第4話 付き合うきっかけです

「あれ?迎えが来ないわ」

麗子の婚約者である。

東條大輝は女関係が激しく、夜会に迎えに来るときには女友達という名目で。

大輝の腕にまとわりつく、化粧が濃い女を連れてくることはあったとしても。

迎えそのものは、東條家の体裁もあることから来ないことはない。

大輝はたとえ、麗子の前で違う女と熱い唇を重ねるだけのキスではなく、それ以上のキスを目の前でしながらでも迎えに来る。

たとえ、未来の妻の前でよその女の豊満な乳に顔を埋めながらでも迎えに来ていたのだ。

これは、困った。

東條伯爵家と鷺洲公爵家。

公爵家のほうが位が高く、結婚後は東條家は鷺洲公爵家の恩恵を受ける。

大輝は忖度(そんたく)出来ないほど、馬鹿じゃないはずなのに迎えに来ない。


「お嬢様。いかがいたしますか?」

「そうね・・・」

両親と、祖母は迎えに来た祖父と共に行ってしまったし。2人いる兄たちはそれよりも前に自身の婚約者を迎えに家を出ている。

「今回の夜会は玄翠殿下の誕生日を祝うものだから・・・・。そうね・・・・。仕方がないわ。車の手配をお願い。東條家によってから、会場に行きましょう」

麗子はそういうとすぐに用意された車に乗り込んだ。


そして、東條伯爵家に立ち寄ると、使用人から既に東條家の全員が夜会に出払ったと聞き。麗子はどういうつもりかしら?っと思いつつ会場に入り大輝を探す。

すると、大輝は両手に美女を抱き、シャンパンを飲み干していた。

既に顔は赤く、ほろ酔い気分なのが一目でわかる。

困ったわね。

夜会の初めはダンスがあり、公爵令嬢という立場である以上、踊らないわけにはいかない。

かと言って、誰か別の相手と踊るわけにもいかない。

そうじゃなくとも、既に美しい麗子となぜ麗子の婚約者なのか?と疑問に思われることの多い平凡な容姿、中身こ上に女癖の悪い大輝には注目が集まっている。

「今宵は玄翠皇太子殿下の誕生日をお祝いをしにお集まりいただきありがとうございます。早速、パーティーを始めさせていただきます」

優雅な音楽と共に、麗子は大輝に駆け寄る。

「何をなさってるの。行くわよ」

麗子は大輝の手を握る。

「あー。お前かよ」

「お前かよ。っではないです。踊りますよ」

手を引っ張り、会場の中央に連れて行くと踊りだす。

そんな時だった。

麗子の頬に男の人の拳が飛んでくるのを察知した。それは、想定外だった。

公式の場で、会場の真ん中で、結婚間近の男性に頬を打たれるとは想定していなかった。

普段、誰かに平手打ちをされてもよけることは可能で、バランスを崩すことなどはない。

ダンスの途中、しかも生まれた時からの婚約者にターンをするときに頬を打たれるとは思っていなかった。

身を捻り平手打ちだけは会費する麗子に。


「婚約破棄だ!」


大輝は大声で叫び、その叫び声に驚いたのか音楽は止まる。

最悪だわ。バランスを完全に崩した。

麗子の体は既に空中にある。床に打ち付けられることは回避できない。

そして、床に倒れる麗子を蹴ろうと、大輝が足を上げ床に落ちる衝撃、蹴られることに対する痛みに備えて目を閉じた。


何をするのよ。

どういうつもりよ。

こっちだって、婚約破棄よと叫んでやりたい。

あぁ、惨めだわ。


心の中でうんざりしながら、大人しく、あがく事無く、痛みを待っているのに体に衝撃は走らない。

それどころか・・・・。温かい。

やって来ない痛み、体に感じる暖かさ。

---------ゴキッッッ

骨の折れる鈍い音と共に、目を開けると、大輝はその場に叩きつけられていた。

「うぅぅぅぅ」

痛みと衝撃に彼は床に倒れたままうずくまり、体を起こすことはできない。

「怪我がなくて良かった」

頭上から聞こえてくる安堵の声の音はとても低い。

声が頭の上で聞こてきたことで、誰かの腕の中にいる事は理解できた。

麗子を抱くその人物の手は、優しく、丁寧で。それでいて、力強い。

上を見上げると、そこにはこの大帝国の皇子であり、今日の主役の顔があった。

顔がただあっただけなら、よかったが。

――――――ゾクッ

麗子の背中に冷たいものが走る。

怖い。

その場にいる誰もが恐怖を感じた。

麗子を抱いた人物。玄翠は怒っていた。

玄翠からはなたれるのは殺気。

「連れていけ。暴行罪。いや、可憐な公爵嬢の頬を打ち、足で蹴ろうとした。この行為は、殺人未遂罪。そして、次期皇帝の誕生日を祝う夜会をぶっ潰した皇帝侮辱罪。ふっ、東条伯爵家は取りつぶしだな」

低い。どこまでも低い声が響く。

さすが大帝国の兵士だけのことはあり、一瞬にして大輝を立たせるとどこかに連れて行った。

「どうしたい?」

玄翠は麗子の腰に腕を回し、顔を近づける。

え?婚約破棄をされたばかりの公爵令嬢にキス?

婚約している時は不貞行為だが、今はフリーの身。不貞行為には当たらない。

それに、みんなの前で惨めな末路を迎えると思っていたのに・・・。

それを迎えたのは、私を叩き、蹴ろうとした婚約者。

麗子は目を閉じる。

「このまま、夜会を終わらせることを俺はお勧めする」

耳に聞こえる声に、キスじゃないんかいっと少し突っ込みつつ。

安堵したのも、事実。

「な、なりません」

色ボケしている場合ではない。

昔から、ちょこちょこ話す機会はあっただけに・・・って、恋愛思春期思考は停止。

この夜会は、次期皇帝の誕生日は個人を祝う物ではあるが、公式な社交の場だ。

麗奈は玄翠の腕から出ようとするが、離しては貰えず。

仕方がないので・・・。

「皇帝陛下、大変、申し訳ございませんでした」

まずはここのトップである皇帝に詫び、周囲を見渡した。

「お騒がせいたしました」

麗子は周囲に一礼する。

その優雅さ、まるで花が咲いたような上品さ。周囲の張りつめた空気は一瞬にして、和やかなものになった。

「殺してやる」

「賛成」

低い声はオリーナ大帝国の国王と王妃、両親と2人の兄。彼らは大輝が連れていかれた方ににこやかに歩き出すのは両親と2人の兄。

「さて、誕生日にお集まり頂きありがとうございます。皆様がお祝いに駆けつけてくださり、私にとってとても素晴らしい日になりました。皆さんの祝福のこの心が、何よりの贈り物です。今宵は皆さんにとっても素敵な好き1日となりますように」

玄翠の言葉に再び、ダンスの演奏が始まった。

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