第5話 R18の交際でお願いします。

「うわぁー。彼氏が家で使用人を虐めてるー。さいてー」

交際宣言をした1週間後。


大学の入学式を終え、順応性の高い麗子はすっかり大学に慣れた頃。

友人もでき、るんるん気分で帰宅すると、鷺洲公爵家の貴賓室に"彼氏"こと"第一王位継承者でいる玄翠皇太子殿下"が来ていると真っ蒼な顔の門番に告げられたので、玄関からは走って貴賓室に入った。

部屋の中では、大帝国の第一皇太子殿下がその堂々たる風格を最大限に発揮し、ドス黒いオーラを放たせながら、ソファーの上で腕を組み、机に靴を履いたまま、足を放り出している。

この顔は社交界で見せる穏やかな表の顔じゃなくて、本性の方ね。

「まるで、マフィアの首領のボスね」

「宝玉大帝国の首領の次期ボスだ。一般人に例えられるのは、初めてで心地が良い」

ふんぞり帰る玄翠に麗子はため息をつく。

すっかり部屋にいるメイド達は玄翠の覇気にやられて、青ざめている。

中には土下座の状態で失神している者もいた。

「お前、その姿はなんだ?」

麗子の今日の服装はドレスではなく、黒のミニスカートにピンクのふわふわのニット。

茶色のb4サイズのジーンズの鞄にピンヒール。

「可愛い?」

彼女はその場で一回転する。

「男を誘ってるのか?」

なんなんだ。

綺麗な太ももを・・・太ももをさらけ出して。玄翠は激しく動揺するが、表には出さない。

「殿下って、確か。24歳ですよね?」

「あぁ」

「え?オヤジ?実はオヤジ?」

ミニスカート=男を誘うとか。

父くらいだと思ってました。

「・・・まぁ、いいです。それで?どうされたんですか?私の彼氏様」

麗子は黙っている玄翠に少し肩をくすめると、机の上に乗っている足を玄翠の隣に座るとペシっと叩いた。

「ちょっっっ。お嬢様!!!!」

殿下を叩くなんて!

死刑に値する。

「あなた達、五月蝿いわよ?彼氏の行いは彼女の行い。お行儀悪いわ」

しれっと正論をいう麗子に玄翠は眉間に深い皺を寄せ、足を下ろす。

そして、再び何しに来たの?っと、麗子は首を傾げると玄翠の顔はさらに引き攣った。

良いわねぇ。

顔で何かを語れる人って、羨ましい。

麗子はどんなにしかめっ面をしても、怒っていても。

綺麗、美しいとしか言われない。

「どうしたの?」

「あれ以来、何の音沙汰もないからやってきた」

「なるほど。明日、官僚のバイトで王宮に行く予定だったから声をかけようと思っていたの。手間が省けたわ。今後のプランを聞きに来てくれてありがとう」

「あぁ」

「私はね、恋愛がしたいの」

「・・・具体的に」

「18禁ではないやつ。手が触れちゃった。きゃっとか。見つめあっちゃた。しかも、3秒間もっとか。そういう恋愛がしたいの」

玄翠は膝に頬杖を突く。

「楽しいのか?」

「きっと、楽しいと思うわ。私、婚約破棄されるまで、あの人の妻になって。つまらない人生をつまらなく生きるんだって信じてたのよ。でも、事態は変わった。そして、高身長、高収入、高学歴に加え、高度イケメンフェイスという完璧な彼氏を持ったの」

・・・褒められたことは嬉しいが。

なんなんだ?この、淡々という感じは。

「大学で恋愛話をすると、彼氏を持ったことのない女の子って意外にいるのね」

そうなんだっと。

恋愛話をしたことのない玄翠は話の続きを待つ。

「とりあえず。王妃様とお話して、携帯を買って来たわ」

「・・・どの王妃?」

「貴方のお母様」

「は?」

「たまたま。明日からのアルバイトの履歴書を出しに行ったときに、目が合って。大事な息子さんと真剣に交際をさせていただいてます。どうぞ、傷つけたりしないので。安心してくださいって伝えたわ」

「はぁぁぁあ!」

玄翠は絶叫の後、絶句した。

「ふふふ。知らなかったんだけど。24歳なのに婚約者いないのね。婚約破断の最短記録が5分って私が所属する統括省の省長に聞いて。爆笑しちゃった」

「お前のように公式の場で婚約破棄をされた女に言われたくない」

「意地悪ね。彼女の黒歴史の一幕をほじくり返すなんて」

彼女はそういうと、一枚紙を鞄の中から取り出した。

それは大学の時間割。

「彼女はデートをご所望よ。これ、私の大学の時間割。そして、こっちはバイトのシフト。デートのお誘いを待ってるわ。計画は私の方で2.3あるから。彼氏様は4.5回目以降のプランを思いついていたらお願い。思いつかなかったら私の方で用意するわ」

麗子はそういうと、携帯と2枚の紙を玄翠に渡す。

王族、貴族は基本的にメイドや執事に連絡を頼むので自らは行わず。

玄翠は心の中で、携帯を手に取りどうやって操作するんだと動揺しながら受け取った。

「あ、ああ」

「本当に以心伝心。私たちって、赤い糸でつながっていたのね。明日、王宮に行く予定にはしてたけど。今日、渡したかったの」

「・・・そうか」

「ちゃんと、おはよう。おやすみ。毎日、メールしてね。金曜の夜から日曜まで会えない日は絶対に電話をかけ、最低5分間会話をしてね。異性と食事をすることは許可するけど、異性とキスをすることは禁止。同性は許してあげるわ。生物として、同性の場合はかなわないから」

ちょっと待て。

この女は何を考えている。

「デートは月に2回以上だからね。時間は問わないわ。ご飯だけでもいいし、30分だけ王宮のお庭を歩くのでもいい。もちろん、手が触れたわ。きゃっ。恥ずかしいって照れる茶番劇も初回は頼むわ」

「ちょっと待て」

「質問?いいわよ?」

「お前、俺の事好きなのか?」

「好きか嫌いかでいえば好き」

そうそうっと、麗子は足を組んで。玄翠の太ももに自分の手を置く。

「私があなたに触れることは許可するけど、あなたが私に触れることは18禁にならない範囲で許可するわね」

18禁ってなんだ。

言葉の意味は知っている。

そして、ここで麗子が使っているのは。不健全性的行為の事だ。

「ここで、俺がお前のその・・・。スカートから出ている生足に同じように手を置くことは?」

「禁止。後、ストッキングをはいているから生足じゃないわよ?」

「そうか」

いやいや。

そうかじゃないだろう。

「そうだ。なんて呼んだらいい?理想は呼び捨てなんだけれど、恋人関係とはいえ。私たちって、身分に格差があることは否めないわ。ちなみに、タメ口なのは王妃様が許可してくださったからよ」

「呼び捨てでいい」

「そう?玄翠だから、玄ちゃんっとか。玄翠君っとか。玄たんっとか。玄にゃんっとか。色々考えてはいたんだけれど?大丈夫?」

「お前の頭は大丈夫か?」

「大丈夫よ?ちょっと、湧いているだけ。だって、彼氏って、恋人関係でしか使えないのよ?婚約者は婚約者で、彼氏じゃない」

にっこり微笑む麗子のスカートから出ているスラっと長い太ももに玄翠はぽんっと少しだけ、タッチすると立ち上がった。

話はまとまった。仕事があり得ないほどある。そろそろ、玄翠は行かなくてはいけない。

「だから、お障り禁止です。そういう制度じゃないから。中学生の恋愛をしましょう」

「最近の中学生ってませてるぞ?」

「じゃあ、小学生。もう、一層の事。園児でいいわ。幼稚園児」

「じゃあ。夜会のダンスは、お遊戯か?」

「そう!」


玄翠は玄関に向かうと、玄関で麗子の額にキスをする。

「なっ」

「最近の園児はする!」

「そっ。それなら、仕方ないわね。世に溢れているのは。おませさんばかりなのね」

幼稚園に通ったことのない麗子には、判断基準がなく。

そんな麗子に玄翠はうなづくと車に乗り込んだ。


「メールってどうやって打つんだ?」

車に乗り込むと、側近執事のカールに尋ねる。

「携帯ですか?しかも、昨日出たばかりの最新のスマートフォンじゃないですか」

「あぁ」

「・・・麗子様からですか」

「あぁ」

「メールするんですか?」

「あぁ」

「へぇ。殿下がスマートフォンで自ら彼女にメールですか」

「あぁ。・・・・さっさと。教えろ。いつも、お前らがやってるのをみてたが。なんだ?画面を押すだけで入力できるのか」

「パソコンは使われますが、タブレットの類は使いませんもんね」

カールは玄翠に説明を始めつつ。

「・・・小学生の健全交際ですか?」

今後の交際プランを聞かれたので、答えると。

「ははは。殿下が、小学生の健全交際をぐぐってる。ははははは」

カールの大笑いは王宮に到着しても続いていた。

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