第16話 稀星のおねだり

 御門総合医療センターのホスピスだった洋館は築50年は優に超えている古い平屋建てだ。古ぼけた石造りの塀に囲われており、門の中に入ると入口には建物から張り出した屋根を支える太い立派な柱が両脇に立っていて、広いエントランスを有する雰囲気は昔に病院であったことを彷彿させる。

 今ではかつての面影は薄れ、壁や屋根のペンキは剥がれ落ち、所々にひび割れている窓があり、建物には驚くほどの蔦の葉が広範囲に茂っているなど酷くおどろおどろしい。既に取り壊しが決定してることから、全く修繕の手は入っていない。

 地元の子供たちがお化け屋敷と呼んでいるこの建物こそブラックエンジェルの『あじと』で隠れ家だった。

 『あじと』と聞くと悪い印象を受けるが、ブラックエンジェルの神3と呼ばれ恐れられているJK3人組のもとには、家出少女がメンバーに入れてほしいとやって来ることがしばしばあり、実は少女達の避難場所にもなっている。

 少女達は、親の離婚や再婚などの家庭事情や、学校での人間関係など様々な理由で家を飛び出し、夜の街を彷徨う。まだ幼く短絡的な行動により、一夜の宿を提供してもらうために、見ず知らずの男に身体を差し出すこともあるという。場合によっては犯罪にだって巻き込まれる危険性だって大にしてある。

 硬派の穂積は、好き合っているならともかく、好きでもない相手との性交渉は絶対に許せないと思っているので、泊まる所のない少女達は落ち着くまでこの隠れ家を提供することにしていた。

 この隠れ家は元ホスピスだけあって部屋数は多く、使えるベッドも沢山ある。それに稀星の家に届く大量のお中元やお歳暮などの御届け物を稀星がせっせと運び込むので、偏ってはいるがジュース、ゼリー、クッキーなどの焼き菓子、せんべいなど豊富にありお腹を満たすことだってできる。

 まさかデューク・ウルフェンにまで隠れ家を提供することになるなんて思いもよらなかったJK3人組だが、数日ぶりに隠れ家を訪問した皐月は、持っていたカバンを下に落としてしまうくらい驚いた。


「デュークさん、やるううぅ――っ!」


「すごいですわよね。わたくしも驚きましたわ」


 デュークは空間魔法を駆使して、家一軒分の空間をクローゼットの中に構築した。

 クローゼットの入口を覗くと暗い洞窟のような先にぽわっと明るい光が見える。まるで万華鏡の中を覗くようなワクワク感があり、これがクローゼットの中という事実を忘れる程不思議な光景でもある。


 隠れ家では、主に穂積達JK3人組が使用する部屋があった。入り口から直ぐのベッドが6つ置かれている大部屋で、それぞれの毛布など私物を持ち込んでいる。ここ以外にも部屋は沢山あるので、隣の部屋をデューク用にしようと稀星は考えたが、デュークは穂積用のベッドサイドにあるクローゼットを入り口にして、ラドメフィール王国使用の部屋を構築したのだ。


「この家は広すぎて落ち着かないし、魔法を使っているところを誰かに見られても厄介なので、この前、街で穂積がピッとお金を払っているのを見て、空間魔法を思いついたんだ」


「そうだった、皐月っ、――聞いてくれよぉ。デュークは3歳児のように何で、どうしてって色々聞いてくるんだよ。電子マネーで買い物をしたら仕組みについて聞かれて困ったよ……」


「ああ、確かに電子マネーは不思議に見えるかもね。そもそも仕組みだけどさ……」

「もう、仕組みはいいからっ!」

「なんだ、俺は聞きたいぞ」

「じゃあ、後で二人でやってくれ」


 穂積は投げやりに答えながら、4人はクローゼットの中に消えた。



 クローゼットの中はキッチンが併設されている20畳ほどのリビングが一つ、デュークの寝室が一つ、その他研究用の部屋が一つある。

 リビングには大きな革張りのソファーセットが存在感を放っていた。茶色の革は飴色のいい艶があり、長年使ってきたような風合いを持つ。

 ランタンみたいな光の塊がそこら中に浮いていて、幻想的なのに照度が強く電気と同じように明るかった。JK3人組がラドメフィール王国で滞在していた屋敷によく似た雰囲気があり、初めて入った皐月と稀星はしばし言葉を失った。


「――っ、あ、えーと、デュークさん、この家具などはどうしたのですか? 新品には見えませんが」

 稀星が首をかしげて疑問のポーズをしてみせる。


「実は、隣の研究用の部屋にラドメフィール王国との窓口になる魔法陣を構築した」


 皐月は逸る好奇心から許可も取らずに隣の部屋のドアを勢いよく開けた。

 デュークが研究用と言っていた部屋は、床の中央に大きな魔法陣が書かれており、その脇に机と本棚がある。魔力で構築する魔法陣は、ラドメフィール王国の召喚士であり上級魔法使いだからこそできる技であり、このような大きな魔法陣は誰にでも構築できるものではない。

 魔法陣は術式を少しでも狂わすととんでもない事故が起こる危険な物である故に、200はある基本形の公式と精霊文字を徹底的に暗記しなければならない。だからこそ、国は召喚士を資格として認定し、デュークは数少ない召喚士の一人でもあった。


「魔法陣は人のような有機な物を転送するのはとても難しい。その人の情報を綿密に掘り下げて術式に興す作業が必要になり、それが最も時間が掛かって大変な作業なのだが、広義に無機な物であれば割と簡単に転送できる」


「じゃあ、家具などは国から取り寄せたのですわね」


 デュークは頷いた。

 穂積はデュークの部屋に入ったには初めてではないが、研究用の部屋は知らなかったので魔法陣を見たのは初めてだ。部屋の中で半ば呆然と魔法陣を眺めている3人を余所に、ドアにもたれ掛かかりながら腕組みしているデュークが後ろから声をかけた。


「俺は国の仕事を丸投げして穂積と一緒に日本に来てしまったから、色々と状況を把握する必要があるし、定期的に国の情報を報告させるのにこの魔法陣は必要なんだ」


「ほぇーー」


 穂積は感心するばかりだが、横目で稀星を見ると、何故か稀星はしきりに手や足をもじもじさせて落ち着きを失っていた。


「き、ら、ら!」

 稀星が何かを思い、切り出せない様子に見かねた皐月は、滑舌よく元気に稀星を呼ぶと肩にポンと手を乗せた。

 稀星はビクッと身体を震わせたものの、ガッツポーズをしてみせる皐月を見て、引き締めた顔つきでゆっくりと頷いた。


「デュークさん、――あ、のぉ……、その……」

 それでも言いたいことがはっきり口から出てこない稀星。

 皐月は小さく溜息をつくと、

「デュークさん、ウィリアム・ブラウンから手紙をもらうことはできるかな? もしくはこちらの手紙を転送することはできる?」と、一呼吸で一気に言った。


「皐月!!」

「皐月!?」


 稀星と穂積は同時に呼んだ。


「皐月、ナイスアイデアだよ」穂積は何度も頷いて「さすが皐月」と、しみじみ感心している。


 皐月と稀星は、穂積より早くラドメフィール王国から日本へ戻っている。だからこそ、ラドメフィール王国の恋人であるウィルと稀星は随分長い間離れており、お別れしてケジメをつけたと稀星は言うが、時折、寂しそうに溜息をついている様子を皐月は何度も目撃していた。


 デュークは無言で研究室の机に向かうと紙を取り出し、何かを書き始めた。

 隣からヒョコっと穂積が顔を出し覗き込んだ。


「何が書いてあるのか全く分からないな」


「じゃあ、これをかけて読んでみろ」

 デュークが渡した眼鏡は翻訳機能の魔法がかかっている特殊な眼鏡で、皐月はラドメフィールでとても重宝した代物だ。デュークはこれを使って、日本の書物を読んでいるらしい。

「!? おおっ、読めるよ、凄い。 ――何々? ウィリアム・ブラウンへの言伝、稀星に伝えたいことがあれば、手紙を用意すれば渡すことができる。三日後の定期便に間に合うように準備するように伝えろ……」


 穂積が読み上げる内容に、稀星の顔がみるみるうちに紅潮した。


「――赤いよ、稀星」

 稀星の顔をみて皐月はくすっと笑みをこぼした。


「そりゃあ、赤くもなりますわよ。日本に戻ってからずっと願っていたことが叶いそうなのですもの。それに、ウィルと離れてから1か月以上経っていますから、元気なのかなとか、割と気になりますもの。デュークさん、有難うございます」


 稀星はキラキラした乙女の瞳でお辞儀をして感謝を伝えた。上体を戻した時、そういえば、と手をポンと合わせた稀星は、デュークに話があった事を思い出した。


「――っ、と、いけないっ、忘れるところでしたわ。ところで、デュークさん英語は使えますか?」


「英語……」

 考えるように顎をさわるデュークは、目線を穂積に向けた。


「穂積、――英語ってなんだ?」


「デューク……。この地球上には沢山の言葉があって、英語は他所の国の言葉であるが地球の公用語のようなものだ」


「日本には日本語があるのだろう? 何故、他の国の言葉を習得する必要があるんだ」


「――そっ、それは、外交だよ。 が、い、こ、う! 小さな国土しかない日本は人口だってこれから減る一方だし、技術だって、大国に学ばなければ遅れを取るだろう?」

 穂積は嫌な予感がした。また3歳児デュークが始まりそうだったので、急いで話題を変えることにする。

「稀星、ところでデュークと英語にどんな関係があるんだよ」


「ああ、はい。実はわたくしの学校の英語教師が産休に入るので、ネイティブの先生を探しているのです」


 稀星はデュークの方を向いた。


「デュークさんは見た目が外国人ですし、良かったら臨時教師のアルバイトをしませんか? 日本で生活するには日本のお金が必要です。デュークさんは祖国と繋がって、そちらのお仕事も忙しいかもしれませんが、日本のことを知る上でも学校の先生になれば有益ではないかと思いまして。我が校はそれほどブラックではないですわよ?」


「へぇーー、凄いじゃん。デュークさん、稀星の学校は簡単には採用されなくて、噂では学校に関係する有力者3名以上の推薦状が必要とか言われているんだよ」


「推薦状でしたら、わたくしの実家で用意しますし、教員免許なんていくらでも誤魔化せますよね? 何しろ本物の魔術師なのですから」


 稀星は楽しそうにはしゃいだが、ふと、急に真顔になると目つきを細めて低い声を出した。


「ただ、問題は英語の授業ができるかどうかです」


「ラドメフィール王国では魔法学校の教壇に立つことはあったが……」


「じゃあ、大丈夫ですわね」

 コロッと安心する稀星。デュークが最後まで言い切る前に、即座に承諾と受け取った。

 英語が使えようが使えまいが、そこは初めから問題にしていなかった。何しろ魔法が使えるし、翻訳機能の眼鏡があれば何語だって簡単に解読できる。

 そして、稀星は神妙な顔をすると、穂積と皐月の前に立った。


「実は二人にもお願いがあるのですわ……」


 いつものフワフワした雰囲気と違って、稀星は背筋を正して畏まった。


「取り敢えず、デュークさんの教師の件も、二人へのお願いの件も長くなるから、お茶でも飲みながら話しましょうか……」

 

 稀星に促され、4人は研究用の部屋を出てリビングへ戻った。



 誰も居なくなった魔法陣の上には先程デュークが書いた手紙が置かれている。

 時間設定されている定期便は、2時間毎に日本とラドメフィール王国が繋がる仕組みになっているらしい。

 定刻通りに術式が発動すると魔法陣に強烈な光が放たれ、音もなく忽然と手紙が消えていった。




 *****



「えーーっ!! 自分と皐月も一緒に稀星の学校に潜入だって!?」


「潜入ではなくて、転校ですわ穂積。それも1年間だけの特別編入です。まあ、中途半端な期間ですから、このまま我が校で卒業することにしてもいいですわね」


 稀星は小指を立てて紅茶の入ったティーカップを持ち上げた。


「転校の件は一先ず横に置いて、自分達に一体何をしてほしいんだよ」


 稀星はカップをソーサーに戻すと、両手を膝の上に置き、ぎゅっと掌をこぶしにした。


「150年もの伝統がある我が校に最大の危機が訪れています。高等部の2年薔薇組から生徒達がおかしくなり、今は櫻組や百合組にも一部飛び火している状況です」


 稀星はテーブルの上に5枚のメモを並べた。

 皐月はそれを一枚一枚手に取り、慎重に確認する。

「全て一言『助けて』の走り書き……」


「気持ち悪いなぁ。言いたいことがあるなら直接言えって思うけどね。これは稀星に助けを求めているってことなのか?」


「分かりません。分からないのですが、何故かわたくしの周辺に落ちてくるのです。あっ、ただ、最初の一枚は生徒会長が落としたものと思います」


「じゃあ、その生徒会長が助けを求めているんじゃないのか?」

 穂積は高級クッキーの缶を小脇に抱え、ボリボリと頬張っている。


「たまたま拾って、ポケットに入れていたという可能性もあるよ」

 皐月は穂積とは異なり、常にあらゆる方向から物事を考える。


「わたくしも生徒会長が落としたと思いましたが、この件で会長に話そうと思うと生徒会の面々が間に割って入ってきて話が全然できないのです……、取り付く島もないとはこのことですわっ」

 稀星は思い出したようにプリプリと怒っている。

「わたくしの手には負えないので、是非とも二人に一緒に調査してほしいのです。明らかに何か大きな力に支配されてしまうような、嫌な予感がしてならないのですわ。決して単なる気のせいではないと思います!!」

 稀星はローテーブルに手を付いて、前のめりで力説した。


「稀星、自分達に転校までしてなんて、単なる愛校心だけではないだろう? 裏には何があるんだよ」

 穂積は稀星の目をじっと見つめた。稀星は受けるように穂積の目をしばらく見たあと、すっと下に視線を落とした。


「わたくしの事を一番分かってくれるのは、もちろん穂積と皐月ですが……、学校で仲良くしていただいている友人達がどんどん気力がなくなり、目がうつろになって、でも、普通に生活ができているのですけど、やっぱり何かがおかしいなんて……、上手く言えないですが、友人達が変わっていくのがもう嫌なんです」


 皐月は稀星の言葉に頷いた。

「……勿論、稀星の頼みなら一緒に調査するのは構わないけど、別に転校までする必要はないんじゃないの」

「我が校はセキュリティだけは、どの学校の比ではないくらいに厳重なのです。放課後に潜入なんて1回は成功しても2回目は絶対に無理ですわ。それに……」


 稀星は目を泳がせると再びもじもじし始めた。


「――わたくしの細やかな願いですが…………」


 穂積は稀星のじれったさに苛立って、足をゆすってカタカタ音を立てている。

「――だからあぁ、何なんだよ――っ」


 稀星は穂積と皐月の前に移動すると二人の手を取った。


「――わたくし、穂積と皐月と一緒に学園生活を送りたいんですの!!」


 稀星は胸の前で手を合わせると頭からポンポンと2~3本花が開花した……ように見えた。


「わたくし達はこんなに長く付き合っていても同じ学び舎で勉強したことはありませんでしょう? 体育祭や文化祭、高等部2年なら修学旅行もありますわ! 3人なら超絶楽しい事に間違いありません。それに、デュークさんも先生としてご一緒できるのですから楽しさ倍増ですわね」


 稀星の勢いに穂積と皐月は呆気にとられ、脱力してしまう。

「……稀星、そんな理由なら自分は行かないよ。今の学校のセーラが気に入っているしね」


 稀星は穂積に否定されて低いうなり声を発する。こうなればプランBの発動しかないと稀星は拳に力を込めた。


「穂積ぃ、いいのですかぁ? デュークさんが女子高の教師になるなんて、ピラニアの池に放り込まれたうさぎさん状態になりますけどぉ。先日の街でお買い物の一件を忘れたなんて言いませんわよね?」


「――うっ、うぐぐっっ……」


 稀星は悪徳商法で追い詰める店主のような悪い表情をして、一層目を細めた。


「それにデュークさんだって、四六時中穂積と一緒に居られたら幸せですわよね」


「ああ、それは俺の願いでもある。いつ、ラドメフィール王国に戻されるか分からないから、一分一秒でも長く穂積と一緒にいたい……」


「ほーら、ほーら! ねっ、ほ、ず、み!」

 穂積はこれで落ちたと確信し、稀星はニヤリとした。次は皐月と思い、稀星は皐月をロックオンする。皐月は穂積と違って単純ではないし、頭の回転が良いから説得するには骨が折れるかもしれない。稀星は慎重に話しかけた。


「皐月はどうなんですか? やはり反対ですか??」


「ううん、別にいいよ。転校しても」


「は、い、?」

 予想に反してあっさり承諾した皐月。稀星は拍子抜けしてしまう。

「とても有難いですが、理由を伺ってもいいでしょうか?」


「うん、まずは、セント・エターナル女子学院は歴史があるから、市中の図書館より蔵書が充実しているんだ。戦争で燃えなかった重要文化財クラスがゴロゴロしているって聞いたよ。一度図書館にお邪魔したかったけど、学校関係者ではないから今まで機会がなくてね。それに、教師陣も一流が揃っているし、あと、私は今の学校に微塵の愛着もないしね。

 実際、3人で学園生活したら面白そうだと私も思うよ。しかも、謎解きのオプション付きでしょう?」


 皐月は穂積とは逆に楽しそうだった。皐月は地元でもトップの進学校で首席を張っている。皐月の学校は、がり勉が多くて、いつも目の敵にされるのにも嫌気がさしていたところだった。


「だから、行くよ。あと、セント・エターナル女子学院のバカ高い学費は家には無理だから、特待生狙って編入するから」


「ええええぇ、そんなにバカ高い学費は家だって無理だよ」

 穂積が情けない顔をして頭を抱えている。


「学費の件は、わたくしの我儘なのですから、もちろん家で負担しますわ」


 皐月は、「ちょっと待って」と、スマホを取り出して何かを調べ始めた。

「穂積、スポーツ特待もあるみたいだから、それ狙えば?」

 皐月はスマホでセント・エターナル女子学院の編入受験のページを表示させた。


「スポーツ特待か。それなら可能性があるな。一体、何のスポーツがあるんだ?」


 皐月が指でスクロールしている先を穂積も一緒に目で追って確認する。

「ふーん、色々あるね。フェンシング、乗馬、ポロ、新体操……」


「お嬢様受けするスポーツばかりじゃないかよ!!!」


「あっ、穂積に向いているのあったよ。空手とか合気道などの武道だってさ」


「――自分は、そりやぁ、ケンカは負けなしだけど、でも、正式に武道を習ったことが無いし無理だよ。単にバカ力なだけだし……」


「穂積! そこは、わたくしの実家の道場でお爺様に稽古をつけてもらいますわ。ですからお任せください! それに、万が一試験に落ちても本当に学費は心配しないでくださいな」


「嫌っ、稀星に迷惑をかけたくないから絶対に特待生勝ち取るから!!」


「不可能を可能にしてきたブラックエンジェルの神3だからね。何とかなるでしょう?」


 余裕の表情を見せて皐月は皆のカップにお茶を継ぎ足した。微塵も心配していない様子の皐月にデュークは不思議そうに問いかけた。


「――皐月、学力試験枠の特待生編入は、英語、国語、数学の各百点満点のうち、290点以上が合格とあるが、大丈夫なのか?」


「問題ないだろう?」

「問題ありませんわ!」

「問題ないと思う。――可能なら全科目満点狙うから」


 JK3人組が素の表情で同時にデュークに振り向き、ハモって答えたのは言うまでもない。

 逆にそんなに場違いな事を聞いてしまったのかと、腑に落ちない思いで「す、済まない……」と、何故か謝る羽目になったデュークだった。


 そして、穂積は御門道場でボロボロになりながらも空手を習得し編入試験を見事クリアする。まだ白帯であったが、実戦さながらの試合は、先生をも負かしてしまうほどの完璧な試合だった。

 皐月はというと、編入試験で前代未聞の300点満点をとり、これまた教師陣を驚かせた。

 二人は晴れて特待生として、セント・エターナル女子学院の編入を許可される運びとなった。


「さすがブラックエンジェルの神3は不可能を可能にしますわね」

 受かった本人達よりも大喜びしているのは稀星に違いない。


 一方同じ頃、デュークもセント・エターナル女子学院の理事長面接を受けた。

 デュークにうっとりとした視線を向ける理事長から即決で採用を言い渡される。


 新緑が美しい6月、穂積と皐月の初登校の日。

 その日は登校時間のかなり早く前から校門付近でウロウロする稀星の姿が、多くの生徒に目撃されている。

 2人が見えた途端、稀星は駆け出し、満面の笑みで、穂積と皐月の手を引いて招き入れた。


「ようこそ! セント・エターナル女子学院へ」



 

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