りんりんと愉快な仲間たち 最終話

 それでもやっぱりごめんって思って。



 俺はセツにごめんって謝った。



 セツは漆黒の目を伏せて、笑った。






「倫とこうしていられることが僕の幸せ。そのためのマイナスなら、それはその時点で僕にとってマイナスじゃない」






 セツはそう言って、それ以上俺が何も考えられなくなるような甘い甘いキスを、たくさんしてくれた。











 ピーンポーン






 インターホンが、鳴った気が………する。



 けど。






 眠い。目が開かない。






 ベッド。



 布団の中。






 今何時だ?






 今日はふたり揃っての休みだから、何時からだったのかは分かんないけど、夜じゃないけど、ベッドインした。



 もちろんベッドインって、寝るってことじゃなくて。






 俺は横のぬくもりを求めてセツに擦り寄った。






 素肌のセツが気持ちいい。



 気持ちいいことの後の気持ちいい倦怠感もあってさらに気持ちいい。






 気持ち良くて、まどろみとセツが気持ち良くて、俺はそのままセツの素肌にキスをした。






 くすぐったいのか、セツがもぞって動く。



 それを追いかけるみたいに、キスをする。






 ピーンポーン






 やっぱり………鳴ってる?






 けど。






 左肩。



 白い肌に浮かぶ雪の結晶模様。にも、キス。






 お互いにもぞもぞしながら、お互いの身体に腕を絡めた。






 セツが雪女だと知って、俺が触れられない、触れてはいけない存在だと知って、それだけでも何だよって思ったのに、それだけじゃなくて、セツの存在そのものを失った。消えた。俺のせいで。目の前で。



 だから。これが、こうしてることがどんなに奇跡的なことかって。知ってる。分かってる。






 そうだな、セツ。






 例えセツの身体ががっつり雪女バージョンの時よりも弱く脆くなったって言っても。



 セツの言う通り、そのマイナスは、こうすることができるってだけで、それだけで、もう。






 ピーンポーン



 どんどんどん






 ………。






「………倫、誰か来てる?」






 俺よりも倦怠感でだるだるなセツが、だるだるな感じで小さく言った。



 だから俺も仕方なく、宅急便かなんかだろって無視して閉じてた目を開けた。






 うっすらとぼんやりと目を開けて俺を見てるセツが、だるだるで色っぽさ倍増で思わずその身体に乗り上げた。



 そのままキス。






 するけど。キスして、奇跡な幸せを噛み締めてた、けど。






 ピーンポーン



 どんどんどん



 ピーンポーン



 どんどんどんどん






 ………くっそ。



 いいとこなのにまじでうるさい。そしてしつこい。






「………倫」

「………イヤな予感しかしないんだけど」






 そもそもインターホンを押すってことは、おりさんじゃない。



 おりさんはいきなりあらわれるから。



 で、こんだけ無視してても鳴らして、しかもどんどん叩いてるってことは。






 ってことは。






 だ。






 何でユキオがシャバに居るんだ。



 まさかと思うけどイエティのままじゃない………よな?






 ユキオは風船さえ持ってりゃ大丈夫的な感じで、時々おりさんとイエティ姿のまま街を闊歩してる。



 おりさんのキスでヒトになれるんだからヒトになって歩けばいいのにっていつも思う。






 他の住人に見られたらの心配もあって、しょうがねぇなって脱ぎ散らかしたパンツとズボンを履いて、Tシャツを着つつ玄関に行こうと部屋を出たとこで。






「りんりん」

「のわっ‼︎」






 にょきって、おりさんがあらわれた。






 ちょうど俺もTシャツからにょきって頭を出したとこで、超びびって思わず壁にはりついた。






「なっ…なっ…なっ…何⁉︎」

「りんりん、いいか?おれは居ない。今日おれはここに来ていない。いいな?分かったな?」

「いや、居るじゃん。ってか来てんのやっぱユキオ?ってかおりさんいつから居たんだよ?俺らさっきまでめっちゃ愛し合ってたけど、まっ、まさかの覗きか⁉︎」

「………興味ねぇし」






 おりさんはぼそっと言って、唇を尖らせて、次の瞬間にまた消えた。



 何なんだ。一体全体何なんだよ。痴話喧嘩かよ。俺ら巻き込み事故かよ。勘弁しろよ。






 その間にもインターホンは何回も鳴ってて、玄関はどんどんされてる。



 分かった。分かったから叩くんじゃねぇっ。イエティ姿のままでやってたら壊れる。玄関凹む。まじやめて。






 ああもうって頭をがしがし掻きながら玄関に行って、誰か確かめることもなくがちゃって開けたら、そこにはそうかなと思ってたけど、やっぱりなイエティユキオがそこに立ってて。






「ふごっ」






 挨拶だろう。左手をあげた。






 玄関からひゅうって入ってきた風が、朝より冷たく感じたのは………気のせいか?






「ふごっ。ふごごごっ」

「あっ、ちょっ、ユキオ‼︎足拭け足‼︎ばか、そのまま入ってくな‼︎ユキオーーーーーっ」

「あれ?ユキオ。どうしたの?織波は?さっき声が聞こえてたけど。ねぇ?倫」

「あ、こらセツそれは言っちゃダメって、あ」

「ふごふごっ」






 今日は休日。



 セツとの休日。



 ゆっくりするはずだった休日。






 なのに。






「のわあああっ」






 林倫、ただいま。



 イエティにつかまり、ふごふご言われております。






 くっそ、季節感クレイジー神‼︎おぼえとけよ‼︎






 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

六の花 みやぎ @miyagi0521

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ