった

空はなんとなく一緒にいると落ち着くし

しばらくすると空がやってきた


「千尋ー!」


いつも無邪気だった空は私に手を振った

私も手を振ると空はサッカーボールを持ってきていた


「公園と言ったらサッカーだろ」


「やだ!」


男の子の遊びがよくわからない私はサッカーなんてもってのほか


「えー!じゃあ何すんの?」


「かくれんぼ」


「小5でかくれんぼはダサすぎんだろ!」


「いいじゃんいいじゃん!やろーよかくれんぼ!」


「もーわかったよ」


空はサッカーボールを置いた


「わーーい、じゃあ私隠れるねー」


「お前、じゃんけんも無しに勝手に決めんなよな」


そう言いつつも空は下を向いてしゃがんだ


「20秒数えるぞーー」


私は「はーーい!」と大きな声で返事をして

公園の茂みに隠れた

茂みの隙間から見えるのは空が置いたサッカーボール

今かくれんぼしてくれたし後でサッカーして遊ぼうかな

そんなこと考えながら私は空が数字を数えるまで待っていた


そんな時


「よーーし!じゃあ千尋探すぞーー」


空がわくわくした顔で立ち上がる

その瞬間だった

ビュン!と風が強く吹いて

空が置いたサッカーボールが外に転がってしまった


「あ、」


気づいた私は茂みから外に出れたのでサッカーボールを追いかけた


「あ!千尋みーーっけ!

てか外に出るのずるいぞー!」


遠くから空の声が聞こえた

そんな事はお構い無しにサッカーボールを追いかけた


もーーどこまで転がっていくの!


と思った時だった


「千尋お前あぶねぇよ!」


私は道路まで出ていた


「へ?」


気づいた時には

目の前からトラックが走ってきて

大きなクラクションの音が鳴り響いて

私は目をつぶった


目をつぶると

私を勢いよく抱きしめ

私を覆い被さるように誰かが庇ってくれていた

そこから数秒

こんなに長く感じた数秒は初めてだった

目を開けると

私に覆い被さっていたのは空だった

トラックはブレーキをかけてくれていて助かった


「ちょ、ちょっとー危ないよ君たち」


慌てて窓から顔を出すトラックのおじさん

私はこの数秒の間で何があったかわからなくて固まる


「とりあえずどいてもらえる?」


おじさんが優しく言ってくれる

空は私の腕を持って立たせてくれた


無言のまま公園に戻り

ベンチに座る

空の顔は少し強張っていて


「ありがと」


私が言うと空は


「お前!死ぬとこだっただろ!」


私の肩を掴んで涙目になる空

その目は見たことないくらい真剣な表情だった


「なんで泣いてんの?」


私がそう言うと空は


「お前がいなくなったら

俺は誰と学校楽しめばいいんだよ!」


私はそう言われた瞬間

途端に空との思い出が走馬灯のように頭の中に巡ってきた

急に空が愛しくなって

私は空を抱きしめた


そこからどのくらい時間が経ったのかわからない

けど先に離れたのは私の方

空は私を助けてくれた

一緒に轢かれてたかもしれないのに

泣きながら私を必要としてくれた

そんな空とならいつまでも一緒にいたくなった


「空と私はずっと一緒だよね!」


これが私が空を好きになったきっかけだった

この事がなかったら私はこの世にいなかったかもしれない

それほど私にとって大切な思い出だった

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