第48話 あとを継ぎました。
ケインの祖父であるマーロンが亡くなった。
ケインはあまりマーロンを好きではなかった。
何度かケインの家に来ていたが、結局聞いたのはベルトへの愚痴ばかり。
男爵になった時に祝いに訪問してきて以来、会ったことは無かった。
マーロンは子爵。
その爵位が空白になる。
元々マーロンは魔法師団の教育係ということで給料も得ており、領地が無いと言ってもそれなりに暮らしていたのだ。
「死因はわからず『胸を押さえて蹲り、そのまま……』だったんだって。
まあ、魔法使いとしては成功したんでしょうけど、母さんも出て行って私一人だったからね。
寂しい人だったのよ。
だから、ちょくちょく私たちの家に来てたのかも。
まだ、人の居るところで死ねただけいいのかもしれないわね。
死んだことに気付いてもらえたのだから……」
そんな憎まれ口を言いながらもミランダは泣いていた。
そして、そんなミランダに寄り添うベルトが居た。
そしてしばらくしたある日、何かの用事でベルトとミランダが王都の屋敷に来た時、王宮からの役人がミランダを訪ねてくる。
ミランダは王宮から来た役人としばらく話をする。
そして、その夜、ケインとカミラが寝る前に話をしているとノックが響いた。
「ケイン今大丈夫?」
扉の向こうからの声。
ケインは扉を開け、ミランダを中に入れる。
「ねえ、ケイン。
あなた、爵位を上げたいって言ってたわよね?」
ミランダがケインに聞いた。
「ああ、あいつらに近づくならばね」
ケインは言う。
「お爺様が持っていた子爵位を世襲することができるんだけど……どうする?
ただし、子爵位を世襲するには魔法師団の教育係をしなければいけない。
それが前提の爵位だからね。
まあ教育係と言っても、週に一日ほど魔法師団に行って魔法を教えればいいの」
「でも、学校があるけど」
ケインが言うと、
「ああ、それは大丈夫。
毎回じゃなくていいの、教育係には私も行くから」
ディアナは乳母も居るし……」
ノリノリのミランダ。
「俺が子爵にならなくても、母さんがなるってことも出来るんじゃないの?」
ケインが聞くと、
「私はね、今の生活がいいの。
だから、子爵なんか要らない。
だったらあなたの野望の手伝いに使えばいいと思う」
ミランダはニコリと笑った。
「それじゃ、お願いします」
ケインが頭を下げ、子爵位を継承することになった。
魔法師団は国の顔である。
そのため、子爵になる前に試験らしきものがあり、ケインは学校が無い日に、ミランダ共に馬車で魔法師団に行くことになった。
「だーうー」
とミランダの頬を触るディアナ。
ミランダはディアナを魔法師団に連れてきていた。
「何故にディアナを?」
ケインが聞くと、
「ああ、ディアナにも魔法師団という者を見せてやりたくて。
あなたのように、赤子のころから何かするということは無いけども、それでも見るだけでもディアナにとっていいことになるかもしれないから……」
そんな話をしていると、馬車は魔法師団の門から入り、玄関に止まる。
ケインたち三人は馬車を降り、事務所のようなところに行った。
既に話が通っているらしく、師団長の部屋に通される。
すらっとした細身のイケメン男性が現れる。
(年齢は、母さんより少し上かな?)
「久しぶりだね、ミランダ」
親し気に男性はミランダに近づいた。
しかしミランダは嫌悪感を出し、
「クリフォード。
あなたが私とあの人に伸されて以来ね」
と言ってケインの後ろに回る。
そして、
「私が嫌がっているのに言い寄るあなたをベルトが殴った。
いい気味だったわ。
まあ、そのせいでベルトは騎士の中隊長から小隊長に降格された訳だけどね」
吐き捨てるように言った。
(こりゃ俺にも天敵らしい)
ケインは思った。
「懐かしいな。
それでも私と一緒になっていれば、騎士の妻などと言う場所に収まる必要はなかったのに」
(んー、職場環境としては最悪じゃない?
母さん敵対心丸出しだし)
そしてクリフォードはケインを見ると、
「その子が噂のハイデマン男爵かい?」
と言ってミランダを見る。
「ええ、子爵位を継いでここに教師として通うことになるからよろしく」
ミランダが悪い顔で笑った。
「そのために試験があるとか聞いていたのですが?」
ケインが聞くと、
「そうだったね」
ニヤリとクリフォードが笑った。
「どのような事をすれば?」
「私と戦って五分持てばいい。
まあ、持てばだがね」
と言う。
(ありゃ、大分上からだ)
ミランダの「やっちゃいなさい」目線。
クリフォードとケインは訓練場という広い場所に行くと、正対した。
「じゃあ、僕が攻撃するから、それを防いでもらえるかな。
たった五分立っていればいい。
それで君は子爵だ。
無理だったら言ってね、やめるから」
「わかりました、五分だけ立っていることにします」
「もしも僕に反撃ができるようなことがあったら、してもいいから。
まあ、無理だと思うけどね」
(さすが現宮廷魔導士筆頭プライドが高い)
ケインがチラリとミランダを見ると握りこぶしを出して軽くパンチしていた。
(そういう事ね)
「それじゃ始めるね。
根源たる炎よ……」
そう言うと、ファイアーボールが五つほど浮かび、ケインに攻撃を始めようとする。
ケインは無詠唱で六つのウォーターボールを出し、発動し始めたファイアーボールを消すと、残り一個をクリフォードの顔に当てた。
「パシャリ」
クリフォードの顏に水が当たる。
「ちょっ……ちょっと手を抜き過ぎたみたいだね。
次はちょっと本気で行くよ」
再び呪文を唱え始めるクリフォード。
すると、ファイアーボールが十個浮かび始めた。
今度は十一のウォーターボールを出し、発動し始めたファイアーボールを消すと、残り一個をクリフォードの顔に当てる。
顏がびしょびしょになった。
「あのー。
魔法の発動まで待った方がいいですか?」
面倒臭そうにケインが聞くと、
「ぶっ無礼な!
私だって無詠唱はできる!」
クリフォードが声を大にして言う。
(別に侮辱とかしてないんだけどねぇ……。
言い方と受け取り方の問題かなぁ……)
するとクリフォードは俺に無詠唱でストーンバレットを打ち込んできた。
そのもの石の弾。
(まあ、でも一発だし、小指ぐらいの大きさの弾だし……)
ケインは飛んでくる弾を片手で掴む。
そして握力で握りつぶした。
砂になったものが地面に落ちる。
唖然とするクリフォード。
「こっちの番です」
手を振ったあと、俺はウォーターボールを無詠唱で三十個ほど出しクリフォードを攻撃した。
対処しきれないクリフォードは顔を手で覆い防御する。
(まあ当たっても水の弾だし。
速度も出していないし)
結果そこにはびしょびしょになったクリフォードが居た。
「五分経ったと思うんですが……」
髪の毛から水を滴らせながら、立っているクリフォード
濡れた髪の毛の間から睨み付ける目が見える。
(輪っかの映画のサ〇コ?)
そんなクリフォードを見てディアナはキャッキャと喜んでいる。
「びしょびしょだねぇ」
とミランダが笑っていた。
「合格だ……」
言いたくない言葉を絞り出すようにクリフォードが言う。
「週一回、君の好きな時に講義をすること。
まあ、魔法師団の面々はプライドが高い。
ちゃんと講義ができるといいがね……」
そう言うとクリフォードが去っていった。
「ケインおめでとう」
ミランダがディアナを連れてやってきた。
「母さん、ありがとう。
これで子爵?」
「そういうことね、コレで子爵」
ということで、陞爵の通知が王宮から届き、ケインは子爵になるのだった。
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