第2章…嫉妬


俺が千尋を好きになったのは覚えていないけど

意識するようになった言葉がある

小学校5年生くらいの時かな?

正直言うとそれまでは仲の良い友達としか思ってなかった

でも不意に言ってきた千尋の言葉


『空と私はずっと一緒だよね!』


今でも忘れられない

あの時の胸の高鳴りと

初恋の瞬間を…


“でも今は違う”


ガラガラ


静かだった教室からドアが開く音が響く

振り向いてみると

そこには千尋と翔が並んで歩いてくる姿が目に写る

もう…千尋は翔のものだ

千尋にはライバルが多い

だから俺は身を縮めていて

ただ臆病に千尋の友達をやっていただけ

今回は翔の勇気が認められた証なんだろう

情けないな……


「おはよー」


「おっふぁーい結衣今日早かったんだね」


結衣と千尋がいつも通り適当に話してる


「空坊。」


「ん?」


翔が席に座ると同時に俺の名前を呼ぶ


「やっと念願が叶ったぞ!」


「おう、よかったな」


全力の苦笑いにならざるを得ない

もう俺の恋はこの男に終止符を打たれたな

よりによって翔に

はぁ…なんで翔なんだよ…

翔は普段からちょっとノリがウザイけど翔のいい所も知ってるから尚更なんとも言えない


「千尋はどうやって答え出したの?」


結衣が千尋に聞く


「翔の家まで行った」


「わお!大胆だね!」


さすが千尋としか言いようがないな

あぁ…ノロケなんて聞きたくねぇんだよ

そんな俺の小さな願いが叶ったのか

チャイムといういつもは地獄を呼ぶ音にしかなかったものに救われる


そして1ヶ月が経つ

千尋と翔はそれなりにカップルやってるみたい


「しくったな受験生だ」


「何当たり前のこと言ってんの?

頭おかしいんじゃない?

むしろもう壊れてるだろ

ガラクタは大人しくバグってろよ」


翔の言った事を10で返す結衣


「うるしゃーーい!

受験生だからデートが出来ねぇんじゃい!」


結衣の言葉に耳を塞ぎながら翔は叫んだ


「受験までは我慢ね」


「初デートが遠い…」


千尋が翔の肩を叩く


はあーーー!

ふざけるな…

リア充共が…


「空。」


「はい?」


千尋に呼ばれる

なんですか?リア充様!

ひねくれてる俺

これは心の中だから表には絶対に出さないぜ!

千尋が何か耳打ちをしてくる


「翔には内緒で明日どっか行こ」


「…………マジ?」


翔に聞こえないほど小さな声で驚く

なんで!?

いやいや、意味わかんないから!

いや、嬉しいけど…

浮気にならないのか?


「またあとで連絡するから」


「わかった」


何がしたいかわからないが

喜んどく?どうなの?

なんだか皮肉な気分だ


しかししばらくすると後ろでイチャイチャの騒ぎ声が聞こえる


「翔はどこ行きたい?」


「どこでもいい」


「はっきり決めなさい」


「どこだって楽しくなるだろ」


……撃沈しそうだよ!!

俺の出番はお呼びでないよな!?

なんで翔とそんな会話をしておきながら俺を遊びに誘った!?

しかも翔に内緒で!

もうよくわかんねーよ


「……あいつらうるさいな」


と思わず小声で結衣に愚痴った


「なんだ、寂しいのか、

あたしの胸に飛び込むか?」


相変わらずうるさいなー結衣は

今度後ろから飛び蹴りしてやろ


そして次の日

スーパーで待っててって言われたけど

なぜスーパー?

何か買うの?

それともなに?

強盗?それはない?

こんなバカなことを考えてるうちに


「おっふぁーい」


千尋が来た


「服ちょーいいねえ!

イケてるわ」


千尋は昔から可愛い服とか着てたからな

あと服を褒める男はモテるって本に書いてあった

これで千尋が振り向くとは思えないけど…


「てか何でスーパーで待ち合わせなの?」


「わかんない、ノリだよ!」


ノリって…

なに翔みたいなこと言ってんのやら

翔……

そういうことか……

千尋が翔のテンションに合ってきたってことなのか

今さらなに言っても遅い

とりあえず今は楽しむだけだ


「どこ行くの?」


「ゲーセン行こうよ!」


千尋が指差す方へ

ってゲーセンもっと遠いぞ?


「ゲーセン集合でよかったんじゃね?」


「いいの!ノリだよ!」


また翔みたいなこと言いやがって

あーあー嫌だ嫌だ

てか普通に遊びなのかよ!

受験生がどうたらこうたらで遊ばないって言ってたのにな


ゲーセンに向かう途中


「思えばさ…二人だけで遊ぶの久しぶりだよね」


千尋が突然言い出した


「そうだな、昔は翔も居たし

三人で遊ぶのがいつもだったしな」


確かに二人だけで遊ぶのは小学生以来

あの時は翔は風邪を引いて休んでた時だったよな

かくれんぼしたっけ?どうだったかな?

今のこの状況をデートと呼んでもいいのかはわからなかった


「着いたぞー」


15分掛けてゲーセンにたどり着く


「おもくそ遊んでやろうか!」


「おぉー!」


ただただ楽しく遊ぶだけの時間だった

二人だけは久しぶりだったから

やっぱ照れ臭い部分もあったけど

昔に戻ったように無邪気に遊んでいた


「空!プリクラ撮ろうよ!」


「オッケー!」


プリクラの中に入る


ちょい待て……


どんな感じに撮ったらいいんだよ!


「早くー!もう撮るよ」


『準備はいい?じゃあ撮影スタート!』


すげー!機械が喋ったぞ!!

ってわしゃおじいちゃんか!

とりあえず王道のピース

そして千尋もダブルピース


『すんっっごくいいわ!』


ありがとうございます!


『じゃあもう一枚いってみよう!』


「空、変顔しよ!」


千尋が楽しそうに要求をする


「任せとけ」


『じゃあ撮るわよ!はい!ポーズ!』


俺も千尋も原型がわからないほどの変顔で撮ってみた


「あははは!ウケる空の顔!(笑)」


「お前も人のこと言えねえよ(笑)」


『すごくいい顔ね!食べちゃいたいわ』


「このプリクラさん俺らの変顔食べたいって(笑)」


俺がそう言うと千尋は大爆笑して


『じゃあラスト!はい!ポーズ!』


三枚目の写真はこれ以上ないほど笑顔だった


「はぁ~面白くて死ぬわぁー」


まだまだ笑ってる千尋


『おまけでもう一枚撮っちゃうよ!

好きな背景を選んでね!』


このプリクラさんやるな!


「もう一枚だって、」


素早く背景を選ぶ千尋


『準備はいい?』


「ねぇ、両手出して」


「ん?」


千尋に言われるがまま両手を出すと


「横向いて!開いて」


「こうか!」


上半身を斜めに向けて

大きな輪っかを作る


『はい!ポーズ!』


これで終了

四枚目のプリクラの落書きには

輪っかの中に親友と書いた

親友か…本当にそれで落ち着けるのか俺は


ゲーセン終わり

みんな大好きファミレスで昼飯を食う

って言ってももう昼の3時だけどね

腹減りすぎて背中とお腹がくっつきそうだ


「この間テレビでさ

デツコマトリックスが……」


そんな俺にお構いなしに喋り続ける千尋

気軽に喋れる俺だからなのかなー

これでいいのか…?

俺は恋愛で一番まずい友達止まりというポジションに来ている

いや何度も言うけど手遅れだけどな


「千尋、大丈夫なのか?」


「ん?なにが?」


「その……浮気とかにならない?」


今さらながらここを気にしてしまった俺


「大丈夫、空なら問題なし」


何が言いたいんだ!

空ごときじゃ浮気にならんと言うことか?

はった倒してやろうか!

ムカついてきたな


「きっと翔も許してくれると思うよ

空なら問題なしって言って」


まあ俺らの仲だからってことかな?


「ただ、翔には内緒だからね」


人差し指を口元に持っていく千尋


「……………」


「どした?」


黙り混んだ俺を心配する千尋


「なあ千尋…」


「ん?」


「俺を特別扱いしないでくれよ」


「………え?」


翔には内緒ということを忘れてたから


今になって思ったことがある


「俺よりも翔の方を優先してやれよ

翔が勇気出してコクってお前がオッケーしたんだから

お前は翔のとこ行けよ」


「なに言ってんの、空とは長い付き合いじゃん」


友達だと言いたいなら俺はへこむぞ

俺と内緒で遊んでることを翔が知ったらそれこそ翔もへこむぞ


「でも彼氏は翔だろ

友達より彼氏優先しろよ」


誘われた時に言えばよかったと後悔してる

千尋にとって俺は友達で翔は彼氏

そんな友達の俺は

誘われるだけでも…変に期待しちゃうから…

それで彼氏が居るとか嫉妬するだろ


千尋は明らかに不機嫌そうな顔をする

なんだよその表情は

俺は折れねーからな?


「お待たせしました。

海老ドリアとキノコパスタです。」


店員がテーブルに置く

俺と千尋は黙ってそれを食べるだけだった

そして

食べ終わってしまった

仕方ない…


「帰るか」


千尋に気を使うように言ってあげると


「うん」


立ち上がる千尋


「俺が多く出すよ」


まあ親から貰ったお金だけど


「え、私が多く出す」


「何でだよ!俺が出すから」


「ダメ!私が出す」


…………


「女に多く出させる男とか情けねえだろ!」


「でも今日付き合ってもらったから

これくらい私に出させてよ!」


頑固な女だ!


「あのぉ他のお客様のご迷惑になるので……」


………


「割り勘にするか…」


「そうだね…」


ムキになってしまった二人は少しだけ反省する

ファミレスを出て

そのまま家に帰ることにした

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