第41話 出陣です。
三年生になる。
ベルトとミランダがラムル村に駐在し、ケインは王都に残る。
ベルトとミランダの間には女の子が産まれ、ディアナと名付けられた。
ミランダが母乳を与え、すくすくと育っている。
カミラが嬉しそうにディアナを抱き上げていた。
「私も欲しいです」
とケインに言っていたが、
(毎日と言わないが、なかなか難しい。
長寿である神祖には子供ができ辛いと聞いたことがある)
しかし、ケインは十四になり、成人した。
(これ以上待たせるのは悪い)
と思ったケインは、カミラに手を出した。
神祖だからといって、別段変わることも無く。
触れば反応もするし、果てる時は果てる。
「可愛かった……」
ケインの一言である。
三年生で専門を選択するのだが、ケインは全てを選択する。
ちゃんとそういうことも考えられて授業の編成がされているため問題はない。
同じく全てを選択するエリザベス。
王女だから全てにおいて……と言うことらしい。
魔術と文官系を選択したライン。
文官系一択のレオナ
ある日、再びファルケ王国からの侵攻があった。
緊急でケインに招集がかかる。
ケインはリズやライン、レオナには何も言えず、王宮に向かった。
向かうのはケイン、ベルト、カミラ、そして、フィリベルト。
フィリベルトはベルトの従者。
ケインの屋敷の前でベルトの試験を受ける前に腹が減って死にかけていたのを拾った者だ。
人ではなく、獣人。
その素質に気付いたベルトに見いだされ、ベルトの下で鍛えられている。
「ケインは無理としても、俺は越えそうだ」
と嬉しそうにベルトが言っていた。
ケインは装備には金をかける。
ミスリルと言われる軽銀を使う。
(何となく段ボールの鎧を着ている感じだな……)
と思うケイン。
ケインがミスリルのフルプレートにミスリルの盾にミスリルのロングソード
武器はベルトがミスリルのフルプレートにオリハルコンのバスタードソード。
カミラはドラゴンの素材を使った皮鎧。
そしてフィリベルトはワイバーンの皮鎧にハルバードだった。
多数の騎士が並ぶ中、たった四人の軍隊が王城に並んだ。
男爵が連れてくる軍隊は約二十人。
ケインはまだ揃っていないということで許されている。
しかし鬼神が居るという事で文句ひとつ言われなかった。
(父さん、どんだけ強い設定?)
食料はできるだけ手に入れ、五十人が一カ月動ける量をルンデル商会に依頼して確保してある。
(まあ、収納魔法に入った物は時間が止まる。
腐ることはないだろう)
と言う判断。
ケインはラインバッハ侯爵の下に入った。
新人男爵の噂で賑わっていたが、ベルトが一睨みすると静かになる。
そんな状態で、一カ月ほどして戦場に到着するのだった。
広々と広がる平原。
騎兵が有利に思われた。
一部対三千ほどの三部隊が右翼左翼中央に集まっていた。
同数とはいえこちら側には歩兵が多く、騎兵を相手するには辛い状況だ。
「ケイン君、久しぶりだね」
クレール・ラインバッハ侯爵が声をかけてきた。
「クレール様、お久しぶりです」
「男爵になったんだってね」
「王の戯れのお陰で男爵になることができました」
ケインは笑う。
「さて、ケイン君、この戦場をどう思う?」
「兵士数は一万弱でほぼ一緒なのですが、バレンシア王国側の騎兵が三千。
それに対して、ファルケ王国の騎兵が倍の六千。
平原で戦うにはいささか不利かと……」
「君ならどうする」
「ラインバッハ様は私とフィリップ王子との戦いをご覧になっていましたか?」
「ああ、フィリップ王子相手に、ああも簡単に勝つとは思わなかった」
「さて、騎兵の弱点とは何でしょうか?」
「私に聞いてくるか……。
思い浮かぶのは沼地だろうか……。
足の細い馬は埋まってしまう」
「はい。
平原に沼を作ればどうでしょう。
それも、見た目は平原のままで……。
騎兵の多さにこちらを見くびっているファルケ王国は突撃をして来ると思います。
沼を作っておけば、そのまま突っ込んでこないでしょうか?
沼に嵌った騎兵を弓兵で殲滅。
歩兵はこちらの騎兵で潰します」
フィリップとの戦いを見ていたクレールはケインが言いたい事に気付いた。
「地の魔法が使える者たちは?」
控えている者たちに声をかけるクレール。
「火力に勝る火の魔法が使える者は多いのですが、地の魔法は陣地作成程度にしか使わないので、少ないのです」
控えの者が言った。
「それならば、私が沼を作りましょうか?
せめて、ラインバッハ様が指揮する場所は右翼。
早期に敵部隊を殲滅できれば中央の側面を突けます。
勝利は右翼のお陰で成ったと言わしめられるでしょう」
ケインはわざとクレールが有利に働くことを言っておく。
(まあ、成功すればの話)
ケインは口角を上げた。
「そうだな、我々の前だけでも沼にしておけば、騎兵の脅威が減る。
ケイン君、そうしておいてもらえるか?」
「はいわかりました。
この先百メートルほどに沼地を作成します。
間違えて味方が入ってもいけないので、部隊長だけにでも周知をお願いします」
「わかった」
クレールがケインから離れると、ケインは早速右翼の前面百メートルほど先に右翼の幅で沼を作る。
それから何もなかったかのように対峙が続く。
当たり前のように名乗りが始まり、目の前で数千人単位の兵士が動き始めた。
最初に動くのはケインたちが含まれる騎士。
その後ろに歩兵が続く。
更に後ろに弓兵と魔法使い。
ファルケ王国も同時に動いた。
左翼、中央が戦い、それに少し遅れて右翼が続く。
「向こうは騎兵が少ない! 突撃―!」
向こうの将の声が聞こえると、一気に騎馬が走り出す。
その勢いのまま右翼側の敵が、まんまと沼にはまった。
動きの遅い右翼を攻めようと余計に全速で走っていたのだろう、止まれずに騎兵隊が次々と埋まっていく。
歩兵が二の足を踏んだところに、弓と魔法が襲った。
ケインは沼を硬化させ、抜けられなくする。
なすすべもなく転がるファルケ王国側の騎士たちを俺たちバレンシア王国側の騎士は蹂躙していった。
ケインは敵の弓矢と魔法をはじき返すシールドを展開する。
右翼側の敵は歩兵だけになり、騎兵と歩兵、更には弓と魔法でさんざんにやられ敵の歩兵部隊は敗走した。
元々正規の兵も少なかったのか、散り散りに逃げていく。
それを騎兵が追い、味方右翼の敵陣へ。
右翼の指揮官をベルトが討ち取り、
「右翼の将は討ち取った。
次は中央の総大将だ!」
声を上げた。
ベルトが声を上げると、騎兵はそのままの勢いで左に曲がり総大将の陣を目指す。
右翼の歩兵は中央に向け進軍を始める。
膠着状態の中央に側面から歩兵の攻撃。
クレールの指揮は的確で、右翼の弓兵と魔法使いたちで中央の兵を削っていく。
ケインとベルト、カミラは先人で豪華な鎧を着た男に向かう。
護衛と思わしき騎士が数名、総大将を守ろうと前に出てきたが、父さんとカミラが切り飛ばした。
ベルトはケインに総大将を打ち取らせるつもりだった。
(鉄壁のバルトロメ。この男を討ち取れば、ケインの爵位が上がらないまでも、この国全体に認知される。
ケインであれば大丈夫)
そう思い、
「ケイン、そこに居るのは鉄壁のバルトロメ。
ファルケ王国で有名な武将だ!
お前が討ち取れ!
お前の目標のために!」
ベルトが言った。
(デカいな。
父さんほどもある偉丈夫。
年齢的には父さんより上か……)
ケインがバルトロメを見ると、バルトロメも赤い馬に乗り、若造であるケインを笑う。
「小僧が俺に勝てると思うなよ!
この守護の鎧があれば、魔法など効かぬ」
そう言って馬を走らせケインに向かってきた。
馬ごと切ろうとする相手の大剣。
それをギリギリで避け、相手の左脇の鎧の隙間にロングソードを突き刺した。
ケインは手ごたえから致命傷であるとわかる。
ロングソードに血の筋ができ、柄のところからポタポタと血が垂れる。
「小僧、何者だ」
苦しげな声でケインを見るバルトロメ。
「ハイデマン男爵」
「ふっ、鬼神の姿があったが、それを上回る力量のようだな」
「鬼神は我が父になります」
「そうか、鬼神はいい息子を持った。
鬼神を超える力量に、魔法の才があるとは……。
いつもの将に変わらぬ編成だと見くびっておった。
さあ、私を殺すがよい。
お前なら、儂の首をやろう」
総大将であるバルトロメは苦しそうな声を上げる。
(俺は人を殺したことは無い……でも自分の欲のために……)
ケインは頭を持ち、剣で頸を斬る。
そして、馬上から総大将の首のない体が落ちた。
ケインはバルトロメの兜を外し、髪の毛を掴み、
「バルトロメ、討ち取った!」
と声を上げる。
その後、髪を腰に括り付け首を固定すると、再び三人で左翼の陣を狙った。
中央の戦いは右翼と中央からの二面の攻撃で、すでに軍としては活動できていない。
そのまま左翼の援護に向かう。
負傷者が下がったとはいえ、バレンシア王国の兵は八千ほど残っている。
それに対して、ファルケ王国は負傷者込みで五千程度。
戦いは既に決まっていた。
角笛のようなものが鳴ると、相手の陣から黒い煙が上がる。
ベルトが、
「降伏ののろしだ。
この戦いは終わりだ。
初陣で総大将の首を取るとはな」
と言ってニヤリと笑う。
「そうしてくれたんでしょ?」
ケインが言うと、
「ばれていたか」
ベルトは鼻の頭を描いた。
「さあ、その首を持ってラインバッハ様のところへ戻ろうか」
「カミラもありがとな」
「いいえ、私はケインの後ろを守れたから……。
それでいいの」
カミラの白い肌にはいくつもの血しぶきの跡があった。
「ベルト師匠!」
「おお、フィリベルト、生きていたか」
「私も、何人かの騎士の首を取りました」
「そうか、よくやった」
ベルトはフィリベルトの頭を撫でていた。
「クレール様、ケイン・ハイデマン男爵です」
クレール付きの兵士から紹介され、ケインは天幕の中に入った。
総大将の首を差し出す。
ベルトは右翼側と中央の将の首をいくつか差し出した。
「ケイン君。
君が言ったことがズバリと当たり、ほぼ無傷の我々右翼がこの戦いの流れを決めた。
そして、ケイン君自身がファルケ王国の将軍であるバルトロメ・メルカドを打ち取り、その配下の武将を鬼神ベルトが討ち取った。
目立ちすぎだ!」
クレールは苦笑いしていた。
「もう少し別の者に手柄を立てさせることはできなかったか?」
とクレールが聞くと、
「知っての通り、私は侯爵にならねばなりません。
ですから、目立つ必要があるのです」
ケインが言うと、
「詳細を報告書に上げ、王に渡すことにしよう。
誰も信じないだろう。
鉄壁のバルトロメを王立学校の生徒が討ち取ったなどと……。
まあいい、そこの者たちに首を渡し、自分の天幕で今日は休め」
そう言われたケインたちは、陣の端にある自分たちの小さな天幕に入った。
「父さん鉄壁のバルトロメとは?」
「この二十年以上、バルトロメ将軍の軍は負けたことがない。
勝てはしなくとも、今回のように散々な目に遭ったことは無いんだ。
守りに強い将。
バレンシア王国にとっては強敵だった」
ベルトは興奮気味に話す。
そして、
「ケイン、疲れてはいないか」
ケインを気遣う。
「わからない、初陣で興奮しているんだと思う」
(人を殺したことで興奮しているんだろうな)
ケインは思う。
「そうだな、こんなふうに言っている俺も、お前と戦場で戦えることに喜びを感じる。
よくぞここまで育った。
さて、休憩の指示が出たんだ、ゆっくり休むとしよう」
「はい、父さん。
休憩という事で、お風呂は要りますか?
汗でべたべたでは寝づらいでしょう」
ケインが言う。
「戦場に風呂など……」
「しかし、汗を流すのと流さないのではやはり疲れのとれ具合が違うと思います」
ベルトの良い返事は出なかったがケインは、
「いいえ、休憩の指示が出た今だからこそ、汗を流す必要があるかと……」
ケインの男爵家当主権限でベルトを納得させて、結局ケインが風呂を作って入る。
その後、呼び出されるまで休息を行うのだった。
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