第5話

 びゅうううううううううううっ………

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 ここに来て身動きが取れないまま早いもので3日目。

 

 

 熱は結構下がった。平熱まであと少し。

 

 

 

 

 

 今日もセツが作ってくれたお粥を食べて、まだやまない雪を、おさまらない吹雪をベッドから見ていた。その時だった。

 

 

 

 

 

「んのおおおおおおおおっ…………」

 

 

 

 

 

 バンって、何故かいきなり窓が開いて。

 

 

 一瞬のうちに部屋の中が風と雪でいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 ななななな何で開いた⁉︎何で窓が勝手に開くんだよ⁉︎ありえなくね⁉︎

 

 

 

 

 

 一瞬にして俺は大パニックに陥った。

 

 

 

 

 






 びゅううううううううううううっ…………

 




 

 ひょううううううううううううう…………

 

 






 

 

 

 吹雪。猛吹雪。

 

 

 雪が凶器みたいになって俺を襲う。動けない。

 

 

 んでもって。

 

 

 

 

 

 こええええええ‼︎さみいいいいい‼︎誰かたすけてくれえええええ‼︎

 

 

 

 

 

 毛布が飛ぶ、布団も飛ぶ、ストーブがひっくり返って、カーテンなんか千切れそう。

 

 

 風に巻き上げられてどんどん飛んでく布団や毛布の最後の1枚を必死で死守しようとするけど、風でびらびら舞って剥ぎ取られそう。

 

 

 

 

 

 今度こそ終わった。寒い。体温が一気に落ちる。凍死か、このまま。

 

 

 せっかく助けてもらったのにごめん。セツ。

 

 

 

 

 

 最期の瞬間は今までの人生が走馬灯のようにってよく言うけど、俺の頭の中はセツでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 セツ。

 

 

 雪、やまないねって、膝黒の双眸を伏せて儚く笑むキレイなキレイな、セツ。

 

 

 真っ白な、雪のような。

 

 

 

 

 

 ………手、俺が居なくなったら治るか?治るよな?治って欲しい。治ってくれ。

 

 

 何でそうなのか深くから考えないけど、きっと俺の体温とかが火傷レベルなんだよな?

 

 

 なのに3日も俺のために色々世話してくれて。

 

 

 ああ、ありがとうって、もっとちゃんと言っとけば良かった。

 

 

 

 

 

 日に日に白く儚くなっていくセツを思い浮かべて、激しく後悔する。ごめんが渦巻く。

 

 

 

 

 

 ああ、もう本気でダメかも。

 

 

 

 

 

 風の音がすごいはずなのに、遠ざかっていく。

 

 

 毛布を握る手が限界で、離した。離れた。

 

 

 

 

 

 バサって、毛布が舞った。

 

 

 

 

 

 諦めた。



 もういいや。もう無理。

 

 

 自然現象の前に人間なんてちっぽけで、歯なんて立たない。

 

 

 

 

 

 なんて思った、時。

 

 

 

 

 

「倫‼︎大丈夫⁉︎」

 

 

 

 

 

 救世主セツの声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

「ユキオ‼︎いくら織波が謝りに来ないからって倫にまでイタズラしないで‼︎」

「………セツ?」

 

 

 

 

 

 ふわって抱かれて、大きい声が聞こえて。

 

 

 次の瞬間、ふっと部屋の嵐は嘘のようにおさまった。

 

 




 バサバサと音を立てて、布団や毛布があちこちに落ちる。

 

 

 

 

 

 窓が、閉まったのか?何で?どうやって?全っ然意味分かんねぇ。でも。

 

 

 でも。

 

 

 

 

 

 助かった。良かった。マジこわかった。死ぬと思った、今度こそ。



 室内で凍死とかやめてくれホントに。

 

 

 

 

 

 そして。そして。

 

 

 

 

 

「さっ………さみい」

「倫、ここの部屋はもう使えないから隣の部屋に行こう?ごめんね、ちょっと抱えるよ?」

「えっ?え?えええええ⁉︎」

 

 

 

 

 

 セツはそう言うといとも簡単に俺を抱えて、隣の部屋に連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

 女じゃ………女じゃ、ないのか?

 

 

 すっげぇ軽々と俺を抱えてる。自慢じゃないが俺はなかなかの筋肉男だ。そんなに軽いはずがない。

 

 




 つまりはずっと美女だと思っていたセツは。

 

 

 セツは。

 

 

 キレイだって毎日見惚れて、そのあまりの甲斐甲斐しさにうっかりもっと一緒に居たいとかって思っていたセツは。セツは。

 

 

 

 

 

 もしかして………男?

 

 

 

 

 

 呆然とセツを見つめる俺に、セツは苦しそうに眉間に皺を寄せながら、でも、笑った。

 

 

 

 

 

 セツは隣の部屋のベッドに俺を下ろして、ストーブをつけて、雪で濡れた誰のか分からないけど着せられてるパジャマを脱がせてくれて、ほかほかのタオルで身体を拭いてくれて、もふもふのパジャマを着せてくれた。

 

 

 

 

 

 苦しそうな、顔。

 

 

 それは痛みを耐えている顔?だよな?

 

 

 

 

 

 俺はセツの赤い手がどんどん爛れていくその手が気になって、気になって。

 

 

 

 

 

「ふごごっ‼︎」

「うおおっ」

 

 

 

 

 

 セツごめんってそれでいっぱいだった俺は、バンっていきなり勢い良く開いたドアに、文字通り飛び上がった。

 

 

 

 

 

「ユキオ‼︎」

「ふごふごふごっ」

「………でっ、でっ、でっ、でえええええたあああああっ」

 

 

 

 

 

 勢い良く部屋に入って来て、セツにユキオと呼ばれたのは。

 

 

 

 

 

 アンビリーバボだ。嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ。ドッキリだ。テレビ番組だ。俺騙されてるんだ。頼むからそう言ってくれ。

 

 

 

 

 

 部屋に入って来たのは、そこに居るのは。

 

 

 ふごふご何か言ってる、クマみたいな白い毛むくじゃらの。

 

 

 それは。

 

 

 

 

 

 イエティ。

 

 

 

 

 

 ………雪男、だった。

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