第21話 アリスへ向けた手紙(後編)
恐る恐る震えた手で手紙を開ける。
「アリスへ、アリスがもしこれを読んでいるなら大馬鹿ものだな。過去から来ている俺がアリスに渡したにしろ、アリスが盗んだにしろ馬鹿なのはおれも同じだが。」
そんな始まりだった。
「過去の記憶に囚われるのはやめろと言ってもアリスは聞かないだろう、お前は前から一度決めたらそれを貫き通すだろうな、余り多くは書かない。どうなるのかわからないからだ、どう転んでもという考えは臆病になってしまった俺には出来ないから。
だが転ぶなら、サッカーでのファールの時の様に盛大に転ぶ所存でアリスに、未来についてのノートを読んだであろうお前に伝える。」
「ノートは2冊ある、2冊目は隠してある。もちろん部屋にあるだなんて単純なものではない。探して漁っても出てこないだろう。だが安心してほしい2冊目のノートは過去からきた俺は必ず見つける。少なくともそう願っている。
そして、知りたがっていることについては過去から来た俺に任せる。
最後に俺は未来を変えたことで、経験した通りにはならないと思ってはいた、だがそのことを甘い温室で育てられた子どものように考えていた。
実際そうだった。アリスとも真摯に向き合わなきゃいけない。だから来年の5月31日俺が戻った時には必ず直接また伝える。
お母さんのことは本当に申し訳なかった。未来についてのノートはお前にプレゼントする。それをどう使おうがお前の自由にしてくれ」
薄情な言葉の数々、許せるはずがないであろう謝罪の言葉については、思うところはあったが今の私にとって重要な所はそこではなかった。
「ノートが2冊……あった?」
未来についてのノートは2冊あったのだ。一冊目は箇条書きで、時系列もバラバラなため1冊だけだと錯覚していた。きっとあのノートを見つけた時に、もう一冊床頭台か、バックの中にでもあったのか。それこそが、私が知りたい未来のこと、彼が何故私じゃなく姉を選んだのか。何が彼の心境を変えたのか。知ることができる。
少なくとも、今の彼に伝えるのを任せるということは、柳永さんと私の目的地は一緒ということの証拠でもあった。私の知りたいと言う意志を無視して、結局は柳永さんに踊らされる。
「でも、ごめんなさいね柳永さん私は悪い女だから諦めも悪いの」
今回は手紙は前々から彼は私の変化に気づいて行動をしていたのであろう。この手紙の内容からでは、ここにある手紙は殆ど意味がないものであり、アリスの心に無数の針が抉るような感覚に襲われる。
早めに手を打ったつもりだったが、牽制された挙句振り出しに戻った気分だった。
これではもし、彼が壊れてしまったら殻に篭ってしまったら私は最後まで真意を知ることをなく、この手紙の約束の日を迎えてしまう。
柳永さんは謝罪だけを伝えるつもりなのか、それとも真実を語ってくれるのか。もし語ったとしてもそれが真実なのかすらも私は疑ってしまうだろう。
(方法が一つ潰された。)
彼の言う通りどう転んでもという考えではダメになってしまった。
今の過去からきた彼がノートを見つけるように、出来れば良い方向に転ぶようにしなければいけない。
それでもダメなら……最悪。恐喝、恫喝、虐め、痛ぶって彼を襲ってでも、私達兄弟と付き合わないようにしなければいけなくなる。
(そうじゃなければ……いやだめですね)
それでは私は真実を知っても真の意味で報われない。
でも迂闊には動けない、彼は私が盗む事も考慮に入れていた。
手紙の内容からもわかる、それでいて盗むのを許容した。
でなければ過去から来た自分に私の危険性を伝えて最初の手紙に、鍵を常に持ってるようにだとか、お姉様に預けるなども考えられる。
最悪私が、どうにかしても手に入れるだろうが、今回は簡単に手に入り過ぎている。そして本当に重要なことは隠している。
「今は静観するしか……ないのですかね。」
過去から来た彼に伝達する方法は限られているため、探そうと思えば探せる。
(などは考えない方がいいでしょう……。)
彼は私と距離をただ置いていただけではなく、頭が回るのも今までの付き合いで知っていた。
最初から知らせていないのは過去からきた彼が重みに気づき耐えられないことを視野に入れての考えであると考えられる。
だからこそ外野が下手に動いて、過去から来た彼が見つけられないことが1番の問題であり、もし彼の想定以上に早く全てのことを彼が知れば変化として感じ取れる。
それだけ彼がタイムリープして経験した未来についてのことは衝撃的な内容だからだ。
それが学校を休む、発狂する、プレッシャーで潰されるのかどのような反応にして現れるかはわからないが。
彼女は、彼がこの世界に慣れるまでしばらく静観する事を決めた。
その間も決して観察し続けることはやめずに‥‥。
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