第4章…事実


1週間が経った頃


「千尋、気合い入れて行くぞ」


「……うん、」


俺と千尋はある戦いに挑んでいた

絶対に負けられない戦いを…


「あと5秒…4…3…2…1…」


「ゼロ!!!!!」


ガラガラ!


ゼロと同時に扉が開く


「行け千尋!突っ込め!」


「オッケー!」


俺が壁になるように両手を広げる


「邪魔だよ!」「どけ!このやろ!」


しかしすぐにどかされる

でもこの3秒くらいが大事なんだ、

トップは千尋

その後ろを大勢の人が追いかける


「千尋!もっと早く」


「わかってるよ!うっさいな!」


女子だからやっぱ追い越されるのも時間の問題

しかし、もう手前まで来てる!


そして――


「スッペシャルチーズケーキ…2つ…」


千尋が食堂のおばちゃんに頼む


「はい、スッペシャルチーズケーキね」


勝った…

いや買った…


「うおー!千尋ー!」


「やったー!」


ついに念願のスッペシャルチーズケーキを買うことが出来た


一日16個限定で

ほんのりあまーいチーズが濃厚で美味いとこの高校では評判である

この1週間、買えずにいたそのチーズケーキを買うことが出来たのだ!


「早速教室行こうか!」


「うん!」


見ての通り今ではちゃんと話してる

彼氏持ちの千尋じゃなくて

今まで仲良くやってきた友達の千尋として……

ノロケを聞かされることもあれば

勉強の話をすることもある

中学の時と変わらず何でも話し合う仲に戻りつつある


でもなー

こんなことまで俺に相談してくるなよ


電話が鳴る

画面を見ると『千尋』と書かれてる

夜の8時くらいに電話なんて珍しいな

いつも電話してくらなら夕方くらいにしてくるんだけどな


「もしもし?」


『…あ、もしもし!』


いつもとは違う、少し高い声の千尋


「どうした?」


『………あはは…』


なに笑ってんだ?


「何もないなら切るぞ?

家で壁当てしてんだよ」


『あるよ!壁当てよりも大事だと思う』


「じゃあ用件を言いなさい」


『……………』


変だ、明らかに変


「せめて心の準備出来てからにしろ

じゃあな」


『待て待て待て待て!』


「そんな待てばっかり言ってると

だんだん侍って字に見えるからやめて」


『ごめんて、言うからさ~』


「はよ言え」


少しだけ間が空く

言いたいけど言えない話なのか?

千尋そういうとこあるからな


「言う?」


『うん……』


千尋のタイミングで言わせる


そして

衝撃をくらうことになる


『エッチってどう思う……?』


「………………………え?」


なななななな、何を言ってるんだ!


『待ってごめん、今一人?』


「いや部屋に居るし一人だけどよ~」


こいつマジでなに言ってんの?


『………で……どう思う?』


「その前に結衣に相談した方がいいだろ

なんで俺なんだよ」


『結衣に相談しても顔真っ赤にさせて

知らない!って言うんだもん!』


あいつ意外と可愛いとこあんだな


『……ねぇ』


ドキッ!


話題が話題なだけにその“ねぇ”は強力だぞ

取り乱しちゃダメだな


「おう、なんだよ…やる予定がありますよってか?」


『もうすぐ1年経つしそろそろ…ね』


なんで好きな人がそういう行為をすることを事前に知らされるんだよ


「別に良いんじゃねえか?

付き合ってるなら当然の事だろ」


『だよねー……』


「………切っていい?

恥ずかしい」


『あ、う、うん、ごめんね』


「大丈夫だと思う。

んじゃ頑張って」


『うん、じゃあねー』


………あぁ

千尋もついに大人になるんだな

そして翔も大人に…

あまり深く考えたらキリがないな

考えたら考えた分だけ妄想が膨らむし

あぁ……


そんな二人だが…

さらに1週間が過ぎその放課後

学校が終わるチャイムが鳴ると千尋はすぐに学教室を出ていった

その時は翔のところへ行ったのかと思っていた


しかし…

俺は調べものがあるため図書室に行くと…


「………千尋?」


千尋の姿が目に写る

しかもよく見てみると…

泣いている


「どうした?なんで泣いてんの?」


俺は慌てて千尋に駆け寄る


「いいの………小説が泣けただけ」


あからさまな言い訳をする千尋

時間が経てば経つほど千尋の涙は量を増す


「翔となんかあったのか?」


考えられるとしたらそれしかない

千尋は黙って首を横に振るだけ


「何があったか教えてくれよ」


「もう放っといてよ!」


千尋が怒鳴るように俺に言うが


「放っとけねえだろ!」


俺もまた怒鳴るように言った


「千尋の泣き顔なんて見たくないんだよ」


千尋が好きだから言えたこと

千尋が泣いてたら放っとけないのは当たり前なんだ

千尋は立ち上がりカバンを背負う


「絶対追いかけないでね」


そう言って千尋は図書室を出る

なんで教えてくれないんだ…

今まで俺に相談してくれてただろ…

そんな関係でも良いと思ったから

俺は千尋の思う俺のままで居たんだよ

それでもいつか話してくれると信じて

調べものも探さないで俺は学校を出た


ある日の平日

俺は久しぶりに翔と屋上で弁当を食っていた

まあ理由はある

普段翔は千尋と弁当を食ってるけど

最近食ってない

何があったかは教えてくれない

まあ二人の間につけ入るつもりはないけど


「タコさんウインナーうめーなー」


「お母さん絶対子離れ出来ないだろ」


「自分で作ってんだよバカタレ」


自分でタコさんウインナー作ってるって

相当病んでるだろ


「なあ翔、千尋となんかあったのか?」


俺が翔に聞くと


「何もなかったと言ったら嘘になるけど

食べたものは大抵クソになるぞ」


「おい、誤魔化すなよ」


「…………」


翔は黙りこくる

誰もいない屋上だったが

しかし…

この場所は一気に修羅場と化する


「空ーちょっとこっち来い」


どこからか声がする

声の方を向くと結衣と千尋が居た

さっきの声は結衣の声


「なに?」


俺は二人のところに行くと


「さあ、行こうか、」


結衣は俺の背中を押しながら歩く

なになに?

あいつら二人に任せるってこと?

大丈夫か?

千尋の顔をチラッと見ると

相当深刻そうだった

俺と結衣は屋上の階段から降りて四階の廊下で待つことにする


「大丈夫か?あいつら」


「……わかんない」


結衣の顔もいつになく真剣

俺は千尋の深刻そうな顔を思い浮かべる

そしてあの日の電話の件も思い出す

それと何か関係あるなら……


「何があったか知ってる?」


俺は結衣に二人の事情を聞く


「よくわかんない」


結衣は眉間にシワを寄せて首を横に振る

結衣がわからないなら

もう、二人の問題だな…


「―――ふざけんな!!」


千尋らしき怒鳴り声に反応する俺ら

そして足に力を入れながら階段を降りる千尋は俺らを無視してさらに階段を降りる

何があったかはわからないが翔のところへ駆け付ける

屋上に入ると頬を押さえる翔の姿があった


「ビンタされたのか」


「ちげぇよ、グーで殴られたんだ」


理由はわからないが

千尋もグーはダメだろ


「とりあえず話を聞きたいんだよ」


俺は翔に言う


すると屋上の地べたに座り


「………そうだよな」


力なしに言った翔の言葉

俺も翔と同じ目線で話したいから

地べたに座る


「早い話を言ってしまうとだな……」


「――――――」


「………」



「ということだ」


俺と結衣は翔の話を聞くと

言葉に失うほど衝撃を受けた


「それ、マジで言ってんのか?」


「大マジだ…」


真剣な目をする翔に偽りは見えなかった


「俺も色々あって……

千尋と別れたいんだ」


次々と明らかになる真実

しかし…


「お前…別れんじゃねえよ」


俺が言うと翔は少し涙を浮かべる

千尋はお前のおかげで変われたって言ってたんだぞ

俺には出来なかったことをお前が出来て

ここで別れるなんて卑怯じゃねえかよ

俺は言葉を吐き捨てて屋上を出る


千尋を探そう!

電話をしても出ないし

学校中を探しても居ない

こりゃ街に出た方がいいな…

俺は街を走る

初恋の千尋を守るために

俺はただの友達かも知れない

でも俺は千尋を守れる存在になりたい

あの時は探さないでなんて言ってたけど

これだけは言わせてくれ…

日が暮れてもいい

次の日歩けなくなってもいい

夜になったって探すよ

千尋を守るために……





◎千尋side◎


もう何も考えたくない…

翔が別れようなんて

こんな時になんで……

右手がジンジンする

さすがにグーはやり過ぎたかな?

でも……それほど私は傷ついた

上の空で近くの公園のベンチに座る

私…これからどうしたらいいんだろう……

もう…わかんないよ

まだ涙が出てくる

誰にも見せれない涙…

しかし、こんな時に限って不運が起こる


「お!こんなところに制服JK発見!」


変な格好した男二人が私の前に現れる


「可愛いねー俺たちと一緒に遊ばない?」


「うるさい!あっち行って!」


そんな暇なんてない

私は強気で言う


「おぉー気の強い女だな」


だからなんだし!

もう無理…

私はこの場から逃げるように立ち去ろうとする


「おいこら待て!」


私が逃げる前に男に腕を掴まれる


「離してよ!」


「ヘッヘッヘ、お持ち帰り決定だな」


最悪……

私じゃ男の力には勝てない


「やめてよ!」


大声を上げても通る人は見て見ぬふり

もう……やだ…


そんな時だった


「千尋!!!」


聞き覚えのある声


「………空?」


「あぁん!?」


男たちも空の声に反応する

空が私のもとへ走っていく

……なんで来てくれたの


来てほしかったかほしくなかったかわからないけど

少し嬉しかった


「その子を離せ」


空が男の腕を掴む


「なんだテメェ

女の前だからっていい気になんなよ!」


ボコォ!


男は思いきり空を殴る

やめて…


「千尋、逃げろ!」


「無理だよ…」


足がくすんで走れない

空が危ないのに私は助けれないの…

男たちは空を殴り続ける

一回も手を出さない空は私の壁になるように両手を広げて立ち続ける


「この子には手を出すな!」


「かっこつけんじゃねぇ!」


また殴られる空

私のために…空が…


中学の頃もこんなことあった……


―――――――――


私が中学1年の時

ある理由で先輩達に囲まれたことがあった


「君、可愛いよね!」


「メアド教えてよ!」


「今度遊ばない!?」


三人の先輩に囲まれて私は困っていた


「ごめんなさい…」


私が頑なに断っても


「いいじゃん、」


ホントにやめてほしい…

そんなことされても困るだけなのにさ

そんな時…


「あれぇ?千尋なにやってんの?」


空が来てくれた…


「まさか…彼氏…?」


先輩達は目を合わせる


「そういうことですよ、

大人しく引き下がった方がいいですよ」


空は私と目を合わせる

実際付き合ってないけど、

そういうことにしとけば先輩達もどっか行くと思って言ってくれたのかな


「行こ、千尋」


空は私の手を握る

そこまでやるのは聞いてない!

でもなぜか心臓が暴れだしたみたいにドキドキしている

手を繋ぐのなんて初めてだし、

こうやって守ってもらえたのも嬉しい

何よりも私より空の方が手に汗をかいていた

そんなところが可愛かったり…

いつも空は助けてくれる

だからいつの間にか私の中で空の存在が大きくなっていたのかも


――――――――――

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