少女V
ねえ、先生。
あんたがいないと、血の確保すら毎回命がけですわ。
月一回、あんたがナプキンくれてたから、こちらとらなんとか飢えずに済んだっていうのにさ。
まったく、
あんたが簡単におっちんじゃうから、私は今月もせっせと夜中に単身女性のお家に忍び込んでるんっすよ。
まあ、幸いアパートの上階になると、窓にカギをかけてない人も多いから侵入自体は楽っすけどね。外壁を軽く飛んでベランダに入るだけでいいんで。
ねえ、先生。
あんたが死んだから、私が吸血鬼だってことを受容れてくれる人は一人もいなくなっちゃいましたよ。
残ったのは私のことを知っていて恐れる人と、あと吸血の被害者だけっすわ。
まあ、吸血鬼だってことを知ってなお、社会で生きていく術を模索したり。夜間高校を勧めたり。そんな風に色々やったあんたが可笑しかっただけって話なのかな。
ねえ、先生。
でも私はね。
未だに同胞だけは増やす気になれんのですわ。
だって、自分が異常であることを認識するたびに、人ごみの中から叫んで逃げ出したくなっちまうんですよ。
いつ通りすがる人たち全員が私を囲んで襲い掛かって来るか、そんな恐怖に毎日怯え続けるんすよ。
なにせ文字通り私は、違う生き物なんですから。
どこにだって、私と同じ奴はいないし。
目に映る人間全部が、ともすれば敵なんすよ。
いつ魔女狩りみたいに誰かにバレて。つるし上げられて。身体をバラされて、肉片に成り下がってもおかしくないんすよ。
そのくせ、血を採るってリスクだけは延々と侵し続けないといけないし。
ほんと、ろくでもない生き物ですよ。吸血鬼ってやつは。
だから、そんな気分を味わうの、私独りで充分でしょ。
私もほら、吸血鬼同士で食事の取り合いとかしたくありませんし?
こんな加害者種族、この世に一人いれば十分でしょう。
だから―――ねえ。
これでいいんすよ、多分。
※
もういい時刻だってのに。
結構前に明かりが落ちたのも確認したってのに。
なんで、あの人は起きてたんだろうねえ。
夜の街を帰りながら、そんなことをふと想う。
ポケットに戦利品のナプキンだけを握りしめて。
ねえ、先生あんたが死んでから本当にろくなことがありませんよ。
本当に―――。
同胞なんて―――、つくりっこないものをねだられて。
はあ、今日はほんと災難。
お姉さんの経血が美味しかったのが、まだせめてもの救いかなあ。
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