第35話 ハイデマン家の目標が出来ました。

 春休みになりケインはいつものルーティーンをこなす。

 コッコー小屋を掃除した後に卵を回収し、ジャージーの体を藁束でマッサージしたあと、ジャージーの乳を搾る。

 ついでにロウオウの体もマッサージ。

 台所で朝食の支度をするとカミラが起きてきて、二人になる。

 ミランダが交流して更に三人。

 そして、ベルトが合流して朝食が始まる。


 学校が無いせいで、その流れから先が無かった。

「暇だなぁ……」

 ケインが屋根に上って大の字で空を眺める。

(学校に居れば、魔法や剣、勉強をするから時間が経つが、家だとなぁ……)

「旦那様。何を焦っているのですか?

 まさか、何もできないからとか?」

 カミラがケインの横に座り優しい目でケインを見ていた。

「その通りだよ。

 二人に頑張るって言った手前、なーんもしないのもね……」

 ケインが目線をカミラに向けると、

「焦れば機会というのは逃げるものです。

 ですから、その機会が来た時のために準備をすればいいと思います」

 とニコリと笑う。

「機会が来た時のために準備ねぇ……。

 それは何だろ……」

 腕を組むケイン。


「そうですね、手っ取り早いのは強くなることでは?」

 カミラに言われ、 

「確かに……。

 ってことは討伐か……。

 冒険者ギルドにも最近行っていないな。

 母さんに言って行くか……。

 最近、父さんと母さんが自由な時間も無いし……」

 ケインが言うと、

「それを言うなら私と旦那様の自由な時間もありません。

 数日の討伐ならば、二人で過ごせます。

 お互いにいいと思いまして……」

 少し体を振りながらカミラが言う。

(ウインウイン?)

 ケインはそう思いながら、

「さて、冒険者ギルドに行くべ」

 と言って立ち上がる。


 冒険者ギルドに入るケインとカミラ。

 ロビーに出ていたグレッグが二人を見つけると、

「おっ? お前ケインか!

 デカくなったな。

 さすが鬼神の息子」

 と声をかけてきた。

「えーっと、オークあれの件以来ですね。

 お久しぶりです」

 ケインが言うと、カミラも会釈する。


「仕事か?」

「ええ、グレッグさん。

 討伐系の仕事をしようかと思っていて……」

「討伐系ねぇ……。

 なんかあったかな?

 おーい、こいつらがやるような上位の討伐ってあったか?」

(俺らって上位の討伐担当ってことか?)

「ブラッドクロウが住み着いたという連絡が。

 あれって、群れだし頭もいいし……空を飛ぶから普通の冒険者では難しいんですよね」 

 職員からの言葉に、

(俺たちって普通じゃないのか?)

 ケインは思う。

「じゃあ、ブラッドクロウの討伐、これを頼めるか?」

「討伐部位は?」

「嘴になる。

 一応肉は食えるし、羽根も飾りとして使われる。

 お前なら全部持って帰ることができるだろう?」

 こうしてケインたちは討伐に向かう。

 ミランダに報告して、王都を出ると、移動で時間がかかったが指定された森に到着する。

 そして、気配感知でブラッドクロウを探した。

 全高で一メートル弱のフレーム状のブラッドクロウの姿が多数映る。


「カミラ、意外とデカいな」

 気配感知を続けながらケインが言うと、

「クロウ系の上位ですからね」

 カミラが返す。

 ケインは水魔法を使いブラッドクロウを包み、窒息死させて落とし、それをケインとカミラ二人で回収する。

「気配感知で確認したけど、一応この辺は終わりかな?」

「はい、旦那様。

 私の気配感知にも映りません」

 そういうとカミラは空を見上げた。


「旦那様、もう暗くなっています」

 モジモジと体を揺するカミラ。

「そうだな、ここで野営するか」

 ケインはカミラの様子を見て苦笑いする。

 そして、テキパキとテントを立て、簡単な釜を作ると火を起こす。

 更には食器を出して既に作ったものを出して温め始めた。

「飯食ってからでもいいだろ?」

「ムー」

 カミラが少し頬を膨らませた。

 水を使って食器を洗い、洗った食器を乾かすと、ケインはカミラの手を引き、テントに入る。

 そして、静か……な夜を迎えるのだった。


 移動しては、ブラッドクロウを狩り、野営する三日間。

 冒険者ギルドでは、

「凄いな……」

 唖然とするグレッグ。

「気配は無くなったので、あの辺にブラッドクロウは居なくなっていると思います。

 ケインが家に帰るとテカテカなベルトとミランダの姿があるのだった。


 久々の家族団らんで食事をする。

「久々に皆が揃った。

 ケインも二年生だ。

 今年はどうするんだ?」

 ベルトが言うと、

「成績優秀、魔法も剣も抜群。

 将来どんな風になるのかしら?」

 ミランダの顔が笑っている。

「約束もあるから、目立たないとね」

 ケインは食事をとりながら言った。

「目立つ?」

 ベルトが首を傾げると、

「旦那様はエリザベス殿下とライン・ラインバッハ嬢、そして、レオナ・ルンデル嬢を婚約者にすると断言しました」

 カミラも食事をとりながら言うのだった。


 すると、ドンと机を叩き、

「何だと?」

 ベルトが言う。

「いろいろあって、約束したんだ」

 ケインが言うと、

「まあ、あの感じではね」

 ミランダがヤレヤレと手を上げる。


「そうなのか?」

 ベルトが聞くと、

「そうでしょ?

 いくら王妃様が許したからと言って、試食会だという理由で、ただの騎士の家に来るのよ?

 王女と公爵の娘がケインが決めたあの給仕の服を着たの。

 学校祭の打ち上げだからって、同年代の男の子が居るところにわざわざ行く?

 泊まりなのよ?

 ケイン目当てなのは見え見えじゃない」

 ミランダが頷いた。


「しかし、さすがケインね。

 王女を狙うとは……。

 私は全面的にお手伝いするわよ?

 ベルト、あなたはどうするの?」

「それは、ケインが好きにすればいい。

 その手伝いは俺もする。

 しかし、カミラが……」

 ベルトがカミラを見た。

「お父様、私は気にしませんよ。

 あの三人は、私の初めての友達です。

 そして、妹のような存在です。

 それに、旦那様は魔力があり、強いオスの下にメスが集まるように、強く力のある男には女性が集まるかと……。

 お義父様に似て、優しいですし、そこは仕方ありませんね」

 カミラが言うと、

「うむっ……そうか……」

 少し顔を赤くするベルト。

 そんなベルトに、

「ですってよ……」

 ミランダが追い打ちをかけていた。


 こうして、ハイデマン家の目標は「成り上ること」になる。

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