第1章…手紙

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『中学時代』


いつもと同じような毎日でダルい

それでも学校があるから行かなきゃいけない

学校の昇降口に行くと

見慣れた女が立ち止まってる


「お前何やってんだ?」


「あ、空…」


俺の名前は真崎空(まさきそら)

4月から受験生になりました15歳です!



そして神妙な顔をしているこの女の子が同級生の

古瀬千尋(ふるせちひろ)

どうも千尋が困ったような顔をしているので声を掛けずにはいられなかった


「何かこんなの入ってた」


どうやら千尋の下駄箱にピンク色の手紙が入ってたらしい

こりゃ完全にあれだよな


「愛の手紙。通称ラブレターちゅーものだなこれは」


「えぇー!やっぱり!?」


ピンク色の手紙で気づくだろ普通

男がピンク色をチョイスするのもおかしいけどね


「どうすんの?」


「多分断ると思うよ」


千尋は小学校も一緒だったからわかるよ

千尋がめちゃくちゃモテるってことを


「お前的にまたか!って感じだろ?」


モテ子の千尋に俺は鋭い眼差しで言った


「まあぶっちゃけね

名前書いてないけど告白したいので放課後校舎裏で待ってますだって」


俺を見てにやける千尋

くそう!そんなにおかしいのか!コクられない俺が!


俺と千尋は何でも話し合う仲だった

とは言うものの

それは偶然が重なったものだった

小学校三年生の頃

この頃の年の子は女の子をいじめるなんてことが流行ってた気がするけど

なぜか俺らのクラスだけ男女仲がよかった


「転校生が来るって知ってるか!?」


今、噂になってる転校生が来る話

朝の会が始まると見たことのない女の子が教室に入ってくる


「今日から新しい友達が増えました!」


それは広島から引っ越して来た千尋だった

転校生して来た千尋はすぐに俺らと馴染めてた

そしてやっぱりこの年の子はクラスの中でグループが出来たりする

そのグループに入ってたのが俺と千尋で

わりと俺ら二人が仕切り役だった


いや…もう一人いるか


内海翔(うつみしょう)

こいつとは今も同じ中学で結構仲が良い

この三人でたまに遊んだりしてるのは中3になった今も変わらないことだった


「おっはよーお二人さん」


噂をすれば登場

やけにテンションが高い声を上げる翔が陽気に挨拶をしてくる


「何それ見せて」


翔が手紙を覗き込む


「あ、見ないでよ勝手に!」


千尋が翔を押す


「俺にも見せてくれたっていいじゃんか!

いけず!どうせラブレターかなんかだろ」


「翔に見せると言いふらすからやなの

いいから空とどっか行ってよ」


「俺もかよ!」


巻き込み事故にもほどがあるだろ

なんか知らんが翔と同じにしてほしくないな…


「しゃーねぇーな。行くか空坊」


「おう」


たまに空坊と呼ぶのはこいつだけ

ちょっと腹立つけどもう慣れたからいいけどね


教室に入ると


「はぁ…」


翔が深いため息を吐く


「ん?どうした?

お前がため息とかめずらしいな」


心配をして翔に聞くが


「いや、なんでもない

生理痛がひどくてな」


「お前生理痛こねえだろ」


なんだ、いつもの翔じゃん

俺は少し安心して翔の前の席に座る

しばらくすると


「おっふぁーい」


「おはよーかおっぱいかはっきりしろ」


戻ってくるなり間抜けた声で挨拶をする千尋に俺はツッコミを入れる


「言おうとしてないから!変態」


若干引きずってる笑顔で俺の頭にチョップを当てる千尋

つまらん女だな!

そんな千尋は翔の隣に座る


「どうだったの?ラブレター」


翔が気を使わずに千尋に聞く


「放課後だって言ってんでしょ!

何回も言わせないでばか!!」


ちょっとキレ気味に怒鳴る千尋


「お、俺、まだ聞いてなかったじゃん…」


確かに悪いことはしてないけど

よくわからんが翔は怒鳴られると思ったよ

しゅんとなる翔


「もういいもん!寝るもん!ドラえもん!」


理不尽に怒られた翔は顔を伏せる


「千尋、後で謝った方がいいぞ」


「あはは…そうかもね」


そして授業が始まる頃


ガラガラ!


勢いよくドアが開く


「セーフ!」


「アウトだバカ」


これまた同級生の小島結衣(こじまゆい)が先生とショートコントみたいな会話をさせる

結衣とは中学から一緒だけどすげぇ面白いやつだよ


「たったの15分遅れただけじゃんかー

あたしならセーフにするけどな!」


「15分も!だろ!

それでセーフにさせてたらクビだわ」


これもまたこのクラスの魅力かもな

さっき毎日同じでダルいなんて言ったけど

この会話で一日が始まるとか楽しすぎるだろ


「ちぇー。また遅刻だよ」


そんな結衣は俺の隣に座る

この四人で一つの班を作っている

賑やか過ぎて怒られる時があるほど

特にうるさいのは翔と結衣だけど


「イエーイ!みんなおはよー!」


「イエーイじゃないし。遅い」


千尋が結衣に言うと結衣は高い声で爆笑する

何が面白いのかわからんけど


「小島!いい加減静かにしろ!」


「わりぃ!これに免じて」


結衣には似合わないセクシーポーズをする


「気色悪いからやめろ」


俺は結衣に一言浴びさせる


「空豆。喧嘩売ってるのか」


誰が空豆じゃ!

結衣とバカなことをしてるうちに

時が流れる


そして放課後

4人集まって教室で話すのがいつもの日課


「千尋、お前今日行くの?」


俺はラブレターの件でちょっとだけテンションが低かった千尋に聞いた


「うん、行ってくるからちょっと待ってて」


そう言って千尋が教室から出ていく


「相変わらずモテるよね、千尋って」


手を頭の後ろに持っていき椅子の背もたれに背中をもたれる結衣


「小学校の頃からそうだっからな」


俺が答えると結衣が悔しそうな顔をする


「ちきしょ!あたしも放課後呼ばれたいわ!

男子もそういうの憧れるっしょ?」


「そりゃまあ憧れるけど

千尋の場合いつものこと過ぎてテンション下がってんだよな」


幸せな悩みとはこの事だぜ


「ねえ、翔もこういうの憧れない?」


今日やけに元気がない翔の頭をポンッと叩く結衣


「わりぃ!うんこしてくる」


「はあ?」


翔が立ち上がり教室を出る


「変だなあいつ」


結衣が一言放った


「いつも以上に変だな」


俺も変だとは思ったけど

こんな日もあると思いこの時は気にしてなかった

だけどこれがすべての始まり






◎千尋side◎


みんなに見送られながら教室を出る

名前書いてないラブレターが一番困るんだよね

だからと言って返事をしないと可愛そう

三年生校舎の裏に行く

………誰もいないみたい

イタズラならそれでいいんだけど一応待ってみる

普通相手が先に来てるもんだよね?

このパターンは初めてかも


5分後


来ないよ!

ダメだ…帰ろう、マジ最悪…

ただでさえ断るための言葉考えてストレス溜まってるのにうざいんだけど!

私はここから出るために立ち上がろうとする


その時


「遅れてごめん!」


「………え?」


私の目の前には信じられない光景が

さっきまで私を見送ってたはず

私の目の前には息を切らした翔が居た


「手紙読んでくれたことはもうわかってるよ」


「……嘘でしょ(笑)」


冗談きつすぎるよ


「嘘なら俺最低じゃね?」


明るい声で言うけど

それこそ冗談に聞こえなかった


「時間あるならちょっといい?」


「……うん」


驚きの事実で動揺を隠せない

動揺したままの私に気を使うように

私が座る場所を綺麗にしてくれる

二人座る校舎裏

いつもふざけてる翔とは思えないほど真剣な顔をしている


「そろそろ本題に入るぞ」


翔がそう言うと口が一気に渇き私まで緊張してしまう


「千尋が好きだ」


ドキッ!


あまりにもストレートな言葉で私の鼓動が激しく動く


「こんなこと急に言われると戸惑うってことは知ってる

だから返事はいつでもいいよ」


この言葉を吐き捨てて翔は立ち上がった


「待って!」


私は去ろうとする翔を呼び止めた

振り返る翔


「いつから?」


「小3から」


翔はカバンを背負って校舎裏から立ち去った


「小3って………」


小3の頃って…

私が翔とはじめて出会った頃は言うまでもない

ラブレターの主、翔の告白、翔の一途な思い

様々な事実を背中で引きずりながら教室に戻ることにした






◎空side◎


「千尋遅くね?」


俺が結衣に聞くと


「そりゃキスするから遅くなるだろ」


と答える結衣

もうツッコむのもダルくなってきたな


「その前に翔遅すぎじゃね!?」


俺がそこに気がついた時


ガラガラ


静かに開けられたドア


「………」


席に座ったのは

翔よりも早く戻ってきた無言の千尋だった


「どうだった?誰だった?付き合った?フラれた?ふった?ぶたれた?

イエス!ラブレター☆」


「うるせー!」


「ごめんなさい」


ふざける結衣に俺は怒鳴る

バカな結衣は置いといて


「どうしたんだ千尋?

気持ち悪いやつにコクられたのか?」


千尋の表情が明らかに暗い

時々こんなことあるけど

こんなに暗いことあったか?


「あのね……」


千尋がやっと重い口を開いた


「手紙くれたの翔だった…」


「「……え!?」」


思わず声がハモる俺と結衣

そして言葉を見失う


「マジで言ってんの?」


結衣が目を大きくさせて千尋の顔に近づく


「返事はいつでもいいって」


「マジかよ……」


明日からどうするんだ?

翔は千尋の隣の席だぞ?

気まずくて仕方ないな

いや、その前に…


「千尋はどうする気なの?」


結衣が聞く


「わかんない」


そう言って千尋はため息を一つ吐く

めっちゃ仲の良い友達にコクられる

友達のままにするか一歩踏み出すか

これしか答えはないんだ



バンッ!



千尋は俯いて机を強く叩く


「どした?」


結衣が千尋に優しく問い掛ける


「私………付き合ってみるよ」


「「え!?」」


またハモる俺ら


「まあ、それならそれでいいんじゃね?

悪くないと思うよ」


と言いながら結衣が千尋の肩に手を置く


「だよね、空豆」


「……お、おう」


このグループからカップルが誕生するなんて

ちょっと考えずらいけど

千尋がそう決めたなら何も文句はいえない

まあせいぜいリア充頑張ってくださいとしか言えないな

…‥それしか言えない


「よっしゃ!空豆、あたしたちも付き合うか」


「よし!千尋!帰るか!」


「こらー!無視するな豆のくせに!」


こう言う時の結衣の冗談はかなりうざいな

バカはほっとけと言ったところだな

とりあえず一応結衣も入れて三人で帰る

少し落ち着いた千尋は結衣の冗談に笑顔でツッコんでた


次の日

今日は早めに学校に着いた

そのせいかまだ教室にはほとんど人はいない

しかし、意外な人物が居た


「結衣?」


「あ″ぁ!?」


顔を机に伏せてた結衣が起き上がる

にしても不機嫌だな


「お前早くね?泊まってたの?」


「ちげぇわぼけぇ!」


隣に座ると筆箱が飛んでくる


「なんでこんな早いの?」


「お前こそ」


俺が学校に来るのは今の時間より20分後である

結衣に関しては30分後

二人が早く来た理由は同じだろう

“翔と千尋が今どうなってるか”

お互い言葉にはしなかったけど

何となくわかっていた

気になってしょうがないんだよな


「千尋と翔、一緒に来るのかな?」


「どうだろうね」


俺は結衣の質問に一言だけで返す

千尋は何て言うか

気が強いし一回決めたことは曲げないやつだから

なんだかんだ上手くやりそうだな

でも、千尋と翔が上手くやれるか、なんて事は考えたくもなかった

今の俺は自分に嘘しか付いていない

本当は千尋が手紙をもらった時点で

待ち合わせの場所まで行って欲しくなかった

千尋が立ち上がった時に、もう少し考えろとか言いたかった

俺は情けない男だ


俺っていつまでこうなんだろう……

いつまで千尋に片想いしてんだろう……

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