第4話

 美女はセツと名乗った。

 

 

 どんな字?って聞いたら雪でセツって。

 

 

 

 

 

 すげぇぴったりすぎる名前だなって、思った。

 

 




 セツは白くて儚くてキレイで本当に雪みたいで、今にも雪に消えてとけてしまいそうだと、何度も思った。

 

 

 本当に本当に、キレイな人だった。

 

 

 

 

 

 セツはその日の夜から熱を出した俺を献身的に看病してくれた。見ず知らずの俺なのに。

 

 

 飯も、着替えも、身体を拭いてくれるのもやってくれた。

 

 

 

 

 

 セツはあちちちって言いながら飯を持って来てくれて、あちちちって言いながら食べさせてくれて、あちちちって言いながらお湯でタオルを濡らして身体を拭いてくれて、あちちちって言いながら着替えを手伝ってくれた。

 

 

 

 

 

 何がそんなに熱いのか分からなかったけれど、セツは手を真っ赤にさせながら俺の世話を一生懸命やってくれた。



 雪女じゃなくて神か天使じゃね?って思った。とにかく世話になりっぱなしで、何回も何回もありがとうって言った。



 言うたびにセツは、そのめちゃくちゃキレイな顔に、今にも消えてしまいそうな雪のような笑みを浮かべた。

 

 

 

  


 捜索願とか、出されてんのか。

 

 

 

 

 

 まったくやむ気配を見せない雪に時間だけがただ過ぎて、心配になってくる。

 

 

 でも捜索願って言ったってこの雪じゃ。

 

 

 

 

 

「何でこんなに降るんだ………?」

 

 

 

 

 

 ベッドから顔の半分だけ出して窓を見る。

 

 

 

 

 

 雪しか見えねぇし。

 

 

 

 

 

「弟が怒っててね」

「………え?」

「恋人とケンカしたみたいで、機嫌が悪い悪い。早く仲直りしてくれればこの雪も………」

「………は?」

 

 

 

 

 

 この雪とセツの弟が何で関係あるんだ?

 

 

 

 

 

 意味が分からなくてベッドからセツを見上げた。

 

 

 

 

 

 今日も、こわいぐらいキレイ。

 

 

 雪のように白い肌に艶やかな黒髪。

 

 

 黒目の比率が大きくて、見てると吸い込まれそうな、感じ。

 

 

 そしていつも同じような白いシャツにGパン。

 

 

 

 

 

 寒く、ないのか。

 

 

 

 

 

 暖房はいつもついてない。

 

 

 俺の身体を拭くときだけ、部屋のストーブをセツはつける。

 

 

 今は消えてるのに、セツは袖を捲ってて、その手が。

 

 

 

 

 

「セツ、手が」

 

 

 

 

 

 真っ赤だ。なんか、ひどくなってね?水ぶくれとか、皮とか。

 

 

 いつもあちちちって言っている。俺に触れるだけで痛そうに顔を歪めることもある。

 

 

 何で。

 

 

 

 

 

 何で、何で何で何で。

 

 

 

 

 

 何でがいっぱい過ぎて、また熱が上がりそうだった。

 

 

 

 

 

 ………本当に、雪女、とか。

 

 

 

 

 

 いやいやいやいや。

 

 

 あれは単なる昔話で架空の話で、今は21世紀で現実だ。何言ってんだ俺。

 

 

 でもさっき弟が怒ってて雪がどうのこうの。

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ」

「大丈夫って、でも」

「倫を無事に帰してあげるまでは持つ」

「………え?」

 

 

 

 

 

 だから、それは、どういうこと?

 

 

 

 

 

「大丈夫だから、熱下げようね」

 

 

 

 

 

 そう言って、セツはキレイにキレイに、笑った。

 

 

 キレイなのに、消えそう。消えそうなのに、むちゃくちゃ、キレイ。

 

 

 

 

 

 ふわり。

 

 

 

 

 

 セツのひんやりとした手が、俺の額に触れた。

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