第23話 憂鬱に願ったこと。
玄関で立ち話もなんだからと、母親に背中を押され家を後にし、そのまま通学路を歩きながら、昨日の出来事の洗いざらいを吐いた。
「アリスが……I’m the bad guyて……」
全てを聞いた後シャルが呟いた言葉に昨日のことを思い出して身震いするが、キスされたことを怒るではなく、むしろ「大丈夫だった?怖かったよねと」キスマークの部分に絆創膏を貼ってくれて、その後はひたすら俯き呟きながら何か考えに耽っている様子だった。
「シャルさん?あのシャル……アリスはなんであんなに悪物になろうとするの?何が彼女をそうさせてるの?」
「ん?あ、柳永くんごめんね、本当に……ごめんね家の妹が……昔はあぁじゃなくて、良く私たちについてくる可愛い子だったんだよ……。」
「根は悪い子じゃないって昨日は言ってたけど……俺にはそう見えなかったよなんかいじめっ子みたいだった。」
会えて、正直に感じた悪魔のような人という表現はアリス自身をまだ知らず、アリスの姉であるシャルの手前いじめっ子と表現した。
「いじめっ子か……優しいね柳永くんは……あんなことされてさ……でもごめんね今はまだ話せないけどそんなことしたのには心当たりがあるの、でもそれだけで強行に出る子じゃなかったから……まだ信じられない部分もあるんだ。」
何かシャルが隠していることは柳永も薄々気づいてはいた、そのため聞き返すのはごく自然な流れだった。
「いつ話せるの?シャル言ってたよね?夫婦は会話って、(夫婦じゃないけど……)なら教えて欲しい気持ちもあるんだけど……」
「今は話せないかな……でも約束できたら話してもいいよ?」
約束という言葉に反応して足を止める。アリスとは今後とも学校で会うことは必須であり、少しでも相手のことを知りたいというのは至極当然の感情だった。
「なに?約束て」
「私を変わらず好きでいてくれる?信じてくれる?全てを聞いても逃げないでちゃんと側にいてくれる?」
同じく足を止めたシャルは顔を近づけ、柳永の瞳を一点に見つめてくる。本当に約束出来るのか見定めるためなのか、目を逸らすことすら阻まれる状況だったが……。
「ご、ごめん!なさい……。まだ綺麗なお姉ちゃんて感じで彼女て、そのイメージが出来ないんだ、だから向き合えるまで、まだ話さなくて大丈夫……です」
柳永は目を逸らした……。そこまでの覚悟は出来ていなかったのだ。
「ごめんね、まだ中身は5年生だもんね無理を言っちゃった……でも、忘れないで私はダーリンの彼女だから。」
「さ!暗い話はやめて!元気にいこー!アリスには学校終わったら私が問いただしに行って釘刺しておくから柳永くんはアリスに近寄らないようにして!なんなら走って逃げてね?」
「うん、わかった」
頼まれなくても、危険な存在と身をもって認知しているため、今度からは走って逃げることには賛成だが、それだけで逃げられるのか心配になり声もか細くなる。
「まだ……暗いね?キスしてあげよっか?」
そのことに気づいたのか、顔を近づけながら耳の上の髪をあげ、色っぽい悪戯な口調で柳永に囁く。
「だ、大丈夫だよ!それに、それは未来の自分にしてよ!」
「柳永くんは、柳永だよ?それが昔の柳永でも、私にとっては大切な人、大好きな人だから、むしろ愛おしいくらい?だからキスぐらいいつでもしてあげるよ?」
昨日のキスの件だけでもお腹いっぱいであり、彼女といえどそれは未来の自分の話しだと思っていたが、彼女からすれば大好きな彼氏の小さい頃ならむしろ愛おしいとの発言を聞き貞操の危険を未発達な精神ながら感じて数歩下がった。
「け、結構です、今は……」
「今はって、もうー!本当にかわいいねっキスしてあげよっか?」
腕に抱きつきながら、上目遣いで聞いてくるキス魔になりかけているシャル。
「大人になってからって意味だよ!」
「もう身体は充分大人だよ?どうする?キスする?」
腕に抱きつきながら反対側の手で柳永のお腹に指を動かしもじりながら、悪戯な表情を浮かべるシャル、近くで接して間近で見れば見るほどアリスに似ているところもあることを感じつつ、指の動きがやらしく目に毒だとそっぽを向く。
「もうー!からかわないでよ」
頬が赤くなっているのは自分でもわかる、成長した柳永の方が身長が大きいため、見下ろす形になるがそれでも完成された大人の身体でスキンシップを図ってくるシャルに照れない方が難しかった。
「からかってないんだけどなぁ、私は早くも嫌なことあってダーリン、不足、でもやっぱりわかったダーリンは私をあの先まで……」
「何か言った?シャル?」
彼女の最後の方は、小声で聞き取れなかったがあの先までとの発言だけは耳に入った。
そのことについて、不躾に聞こうとするが途中でシャルが笑顔になり、言葉を続けたちめ最後まで聞けなかった。
「なんでもないよっ?あとね……
シャル呼びありがとうっダーリンっ好きだよ〜」
シャルさんからシャル呼びの方が彼女が喜ぶことに気づいたがハニーと言った日には襲われそうな雰囲気を感じつつ、電車の中でもニコニコして抱きついてくる彼女にため息をつきながらこれから行く学校に憂鬱を感じていた。
(どうか、アリスが登校しませんように)と
その願いは柳永の思惑とは違う形で奇しくも叶うことについては知る由もなかった。
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