第2部エピローグ

 デュークがラドメフィール王国に帰ってから4ケ月が過ぎた。

 それにより新たなパラレルワールドが構築され、あんなに騒がれていたデューク先生を噂する生徒は誰もいない。穂積は安心したような、寂しいような複雑な心境だ。

 そして、JK3人組は晴れて高校3年生になった。

 今日も授業が終わり、穂積は隠れ家に向かって歩いている。なぜなら、定期便で届くデュークの手紙が何よりの楽しみになっているからだ。街では、穂積を見かけると揶揄って手を出す不良連中も稀にいるが、デュークが去ってからというものの、都合良くそのはけ口にされてボコられる羽目になるので、近頃は穂積に手を出す連中もいなくなった。傷を負った穂積ほど怖いものはない。


 穂積はデュークが帰る前に話した内容を、先日、稀星の家で相談したことを思い出していた。

 稀星は出産したてで新生児育児の真っ最中だ。稀星は生まれた子供にレオと名づけ、とても可愛がっている。

 ウィルは慣れない日本の生活に戸惑いつつも、稀星の両親に土下座をして、稀星との婚姻を許してもらった。ウィルは稀星の両親から根掘り葉掘り聞かれると困ることばかりなので、天涯孤独の身であり、学歴もない、何もない自分を恥じて挨拶できなかったということにした。

 しかし、ハリウッドスター並みのイケメン(ウィル)を連れてこられた母はすっかり絆され、一方で産まれてきた赤ちゃん(孫)の可愛さに父も絆され、なし崩し的に結婚を認めて貰えた感じだ。


 穂積はおっかなびっくりレオ君を抱かしてもらったら、知らずに頬が緩んでしまった。

「赤ちゃんって可愛いもんだね。柔らかくて、温かくて、いい匂いがする」


「そうでしょう? 我が家のレオは世界で一番可愛いですわ。パパ譲りの明るい髪色に、わたくし譲りのチャーミングなお鼻。瞳の色はまだ安定していないからよく分かりませんが、少し明るいようですわね」


「穂積さん、皐月さん、その節は本当に有難うございました」


 ウィルは律儀にお辞儀をした。ウィルとはもう何回も顔を会わせているのに、会う度に同じお礼を言う。


「もう、いいってウィル。幸せそうな二人を見られれば、自分達も嬉しいからさ」


「うん、そのとおりだよ。しかも、ウィルは花蓮さんの意識を連れ戻したんだから、むしろこっちがお礼を言わなきゃ」


「…………ふ、ふぎゃああぁ」

 穂積に抱っこされていたレオがむずかって泣き始めた。


「おおっ、稀星、早く、早く引き取って!!」


「穂積、そんなに慌てなくても大丈夫です。赤ちゃんは泣くのが仕事ですからね。とは、言ってもミルクの時間かな、パパ、お願いしますわ」


「うん、稀星、任せて下さい」


 穂積はレオを稀星に渡すと、続いて、ウィルが慣れた手つきで手際よく作ったミルクを稀星に渡した。レオは哺乳瓶の乳首を口に入れられると、泣くのを止めてごくごくと飲み始めた。


 赤ちゃんがミルクを飲む様子も珍しい穂積と皐月は食い入るように見つめている。その光景が面白くて稀星が噴き出した。


「赤ちゃんが珍しいですわよね。それで、穂積、デュークさんは何て言って帰ったのですか?」


「うん、デュークは国で石化のポーションをより安全に改良して、こちらに送るって。それを使って、自分はラドメフィール王国に渡ろうかと思うんだ」


 皐月、稀星、ウィルは一驚した。


「それは、ずっとでしょうか?」


「うん、生活の要はラドメフィール王国に移そうと思っている。でも、石化のポーションがあればこちらに来ることもできるし、そんなに深刻には考えてない。みんなにもまた会えるから」


 穂積の言葉を受けて、皐月はあからさまに不機嫌になった。

 皐月が非難するような視線を穂積に送ると、今まで聞いたことがないほど冷たく言い捨てた。


「――ブラックエンジェルは解散だね」


「皐月、そんな言い方は嫌です」


 稀星はレオの背中をトントンしてげっぷさせながら、皐月を諫めるように言った。


「だって、仕方がないじゃない。稀星はお休み、穂積は異世界、私は学園とみんなバラバラじゃないか……私は……、私は、柄じゃないけど、寂しいよ……」


 いつも自分の感情を表に出さない皐月が「寂しい」と言ったことに穂積は胸が熱くなり、稀星も目を伏せた。


「――だから、私からの提案なんだけど、みんなでラドメフィール王国に行ってはどうかな。私は両親と離れるのは悲しいけど、日本に居ても自分の役割とか役目が見つけられないし将来の夢もない。いつも言葉にできない虚無感が纏わりついているように感じるんだ。それならばラドメフィール王国に行った方が役に立てるし、色々と新しいことも始められそうな予感がする」


「俺も、その案に賛成です。俺は稀星の側に居られるのならどこでもいいけど、日本はやはり堅苦しい印象があります。魔法とかラドメフィール王国の常識が一切通用しないこの国では、もし、レオに魔力があればなおの事、ここで生活するのは厳しいと思いました」


「――ウィル、無理してこちらに来てもらって申し訳ありませんでした」


 稀星が済まなそうな顔を向けたので、ウィルは慌てて否定した。

「いや、そういう事ではなく、本当に俺は稀星さえ側に居てくれればどこでもいいのですが、総合的に考えて自分の意見を言ったまでで……」


「わたくしだって、ウィルとレオさえいて頂ければ、どこで生活しても構いませんわ」


 穂積は皐月、稀星とレオ、ウィル、全員の顔を見回した。みんな穂積に応えて力強く頷いている。


「よし! それなら、みんなで行こう! ラドメフィール王国へ!!」

 穂積は、一段と大きな声で表明した。


 それから定期便を使ってラドメフィール王国のデュークと何度も遣り取りをし、1ケ月ほどの準備期間を経て、いよいよ出発の日。


 隠れ家にある元デュークの部屋はがらんとして何もない。沢山の思い出が詰まった穂積にとっては感慨深い場所であるが、この秘密の部屋もあと1ケ月足らずで自動的に消滅する予定になっている。同じくして、稀星の親から隠れ家の取り壊しを聞かされた。


 定期便の時刻が近づき、魔法陣にぽおうっと光が灯った。


「行くよ!」

「行こう」

「行きましょう!」


 穂積、皐月、稀星、ウィルとレオ。それぞれが改良を加えた新石化ポーションを手にして魔法陣の中に立った。

 まずレオの石化を見届けてから、続けて全員がポーションを一気に飲んだ。

 4人が一斉に石化する瞬間の発光は凄まじい照度であったが、穂積はしっかりと目を開けて、分からなくなるその瞬間までデュークの部屋の風景を目に焼き付けた。


 JK3人組がラドメフィール王国に復活することは、国で大きなニュースになっているらしい。勇者と賢者と姫騎士がラドメフィール王国に再度降臨する。

 ラドメフィール王国の大歓声に迎えられ、JK3人組の物語が新しく幕を開けた――。


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JK3人組が異世界で世直しします! 仙ユキスケ @yukisuke1000

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