お父ちゃんと焼き鳥

一陽吉

大人になったら

「わあぁ、焼き鳥だ!」


「明日は仕事が休みだし、ビールと一緒に食べようと思ってな。焼きたてだから、うまいぞー」


「食べていい?」


「ああ」


「いいにおい」


「どうだ?」


「うん、おいしい!」


「はは、そうか。父ちゃんはビールを一口、飲んでからな」


「……」


「うん、うまい!」


「焼き鳥だけでもおいしいのに、ビールも飲んだら、もっとおいしくなるの?」


「ああ、そうだ。朋子が大人になったら二人でビールを飲みながら食べような」


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 ・


 チーン。


「……」


 お父ちゃん。


 私、今日で二十歳だよ。


 大人になったんだよ。


 お供え物は、焼き鳥。


 話をしながらはできないけど、こうして、飲んだり食べたりすることはできるよ。


 父ちゃんの使ってたコップにビールを入れるね。


 そして私のにも。


 乾杯。


 ……。


 初めてビールを飲んだけど、けっこう苦いんだね。


 父ちゃんはこういうのが好きだったんだ。


 そして焼き鳥。


 ……。


 おいしいね。


 とってもってもおいしいね。


 子どもときは分からなかったけど、大人になっていくごとに分かること、たくさんあったよ。


 大変なこともいっぱいあった。


 一人で私を育ててくれた父ちゃんが、どれだけすごいか。


 いまなら分かる。


 本当にすごいよ。

 

 父ちゃんが唯一、好きにしてたビール。


 それ以外は全て貯えに回してくれたから、私が一人になってもなんとか専門学校を卒業できた。


 ありがとう。


 これからも、いろいろと困難はあるだろうけど、私、くじけずに頑張るよ。


 だって私は父ちゃんの子だから。


 あの温かくて力強い笑顔を忘れずに生きていくよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お父ちゃんと焼き鳥 一陽吉 @ninomae_youkich

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ