第22話 朝目覚めて自覚して

 朝けたたましくなるアラームの音で目が覚める。


時間は朝の5時、昨日はランニングをサボってしまっていたことを思い出し、走れる服装に着替え柳永は、部屋の扉を開けランニングに向かう。


 朝の心地よい風と日差しを浴びながら、近くにある公園を外周して走る。


(昨日キスしたんだよな……)


 昨日の放課後のことを思い出す。あの時は、アリスへの恐怖で放心状態だったが、しっかり寝て頭が冴えてきたからか、羞恥心に変わり頬が赤くなるのを自分でも感じる。


(いやいやあれは……ノーカウント……だよな)


 考えれば考えるほど、アリスのあの時の言動や行動が怖かった記憶もあるが、キスしたシーンばかり脳内に浮かび、それを考えないようにすればするほど柳永を悶えさせた。


 11周程大きな公園の外周を走ると5時50分を時計が刺しており家へと帰った。


 途中から走ることに集中することで、悶えて叫びたい気持ちも幾分か落ち着いていた。


 家に帰りシャワーを浴びる。


 一通り汗を流しきった後で、首にこそばゆいものを感じ手に取った絆創膏を見る。


 昨日美玲につけてもらったが柳永はキスマークについて無知であり、美玲がシャルを心配させまいとつけた絆創膏をお風呂を出たら捨てようと決め丸めた。

 シャワーを浴び終えカチャとドアを開けた時、向かいになっているドアも開く。

 

 そこには


 寝癖だらけの妹がいた。


 大きな恐竜のパジャマの尻尾の部分をずるずる引きずった妹は、柳永の前で大あくびをして、寝ぼけ眼まなこをゴシゴシ擦る。


「おにいおはよー」


「おはよう皐月」


「ごめん、シャワー借りて良い?」


「終わったからいいよ」


 眠気まなこの妹は、ぽちぽちと、パジャマを脱ぎ、肩に手をかけ、柳永はタオルで水滴を取って、服を着ようとしていた時だった。


「は?」


 突然皐月が、声をだす。


「は?え、え?なんでお兄ちゃん裸なのー!?」


「朝走ってきて……朝刊取って?汗かいたからシャワー浴びてたんだけど?」


「なんで!ドア鍵閉めないの!?ありえない!しかも……」


 恐竜パジャマの下は下着であったことを思い出したのか、ボタンをとり、ブラジャーが見えている自分の胸を隠し、こちらを睨んでくる。


 皐月(さつき)が睨んでいたが、その視線も段々と下を向き……柳永の下半身を見て、ある一点を見た時はゎゎと言って顔がさらにリンゴのように真っ赤になる。


「ありえないから!死ね!」


 皐月は暴言を吐き、ドアが壊れるのではないかという勢いで飛び出していった。


「どうしたんだよあいつ?別に一緒にこの間まで風呂に入ってたじゃん」


 柳永の記憶の中では妹とは一緒にお風呂に入っていたが、現在は、中学3年と、高校1年生で思春期を迎えており羞恥心が芽生えているはずだが、柳永にそんなものはなく、着替えてリビングであった時頬に思いっきりビンタをもらったのであった。


「なあ、機嫌直してくれよ?悪かったて」


「死ねば?」


「皐月朝ご飯なんだろうね」


「死ねば?」


「ねぇ……」


「死ねば?」


 さっきからこの繰り返しであり、机を挟んだ目の前の席の皐月は、椅子を反対側に向けてスマホをいじっていた。


 このまま機嫌を損ねたまま、食べる朝ご飯は不味いだろうなと考えつつ、いくら謝罪しても進展もないだろうと、妹に習いスマホを見るとシャルから連絡が幾つも来ていた。


――――――――――――――――――――――

「柳永くん?キスマークてどういうこと?」既読


「起きてる?電話かけるね」既読


「なんで出てくれないの?」既読


「なんで出ないのかな??」既読


「朝迎えに行くから……」既読


――――――――――――――――――――――

 メッセージの間に着信履歴5回、それと段々起こり口調になっているシャルからのメッセージに眉間に皺を寄せる。


「なんだこれ?キスマークて?」


「クソ虫おにい死んだね、やっぱりシャルさんがキスマークつけるわけないし、昨日から絆創膏剥がれかけてキスマークらしきもの見えてたから連絡しといたの。もう破局よ破局」


 どうやら、妹がシャルに連絡してことの経緯に至るようだった。目を合わせた、皐月はまるで、別れる前の妻のような冷たい視線で柳永をゴミを見るようかのように見つめていた。


 そんな中柳永は表情がよく変わる妹だなと妹の芸に感心しつつ、首の傷のことをキスマークと呼ぶのだろうと結論に至る。


 だが現状を未だに理解できない柳永は妹の皐月に聞いてみた。


「なぁ?皐月キスマークてなに?」


「死ねば?」


「うん……会話できない感じね」


 妹とは会話が出来ないことを悟り、そのまま朝ごはんを食べ、着替えを終え出かける準備をし、リビングでテレビを見ている時だった。


 「ピンポーン」と、チャイムが鳴り、柳永がはーいと声を出してドアを開けるとそこには……


 口元は笑っているが、目は笑っていない、今の時代の自分の彼女であるシャルがそこにはいた。


「話し聞かせてくれるかな?柳永くん?」


「は、はひぃ……」


 妹の比ではない、今まで見てきた笑顔の中で1番恐ろしい形相のシャルがそこにはいた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る