第82話 無茶振りの準備です。
ケインは久々に学校へ行く。
夏休みが終わり秋の気配。
最終学年の秋ともなると就職先を探す生徒は登校しなくなる。
ケインは伯爵であるため、就職を探す必要はない。
授業もまばらになり、学校に居る人間も少なくなってはいたが、学校に行くときは、いつもの三人がケインの周りに居た。
生徒会室でケインが寛いでいると、
「お父様が、クラヴィスの廃砦を勝手に持っていけって。
あれならば、使えるだろうって言ってたわ」
エリザベスが言った。
ケインは、
「すみませんが、使っていない硬そうな砦が国内に無いですかね?」
とバージルに聞いていたのだ。
「クラヴィスの廃砦って?」
ケインが聞くと、
「王直轄領、クラヴィスにある砦。
元々は王国の領土が小さかった時に前線用に作った砦だったらしいんだけど、今の領土に合わせた砦はすでに出来上がってしまったから、戦略的にも戦術的にもあまり意味がない砦になってしまって、誰も使っていないの。
中に人を住まわす方が手間だから、管理されて放置されている。
ミラグロスなら知っているんじゃないかしら」
エリザベスが言う。
「ちゃっちゃと行って、ちゃっちゃと回収したいからなぁ……。
リズが言うようにミラグロスと行ってくるか」
ケインが言うと、
「ぜひ」
「うん、そうするといい」
「楽しんで」
エリザベス、ライン、レオナが言った。
(やけに推すな……。
「楽しんで」って何だ?)
ケインが首を傾げる。
「中に入っても?」
エリザベスに聞くと、
「問題ないと思います。
管理人には連絡が行っていると思いますので、ハイデマン伯爵の名を出せば、中に入ることができると思いますよ」
と頷いた。
「早速、明日にでも廃砦を見に行くかな」
ケインがそう言うと、三人も満足げに頷いていた。
屋敷に帰り、
「旦那様、お帰りなさいませ」
とカミラに出迎えられる。
そのまま、リビングに行くと、ミラグロスが居た。
両手を膝に置き、ギュッと握って下を向いている。
(緊張? 何で?
俺、なんかしたか?)
ケインは気になって、
「ミラグロス、何かあったのか?」
カミラに聞くと、
「特には無いはずです。
私と朝練をして、その後騎士たちと模擬戦をしていました」
といつも通り。
「ふーん」
(いや……何かあっただろ?)
あえて口には出さない。
(リズ達三人とミラグロスの様子……)
疑問に思いながらも、
「ミラグロス、明日、時間が空けられるか?」
ケインが聞くと、
「くっ訓練が終われば特にはないぞ……」
と言うが下を向いたまま。
「じゃあ、クラヴィスの廃砦に連れて行ってくれないか?」
再び言うと、
「うっうむ……承った」
そう言うと、顔も見せずにミラグロスが部屋の方へ行った。
「大丈夫なのか?」
気になってカミラに聞くと、
「はい、大丈夫です。
旦那様から誘われたから、緊張したのかもしれませんね」
カミラがクスリと笑う。
「ま、それならいいけど……、大丈夫かね?」
ケインはミラグロスが出て行った扉を見ていた。
次の日の朝、朝食を終えると、既に愛馬となったライアンの所に向かう。
茶のズボンに白いシャツ、背にいつもの大剣を背負っているミラグロスが居た。
肩から腰にかけてかかる大剣の鞘のためのベルトがミラグロスの胸を強調していた。
出発してミラグロスの斜め後方を走る俺。
こんなにミラグロスの姿を見ながら走ることは今までになかった。
すっと伸びた姿勢。
馬が揺れる度にたゆんたゆんと胸が揺れている。
(オオ……眼福。
にしても振り返りもしない。
ずっと無言。
なんでだ?)
ケインは妙な緊張感をミラグロスから感じていた。
実際、廃砦は王都から近く。
二時間ほど走ると、ツタが絡まった五十メートル四方ほどの砦が現れた。
(おぉ……歴史を感じる)
壁は十メートル。壁の四方には十五メートルほどの塔。
壁の上がデコボコ、ノコギリのようにしてあった。
(今更ながら、西洋風だな)
木製の金属で補強された分厚い扉がついた門があり、その門は開いていた。
「ここだ」
ミラグロスが馬から降りるのを確認すると、ケインもライアンから降りる。
中に入れば、石造りの建物。
その傍には馬を繋ぐ広い馬房が数棟並んでいた。
建物の中には、竈がある部屋にテーブルが並ぶ部屋……多分台所と食堂。
(ベッドが並んだ部屋がいくつかある。集団生活用かね?)
あと、兵糧や武器用なのか倉庫がいくつかある。
二階に上がると、士官用の部屋と思われる個室があった。
三階には大きな部屋、中央には会議室。
屋上にも出られるようになっていた。
壁より少し高く。向こう側が眺められる仕様。
「ちっ、地下もある」
ミラグロスが急にそう言うと、ケインの手を引いた。
(おっと急に積極的。
何かあるのかね?)
気にしながらケインが行くと、地下には足枷や腕枷が壁についた部屋。
(石畳になっていて、寝るのもつらそう。
柵があるところを見ると、拷問したり罪人を入れたりする牢屋なんだろうな)
そんな事を思っていると、ミラグロスがススとその牢屋に入り、大剣を外した。
そのまま服を脱ぎ裸になると、手枷足枷をつける。
(えっ?
何やってる?)
ミラグロスのすべてが見える。
ミラグロスがなぜそんな行動に出たのかはケインが理解できなかった。
「一度つけると、こういう枷は私には外せない」
ミラグロスが言う。
「何でこんなことを?」
ケインが聞くと、小さな声で話し始めた。
「私は小さなころから強かった。
同年代では敵がおらず『女鬼神』とか『鬼神を継ぐ者』なんて言われるような……。
父上、兄上さえもが私に勝てなかった」
「俺に負けたのが初めてって言ってたよな……」
ケインが言うと、
「そう」
と頷く。
そして、
「ここ最近で負けたのはケイン殿が初めて、勝てないと思ったのも初めて。
好きになったのも初めて」
「で、何で、手枷足枷?」
「そんな私だからかもしれないが、私は捕虜になって、敵兵に囲まれ辱められて犯される。
そんなことを夢見ていた。
それをケインにして欲しい」
(おっとぉ……)
ケインは焦る。
「んー、でもそれって、嫌悪する者にやられるから感じるんじゃないの?」
「そっそれは……。
ケイン殿は優しいから、いつもとの違いというか、そういうのも……いいと思う」
「この話って、他のみんな知ってるの?」
「砦の視察で何かするという事は、カミラ様にリズとライン、レオナは知っている。
砦の話を聞いたカミラ様が『たまには二人でデートしてきたら?』と言ってくれたのだ」
だから、リズもラインもレオナも推しが強かったのか。
しかし、知りたいのはそれじゃない。
「いや、この性癖?」
「それは誰も知らない」
と言う。
(まあ、言えないだろうなぁ……)
ケインは頭を掻いた。
「館に居れば、誰かの目につく。
この時しかないと思った。。
父上にも兄上にも言えなかったことだ。
ケイン殿にだから言った。
嫌われたくはないが、これが本当の私。
嫌いになったか?」
大きな体のミラグロスが震えている。
(そうか……、それだけ不安だから……。
俺も皆に否定されて、今が無くなるのが怖い)
「嫌いになる訳無いだろう?
手枷、足枷は必要なかったような……。
なくても、拘束はできるからね。
でも、せっかくだから、ミラグロスの体を堪能させてもらおうか」
牢屋の中にあった椅子にケインは座る。
じっとミラグロスを見ていると、身をよじり、体を隠そうとした。
「なっ何もしないのか?」
「ん? 恥ずかしい状態で放っておくのを、放置プレイという。
これはこれで、人によっては感じるらしいぞ?
ミラグロスならわかるだろ?」
「そうなのだが……、でも、な……」
「まあ、ミラグロスが自分から言ったんだ。
暫くは……な」
ケインは悪い顔で笑う。
(石畳の上って、結構痛いんじゃないだろうか)
事が終わり、いたるところに擦り傷がついたミラグロスを見るケイン。。
これで良かったのかね?
治療魔法で傷を治し、起きるまでミラグロスを見ていた。
「あっ……」
ミラグロスが目を覚まし俺を見る。
恥ずかしいのか、顔が赤い。
「嫌いになったか?」
そう聞くミラグロスに、
「ん? 別に。可愛かったかな?
知っているだろう?
俺は、見た目はこれだが、向こうの世界じゃいい歳。
一応、ミラグロスみたいな性癖を持っている人が居るのは知っている。
俺的には、今みたいなのでミラグロスを満足させられたか心配ってところ?」
ケインはじっと見る。
「大丈夫。私が思っていた以上の事をされて、満足だ。
しかしあんなところまでをも責められるとは……」
顔が赤いまま、呟くミラグロス。
(これで満足なら、問題はない。
でもこれ以上は、俺には無理)
ケインはホッとする。
「ご主人様と呼んでいいかな?」
「それって、主従だろ?
そんなつもりはないんだけど」
「私は初めて完全に征服されてしまった。
身も心も全て……。
私は満足」
思い出すように天井を見るミラグロスに、
「まあ、ミラグロスがご主人様か……。
ギャップがあっていいかもな」
と俺は言った。
「ギャップ?」
「ミラグロスってご主人様って言わなそうだろ?
ちょっとツンとしてて、甘えたりしなさそうに見える。
今までみたいに『殿』とか呼び捨てとか……。
だから、いい感じ。俺はいいと思う。」
「うん、だったら、ご主人様だ。
カミラ殿は旦那様だが私はご主人様と呼ぶ。
私はご主人様に服従する。
だから、どんな場所でも、いつでも抱いてくれ」
ミラグロスは恥ずかしがらずに俺を見て言った。
「んー、いつでもどこでもって訳にはなぁ……。
ミラグロスの意に添えるような場所を考えるよ。
まあ、気が乗れば……いろいろするぐらいは……」
(俺に亀甲縛りを求められても困る)
しかし、ミラグロスはブルルと震えると、
「それでいいから、よろしく頼むぞ、ご主人様」
裸のミラグロスが俺の上に乗り、胸を押し付けてくる。
(それってちょっと違わない?)
ケインは思う。
ミラグロスが服を着て元の姿に戻ると、俺は砦を収納魔法で仕舞う。
そこに残るのは、壁と建物の跡だけ。
「凄いな。
私のご主人様は」
しみじみとミラグロスが呟いた。
「あとは、中の掃除と寝具なんかの追加かなぁ……。
調理人、武具と兵糧を手配してしまえば……。
砦の隊長は……、ミラグロスがする?」
俺が聞くと、腕を組んで考える。
「私はご主人様の傍がいい。
そうすれば、いろいろと弄ってもらえるから」
そう言って胸をケインの背に当て、抱き付く。
(丸くなった? エロくなった?
まいっか……)
しばらくするとミラグロスは離れ、ケインとミラグロスは馬に乗り駆けだすのだった。
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