早く吸血鬼になりたい

 拝啓、お父さん、お母さん。


 なんか、死にたいので。


 私、吸血鬼に成ろうと想います。


 なに言ってるかわからないと思います。大丈夫、私もよくわかっていません。


 ただ、恥が多い娘ではありましたが、なんかこう、人の流れを外れてしまえば、もう恥ずかしいとかそういうのないんじゃないのかなと想った次第です。


 だから、うん、絶対応援してくれないだろうけれど、私がんばります。


 今、やけ酒のアルコールが入ってて、プラスで生理も来てるので、メンタル値は最高に乱高下しているとこなのだけど。


 絶対人生の何かしらの選択をしてはいけないタイミングではあるのだけど。



 多分、こんなこと、今、この瞬間くらいしかしようとも想えないから。



 だから、これが正気を失った選択でも構わない。


 私はもう、こんな自分でいたくないのだ。



 「―――って、想ってたのに!!」


 「いや、無茶言わんでください」


 「だって、吸血鬼って血を吸ったら増えるっていうじゃないですか!! 処女を吸血したら増えるんでしょ!! ばっちり処女です!! 彼氏いたことありません!! うるせえ!!」


 「なんで一人でカミングアウトして、一人でキレてるんですか……」



 対面の吸血鬼はそう言って呆れたように、ため息をついた。


 そう、この人は吸血鬼らしい。


 私の寝込みを襲ってきた、不審人物。ただ、明日の仕事が嫌すぎて悶々と眠れなかった私にものの見事に発見されたわけだけど。


 最初は強盗か何かと思って肝を冷やしたけど。どうせ死にたいんだから、別に強盗でもよくない? っていう謎の開き直りをして人生相談を無理矢理始めたら、吸血鬼だと告白してきた。うん、なんだろねこれ。


 吸血鬼……といっても、別に西洋風の顔ってわけじゃなくて、普通に黒髪で眼は茶色。腰まで流れる髪が異様にサラサラで、肌も綺麗で、美人だっていうことを除けば普通の人だ。今も、私の言葉に困ったような表情で頬を掻いている、そう言う仕草もなんというか人間臭い。


 まあ、突然人生相談なんてされても困るだろう。さぞ困るだろう。でも、私も困ってる。


 「なんでダメなんですか?! 成りたいんですよ、吸血鬼!! 早く人間やめたい!!」


 「また妖怪アニメの主人公に言ったらキレられそうなことを」


 「なんで知ってんですか、あんな古いアニメ」


 「再放送やってたんで」


 「あー、私もそれで見てました」


 あははは、と思わぬ共通点にお互い笑い合う。


 じゃねえよ。


 「やだー!! 吸血鬼にしてよーーー!!」


 我ながらこんなに泣いたのは5歳の時に、弟にお気に入りの漫画を破られた時以来だった。


 27にもなって本気でギャン泣きするのもいかがなものと思うが、深夜テンションと非日常とアルコールと生理が重なり合った脳みそはそんなことでは止まらない。ハイテンション情緒不安定の振り切れマックスである。今なら、戦災孤児の前でも私の方が不幸だと戯言を吐いて泣きだす自信がある。戦災孤児もきっとドン引きだ。


 「はいはい、もうわかったから。私、同胞を作る気はないんです。血だけ寄越しやがってくださいねー」


 「うわーん、おーかーさーれーるーー!! 主に血管がーーー!! 私の初めてがーーー!!」


「本当に近所の人起きちゃうんで勘弁してください……。ちょっと血を貰ったらすぐ帰りますから……」


 そういって彼女はそっと手を伸ばすと、優しく私の口を塞いできた。


 「…………〜〜〜〜っ!!??」


 手慣れた手つきで指が口の中に侵入してきて、私の舌を掴み取る。


 他人の指が口内に侵入してくる違和感が、全身の神経を逆撫でする。それなのに体は不思議と抵抗出来なくて、それを受け入れてしまっている。まるで意識の隙間にするりと指を入れられたみたいに。


 「私の身体、媚薬的なものを分泌してるみたいなんです。なんでまあ、抵抗はできないと思いますんで大人しくしといてください。痛くはしませんから」


 首元まで引き寄せられた吸血鬼の口が優しくそう告げてきた。行われてることはどこまでも強制的で暴力的なのに、なんでか、その全てに官能と優しさがついて回る。


 優しく絆すように口内が蹂躙される。


 甘く囁くように諦めを促される。


 熱を持った息がなぞるように首元に吹きかけられる。


 空いた方の手が私の下腹部をそっとなぞった後。



 彼女の手がそっと、撫でるように服の中に侵入してきた。




 え、え、え?


 えと、吸血ってそういう行為?


 体液ならなんでもいいの?


 それかあれ? 処女のまま吸われたら同胞になっちゃうから、一度、致してから吸われるものなの?


 どっちにしても何にしても、それはやばいというか、心の準備ができてないというか。


 というか私今日はアレの日なんだけど―――




 ベリ





 え?







 ベリベリ







 ん?






 ベリベリベリベリベリベリ。 ズルッ。







 確かに私のショーツの中に侵入した指は、私の大事な部分に触れるでもなく、中でもぞもぞと動き回っていた。何か―――とても大事な何かを抜き取られている感覚が――――。





 ズルっと。





 彼女の指が私のショーツから抜き取られる。





 同時に私の下腹部が微妙にスース―する。





 視線を下に落とすと、そこには確かにさっきまで私の身体に密着していたものが抜き取られていたのた。





 夜用。




 羽根つき。




 多い日タイプ。




 29cm。





 












 私の。






 ナプキン。







 を。








 口に。







 あてて。







 ……吸った。








 じゅるって。








 ずるって。









 音を、立てて。





 妖し気に。





 そして、どこか恍惚とした表情で。










 吸った。








 舐められた。






 ねぶられた。







 私の大事な処から滲みでた―――血を。










 「あ……、うっまあ……」






その日、私は生まれて初めて他人にビンタをすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る