第89話 裁判? です。
ミンクに乗って平原に戻ると、カミロ・グリエゴ公爵は檻付きの馬車に載せられていた。
逃げ遅れた兵士たちも両手を縛られて数珠繋ぎ。
数は数百というところ。
ベルトは時間をかけて、街道から王都に戻る。
カミロ・グリエゴを王都に連れて行く任務である。
そうすることで、バレンシア王国がファルケ王国に勝ったこと知らしめるらしい。
ついでに、
「ケイン・ハイデマン伯爵の軍だけで勝利した!」
と吹聴するという事だ。
(何という周知……もとい羞恥プレイ。
まあ、有名にならなきゃいけないらしい。
リズのこともあるしな。)
ベルトを見て苦笑いするケイン。
今は平原の砦には兵士の数が少ないため、ミルドラウス侯爵家とラインバッハ侯爵家の援軍が迎えに来るのを待っている。
ちなみに両侯爵家の軍は街道から来ている。
そして、王都から平原までショートカットできることを両侯爵は知っている。
ついでに王もである。
いつかは知られるだろうが、他の者が長い距離をショートカットできるなどと知ったら、王都へ攻め込む可能性があるという事からだ。
出入り口がケインに関係する者しかいない。
そして王都に出ても、そこに居るのは精鋭。
ミンクも居ることから負けることはないとケインは思っている。
「お前が居ると、出番がない」
ベルトが苦笑いしていた。
「出番がある戦争なんてしちゃいけないと思うけどなぁ……。
死人が多くなる」
ケインが言うと、
「まあ、確かに。
出番がないのが一番。
ただ、手持無沙汰もな……」
ベルトは苦笑いで頬を掻く。
既に戦いの時期は連絡してあったこともあり、ミルドラウス侯爵家とラインバッハ侯爵家の軍は戦いが終わった翌日には平原に到着した。
その数、両軍で千ほど。
(ありゃ?ミルドラウス侯爵もラインバッハ侯爵も当主が来ている)
「儂の出番がないではないか!」
ミルドラウス侯爵が苦笑い。
「しかし、ミラグロスに手を出したと聞いた。
指輪も渡したとか……。
それは良きことだな」
ミラグロスからケインのことはダダ洩れ。
「舅として、できるだけのことはさせてもらう。
まずは、カミロ・グリエゴ公爵の事は任せてもらおう」
前に出るミルドラウス侯爵。
ラインバッハ侯爵は俺に近づくと、
「うちのとはどうなっているんだ?」
小声で聞いてくる。
「手を出したら怒るくせに」
「父親は怒るもんなんだよ!
あっちがおかしいの!」
ラインバッハ侯爵の声が大きくなった。
「そんなだから、ケイン殿が委縮して手を出さないのでは?」
ハッハッハと笑うミルドラウス侯爵と、悔しそうな顔をするラインバッハ侯爵。
(見た感じミルドラウス侯爵の方が一枚上手?)
ケインは二人を見る。
そして準備が終わると、ベルトの部隊とミルドラウス侯爵家、ラインバッハ侯爵家の軍はカミロ・グリエゴ公爵と捕虜を連れ、王都に向かうのだった。
ベルトたちがカミロ・グリエゴ公爵を王城へ送り届る。
ケインはそれまでは前線で馬の回収や食料の回収、金の回収などの処理をした。
その後、平原の砦にミラグロスを置き、ケインは王都の屋敷に戻る。
「おかえりぃ」
「おかえり、ケイン」
「おにいたん、おかえり」
ケインが王都の屋敷に戻ると、レオナとミランダ、そしてディアナが屋敷の玄関で待っていた。
カミラが留守を頼んでいたのだ。
「ただいま帰りました。
家に変わりは?」
ケインが聞くと、
「無いわよ!」
レオナが言う。
「カミラさんもアーネさんもミンクちゃんもありがとう」
深々と頭を下げるミランダ。
「私たちは旦那様のお役にたててうれしいのです」
カミラが言うと、
アーネもミンクも頭を下げた。
トタトタとディアナがヴォルフに近寄る。
ディアナは人の状態のヴォルフを知っているのか、
「おつかれたま」
見上げながら言った。
ヴォルフがディアナを抱き上げると、キャッキャと喜ぶ。
屋敷の中に入り、アーネが点てた紅茶を飲んでいると、リズとラインもやってくる。
「それで?」
二人がカミラの両脇を抑えると、アーネとミンクがその後ろに立つ。
レオナはミランダの横に座っていた。
全ての視線が俺に集まる。
(ありゃ?
雰囲気が違う。
裁判?
俺……勝ったよね?)
ヴォルフを探すケインだが、ヴォルフは庭でディアナを高い高いしているようで、外から「キャハハ」というディアナの笑い声が聞こえた。
(孤立無援か……)
がっくりと肩を落とすケイン。
「えーっと、ファルケ王国の内情を調べに行ったのよね?」
ラインが言う。
「はい、その通りで」
「それが何で、メルカド伯爵家に傭兵に入って、バルトロメの娘、アネルマと仲良くなるのよ!」
「それは、ミンクからの定時連絡で聞いているだろ?
冒険者ギルドで傭兵の募集を見て、そのまま雇われて、メルカド伯爵家に居付いた訳だ。
ウンウン」
ケインは一人で頷く。
「アーネに手を出すのはいいですが……」
カミラがヤレヤレと両手を上げた。
「えっ、アーネさん……」
ラインが声をあげる。
アーネがポッと頬を染める。
「ファルケ王国で、旦那様のフォローをしている間に……色々と……」
呟くように言うと、
「えー、私まだなのに……」
ラインがブーと頬を膨らませた。
ケインが視線を移すとエリザベスもである。
「それにしても、アネルマに手を出すのは……」
カミラがケインを見た。
「出してない。抱き付かれただけだ」
「アネルマとマリーダに目をつけた公爵の手の者にボロボロにされた兵士の代わりに戦ったと聞きます。
『いい所を見せたい』なんて思っていたんじゃないですか?
考えてもみてください、どうにもならないところに現れて颯爽と助けて行くんです。
女性ならば……傾くかと……」
アーネが言った。
「あのなあ……、悪いが俺はカミラにいい所を見せたいぞ?
ラインだってリズだってレオナだって……。アーネやミンクにだってそうだ。
そうやった結果、今の俺が居るんだ。
女性にいい所を見せたくない男性なんて少ないと思うけど」
「まあ、自重しているのなら、今の状態にはなりませんね」
カミラが諦めたように言う。
「で、アネルマ・メルカド元伯爵はどうなるのですか?」
リズが聞いてきた。
「聞いているんだろ?
ファルケ王国にできた飛び地の代官だよ。
元の領地を治めてもらう」
「女性代官とは……」
「使えるなら女性だろうが男性だろうが使うがね?
最たる人は、ルンデルさんじゃないかな?」
「確かに……忙しそうです」
エリザベスが苦笑いする。
すると、
「ケインどのぉ!」
馬の蹄の音と共に聞いたことがある声が屋敷の中に響いた。
「ライアンではないか! 生きておったか!」
窓から外を見ると、アネルマがライアンの鼻筋を撫でている。
「どうかしたのか!」
ケイン扉を開けて外に声をかけた。
「『多分、あなたのことで問い質されるだろう。味方が居ないケイン殿が可哀想だ』と、お母さまが心配されてな。
『どうせ、王の前に行く必要があるだろうから、さっさと行ってきなさい』と言われてこの場に来た訳だ。
で、どのような状況なのだ?」
そう言って窓まで来ると、アネルマが覗き込む
「まあ、こんな感じだ」
ケインは部屋の中を見せた。
(実際孤立無援。
マリーダ様もいろいろあったのか、よくわかってらっしゃる)
苦笑いのケイン。
すると、
「私がケイン殿の傍に居とうなったのだ。
我が父を討った者だとは知っている。
ただ、私を包み、守ってくれているのを感じるのだ。
ケイン殿を慕い、盛り上げていくから、私もこの部屋の中で皆と一緒に居てはいかんかな?」
アネルマが庭から中に居る女性陣に言った。
「旦那様だから仕方ないですね……」
そして、カミラが言った一言。
ケインが原因が理由で許されるケイン。
「確かにねぇ……」
「まあ、その気持ちわからなくないし」
「そうなのよねぇ……。
ケインってその辺マメだし」
続いてライン、リズ、レオナが頷く。
「まあ、いいのだ。
私は皆で楽しいのがいい。
増えても楽しいのなら文句はないぞ?」
ミンクが纏め、
「良かったわね、中におはいりなさい」
ミランダが母親の包容力で締めた。
その後は、一人増えただけのガールズトーク。
ファルケ王国でのケインの事を話していた。
「旦那様が作ったカレーっていうのが美味しいんです。
コメというのを焚いて、その上にカレーをかけて食べるとピリ辛でいろいろなスパイスの味わいでこれがもう……」
アーネが天を見る。
「あと、コーヒーというのとチョコレートというのを旦那様が気に入っていました。
私は、種族特性からか酔っ払ってしまって……。
でもコーヒーは苦く、チョコレートは甘い……」
「甘い」という言葉に敏感に反応する。
「「「「「いつですか?」」」」」
女性陣の視線がケインに集まる。
ちゃっかりアネルマも混じっていた。
「そうだなぁ……、もう少しゆっくりできるようになったら、ルンデル商会で試食会しようか……。
でもチョコレートが甘いのは、砂糖を使っているからだからな」
ケインは言う。
カミラは周りの女性陣を見て頷くと、
「畏まりました。
楽しみにしております」
と言うのだった。
(やっぱり、女性陣のボスはカミラっぽい。
魔物だから?)
ケインが余計な事を考えていると、カミラに睨まれてしまった。
話を続ける女性陣を少し離れて見ているケイン。
「あなたも大変ね」
ミランダが優しい目で俺に言う。
そして、ミランダは人と魔物の女性陣の話を聞きながらニコニコしているのだった。
アネルマ・メルカドと共に王に謁見すると、
「話していた通り、旧メルカド伯爵領はケイン・ハイデマン伯爵のものとし、アネルマ・メルカドを代官にして統治せよ」
と命令が下る。
これで、文句があるなら王へ……という事になった。
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