第57話 RoalingThunder!!!
FORCEの特殊回線通信は、現在のグロウムとの戦況を作戦部隊全体に伝えていた。その音声はグロウム周辺の磁気異常に伴ってノイジーだったが、訓練の通り、ごく短い単語の繰り返しによって作戦は遂行されていた。
「目標、6枚の羽。6枚羽。くりかえす、目標6枚羽、6枚羽」
「CPTより見て右上より1番」
「1番、狙え」
「1番、1番、1番――」
「グロウム1番羽、命中」
「左上、4番、狙え。4番、4番――」
「命中」
「1番、再生」
「3番、3番、3番――5番、5番、5番――」
「4番、再生」
「3番命中」「5番命中」
「1番、1番――」
的としては巨大なグロウムにミサイルを当てるのは、思いのほか難しくはない。ミサイルの対応に追われ、グロウ右派電子殻を回復させる暇はないようだ。しかし、尻尾のような器官をコイルのように巻き、そこに光を灯す。
「――磁界異常、確認!」
「荷電粒子砲、来ます!」
――その通信の次の瞬間、高い響きと眩い光とともに、作戦基地のすぐ近くの山肌に火花が散った。ただし直撃を免れたようで、そのままミサイルによる攻撃が続く。軌道が複雑なミサイルによる攻撃は、グロウム側から射線が読めないらしく、作戦基地に直撃する攻撃は放たれていなかった。
一方、グロウムの周囲に謎の光の円環が漂い、ミサイルは破壊され始めた。さらに、運よく命中しても魔物特有の高速回復により、数分以内に破壊部位は元通りになっていた。
兵器による攻防の脇から、アルトリヱスとラプラスが接近する。グロウムの放つ光と、ミサイルの爆炎によって、まるで祭りのように空が明るい。近寄るにつれて、グロウムの異様な様相だけでなく、その真下に広がる光景を見て、アルトリヱスは目を丸くする。
無数の船や、その残骸がグロウムの下で犇めくように留まっていたのだ。チェスターが言っていた「グロウムに引き寄せられた船」の集合体だということは分かったが、船の墓場どころか、塊のような光景である。グロウムはその上に降り立つようにして羽を広げて、雷を鳴らし続けている。
「相変わらずエグイな、これは。だが勇者殿、ちょうどいい。あの船を足場代わりに使って、あのバケモンと戦えるか? あそこまで送ることはできるが、中を船で進むのは難しい」
『ふむ、なるほど』
アルトリヱスは船から少し身を乗り出し、遠くを見つめる……船の集合墓地はもはや隙間のないほどに敷き詰まっている。足場には十分だった。
『――行けそうだ、それで行こう』
一方、その様子をテルルも見ていた。かなりノイズが混ざった映像であっても、船がひしめく様子は一目見ればはっきり分かるものだった。
「アルトリヱス様、私も賛成です。ですが、グロウムのすぐ近くの状況はFORCEでも観測できていません。十分、気を付けてください」
テルルは通信越しに、アルトリヱスに言う。『あい分かった』という簡単な返事が返った。
「よし、それじゃあの船の近くまで寄せる」
『行けそうか?』
「腕の見せ所だな。まあ見とけ」
ラプラスは舵を切って方向をこまめに変えつつ、推進力を調整する。風と波の影響に加えて、磁気による計器の異常――それらすべては、無人探査船ゴーストシップで測定された通りだった。ラプラスは自分の勘と、そのデータをもとに、船の墓場を目指して突き進む。すでに、半径1キロメートルにまで接近した……すると、ミサイルによる攻撃が、グロウムの羽に直撃して爆炎を上げるのがはっきり見えるようになる。
「こちらラプラス、まもなく勇者殿が交戦を開始する! 繰り返す、勇者殿が交戦を開始する、攻撃中止願う!」
『――了解』と、返信。同時に、ミサイル攻撃は停止する。
そうして残り、目測800メートル――今度は、海原を大きく震わす大きな音が鳴り響いた。
「ん? これは――」
『――ラプラス殿、魔力鳴りだ!』
「あ? 魔力鳴り……つまり、魔法が来るってわけか!」
ラプラスは舵を切る。周囲に響き渡る音は、ますます大きくなる――!「面舵いっぱい! つかまってろ、右に回る!」
瞬間、激しい光と、それについで大きな水しぶきが上がる。
船の上に大粒の水滴が降り注いだ。ラプラスは直感を信じ、航路を一時的に逸らして魔法の直撃をよけつつ、少しずつ船の墓場を目指して近づいていく――船の墓場まで残り100メートル。
「勇者殿、準備頼むぜ!」
『御意!』勇者がデッキの手すりにつかまり、構えた。『ラプラス殿、ありがとう! 拙者は行く!』
「おう! グロウムなんてやっちまえ、頼んだ!」
『ああ!』
勇者は船から飛び出し、海上を大きく跳躍した。同時に激しく揺れる船体。
――その宙を飛ぶ勇者を狙い、追撃のグロウムの光の魔法が放たれる。勇者は聖剣を腰のホルダーから引き抜くと、刃の腹で光を受け止め、ボレーシュートのように反射した。
そして勢いのまま、船の墓場で一隻に飛び乗った!
一方、魔法が反射されるという異常現象に気付いたのか、ミサイルの攻撃に気を取られていたグロウムは体の向きを勇者の方へ向けて、ゆっくりと動かした。
海原に浮かぶ死んだ船の上に乗る勇者、それと対峙する、光の魔物。すでに暗雲は消し飛ばされ、今は朝を迎えようとしている、赤色の空の下だった。
その状況を、アルトリヱスのセンサーを通じて、皆がモニターで確認していた。
「いよいよか……」
チェスターが息を呑む。テルルは、じっとその状況を見つめ、アルトリヱスのステータスを確認する。全てが「異常なし」であった。なにより、通信が通常通り可能であった。
(磁気異常の影響はない……。聖剣の加護の効果があったんだ)
リンも、固唾をのんで勇者と
自分の姿を圧縮するように広げた羽を折りたたんでいく――まるで、勇者に自分の形を合わせるかのように。最終的にグロウムは数メートルほどのサイズにまで自分を圧縮し、中身の入っていない「ローブ」のような姿を成した。ただ、長い長い尾のような部分はそのままである。尻尾の生えた幽霊のような姿であり、それは、電子殻の中に収まっていた状態のグロウムの姿と酷似していた。
『………体を』
「畳んだ? どうして――?」
セレンがモニターに映し出される状況を見て、目を細める。姿が大きな方が、戦闘においては有利ではないか、という考えがあったのだ。
――先にその答えにたどり着いたのは、リンだった。彼女はグロウムの本当の姿をもともと知っていたからこそ、グロウムが体を折りたたむ意味をずっと考えていたのだ。
その理由を今、見出したのだ。
「勇者! 多分、魔力密度のためだ――!」
と、リンが言った途端――、それをかき消すように、甲高い雷鳴が響き渡り、モニターが光に包まれた!
――毘沙嗚呼唖唖唖唖唖暗!!!!―――
『……ふむ。なるほどな』
一方、勇者にはリンの言葉がぎりぎり届いていた。咆哮とともに放たれた光の魔法は、すでに反射されていた。人間の反射速度では到底追いつけない攻防が、雷鳴が鳴るよりも早く、すでにひとつ終わっていた。
『魔力を収束するための時間を大幅に短くするために、こうして大きな体を小さく折りたたむわけか。魔力を発散させるときと収束させるときで、それぞれ最適な形態を選ぶ――こやつは思いのほか、戦略を持っておる』
勇者は、もう一つのホルダーから、聖剣の破片の方を取り出して左手に持つ。2本の刃を持ち、力を抜いた二刀流の体勢で構えた。
『こやつの魔法は、おそらく四天王最速だろう。音よりもはるかに早く着弾する。魔力鳴りを頼りにして戦いが長引けば不利になる……』
モニターを見つめる全ての人間に等しく緊張が走る。
対峙しているのは、まさに雷。
もし雷に撃たれた者が雷鳴を聞くことがあるとすれば、それは撃たれた後のことだ。もし雷に撃たれないように避けたいのなら、音を頼るのではなく、光を見切るしかない。
そんな達人しか立てない土俵に、勇者は立っていた。
『――いざ、参る』
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