第5章…思い

5



◎千尋side◎


もう何も考えたくない…

翔が別れようなんて

こんな時になんで……

右手がジンジンする

さすがにグーはやり過ぎたかな?

でも……それほど私は傷ついた

上の空で近くの公園のベンチに座る

私…これからどうしたらいいんだろう……

もう…わかんないよ

まだ涙が出てくる

誰にも見せれない涙…

しかし、こんな時に限って不運が起こる


「お!こんなところに制服JK発見!」


変な格好した男二人が私の前に現れる


「可愛いねー俺たちと一緒に遊ばない?」


「うるさい!あっち行って!」


そんな暇なんてない

私は強気で言う


「おぉー気の強い女だな」


だからなんだし!

もう無理…

私はこの場から逃げるように立ち去ろうとする


「おいこら待て!」


私が逃げる前に男に腕を掴まれる


「離してよ!」


「ヘッヘッヘ、お持ち帰り決定だな」


最悪……

私じゃ男の力には勝てない


「やめてよ!」


大声を上げても通る人は見て見ぬふり

もう……やだ…


そんな時だった


「千尋!!!」


聞き覚えのある声


「………空?」


「あぁん!?」


男たちも空の声に反応する

空が私のもとへ走っていく

……なんで来てくれたの


来てほしかったかほしくなかったかわからないけど

少し嬉しかった


「その子を離せ」


空が男の腕を掴む


「なんだテメェ

女の前だからっていい気になんなよ!」


ボコォ!


男は思いきり空を殴る

やめて…


「千尋、逃げろ!」


「無理だよ…」


足がくすんで走れない

空が危ないのに私は助けれないの…

男たちは空を殴り続ける

一回も手を出さない空は私の壁になるように両手を広げて立ち続ける


「この子には手を出すな!」


「かっこつけんじゃねぇ!」


また殴られる空

私のために…空が…


中学の頃もこんなことあった……


―――――――――


私が中学1年の時

ある理由で先輩達に囲まれたことがあった


「君、可愛いよね!」


「メアド教えてよ!」


「今度遊ばない!?」


三人の先輩に囲まれて私は困っていた


「ごめんなさい…」


私が頑なに断っても


「いいじゃん、」


ホントにやめてほしい…

そんなことされても困るだけなのにさ

そんな時…


「あれぇ?千尋なにやってんの?」


空が来てくれた…


「まさか…彼氏…?」


先輩達は目を合わせる


「そういうことですよ、

大人しく引き下がった方がいいですよ」


空は私と目を合わせる

実際付き合ってないけど、

そういうことにしとけば先輩達もどっか行くと思って言ってくれたのかな


「行こ、千尋」


空は私の手を握る

そこまでやるのは聞いてない!

でもなぜか心臓が暴れだしたみたいにドキドキしている

手を繋ぐのなんて初めてだし、

こうやって守ってもらえたのも嬉しい

何よりも私より空の方が手に汗をかいていた

そんなところが可愛かったり…

いつも空は助けてくれる

だからいつの間にか私の中で空の存在が大きくなっていたのかも


――――――――――


ごめん空、

私にはこれくらいしか出来ないかも

一瞬の隙をつく

私はすぐにケータイを取り110を押した


「もしもし………」


「この女警察呼びやがる!」


「逃げるぞ!」


私と空を睨みながら

男たちはすぐに逃げていった


「空……」


空はまだ立っていられるみたい


「ごめん…私のせいで」


「あぁ…お前のせいだ」


やっぱ怒ってんの……?

今まで空に声掛けられても怒ってたし

悪いことしちゃったよね


「ごめんなさい!」


私は勢いよく頭を下げる

でもすぐに空は私のおでこらへんを掴んで

顔を上げられる


「謝るんじゃねえよ」


なぜか涙が止まらない…

空は私のことを守ってくれた

それなのに謝るなって…


「………千尋」


急に真剣な顔で私を呼ぶ


「なに?」


下を向いて手を突っ込む空

そして空の口が動いた


「お前………妊娠してんだって……?」


私は何も言えずに胸を強く打たれる

やっと言えた言葉は簡単だった

私はたった一言


「してるよ…」


◎空side◎


『千尋が妊娠した』


翔が言った言葉

そして翔の決断

今にも泣きそうな声だったのが俺にもわかった

大切な千尋にやってはならないことしてしまったからだと思う。


「してるよ……」


千尋が事実を俺に伝える

本当だったんだな…


「ねえ…空」


声を震わせて俺を呼ぶ

そんな千尋に何も言えないでただ立ってるだけの俺


「妊娠しちゃって…

翔に別れようって言われてさ…」


千尋の目から涙が頬を伝うのが見える


「もう…どうしたらいいかわかんないよ」


いつも強気で

一度決めたことは曲げない千尋が

初めて口にした弱音

俺も今、どうしたらいいかわからない…

慰める?話を聞く?

こんなこと初めてだし…


「抱き締めてやれよ!」


遠くから聞こえる誰かの声


「………翔?」


翔だった

追ってきてくれたのか

千尋は振り向きもしないで泣きじゃくる

これでいいのか…?

俺は千尋を優しく抱き締めた

背中に手を回す千尋は俺の胸に顔を埋める

は、恥ずかしい


「もう、俺らは終わりだよな…」


翔はまだ遠くから俺と千尋に聞こえるように言う

泣きながら千尋に別れを告げるかのよう

千尋は俺から離れてすすり泣きをしている


「ふざけんなよ!小3の頃から好きだったんだろ!

お前は中途半端に投げ出さない」


「嘘なんだよ!」


俺の言葉を遮り食いぎみに翔は言う


「本気だってこと見せたくて嘘ついてた」


…………そうだったのか

千尋は表情を変えない

あの時屋上で怒鳴ったのはそれが理由なのかも

俺も今は翔に頭にきてるところだ


「でもさ…」


翔は溢れた涙をもっと流し


「付き合っても、ほとんど昔の空の話ばっかりなんだよ

そんな話聞きたくもないのに

千尋は俺と付き合っても心のどこかでまだ空のこと好きだったんだよ」


悔しさを表すように手をぎゅっと握る翔

……ちょっと待て

千尋…まだ俺のこと好きだったのか…?


「ちょっと…違う…変な事言わないで!」


「千尋はまだ空が好きなのに

妊娠させちゃって……

俺の立場がどこにもないだろ」


「私は翔が…」


「何も言うな!」


翔は千尋の言葉を遮る

そして震える声を抑えて

俺の目をまっすぐ見て

翔はとんでもないことを言い出す


「俺はお前らの前には二度と顔を出さない」


この言葉だけを吐き捨てて翔は俺らに背を向けた


「翔!待てどういうことだよ!」


呼び止めても止まる気配はなし


「………」


千尋は依然として俯き、泣いている

もうこの二人は終わったのか……


俺は納得がいかないぞ

まず、一番辛いのは千尋だ

子供が出来たのに別れるなんて……

今、俺は何が出来る……

答えは簡単だった

千尋も千尋のこれからも大事だから

このまま支えてあげたい


「千尋、」


泣き止まない千尋

こんなに泣いている千尋を見るのも初めてだ……

俺は今、決意したことを千尋伝える


「俺が千尋を支えたい………ダメかな?」


千尋はやっと口を開く


「嬉しいけど…無理だよ」


さらに泣きじゃくる千尋

無理じゃないよ…俺も頑張りたい


「俺にもやれることはやらせてくれよ」


「だから無理なんだって…」


「………なんで」


「……来月、急に広島に帰ることになったから…」


「………え?」


俺……ダメじゃん…

また千尋を守れないままじゃん…


「ごめんね…もう帰るから」


「……待て!」


「……………」


「俺はずっと…千尋のこと好きだからな…」


「…………………」


「俺にとって千尋は守りたい存在だから

ずっと…………っ!」


千尋は急に俺の方へ向き

俺の肩にそっと手を置いた


「ありがとう……でも……」


「……?」


「……また今度話そ?」


「…………」


千尋は俺から離れて


「それじゃあね!ありがとう…」


千尋は笑顔で去っていった

満面の笑顔だった

千尋が笑顔になってくれて少し安心した


何はともあれ

千尋と翔の一件は終わった

この後どうなるかなんてわからない

翔の言った


“俺はお前らの前には二度と顔を出さない”


この言葉の意味もまだわからずにいる

明日学校で会うだろ

そう思いながら俺は家に戻る

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