第20話 アリスへ向けた手紙(前編)
アリスが帰路に着いたのは、まだ陽が高く上がっている12時を少し過ぎた時だった。
「ただいま帰りました」
「………………」
誰もいないことはわかっているが、もし誰か居たらと帰宅した事を知らせる。
昨日は彼にキスマークをしたのにお姉様は会いにこなかった。
恐らく、代わりにきた月見 美玲が何かしたのであろうと思い、大物を釣ろうとしたのに、小物が釣れた気分で小さいため息をつく。
父親も出張で家にはいない。そしてアリスは学校も休んだため時間はたっぷりとあった。
箇条書きされた3年前に見た未来についてと記載されたノートには見つからなかったが撮った写真はケータイに残っている。
それよりも、柳永さんが知っていることについて、彼が過去から来た自分をどう導こうとしているのか知るため、部屋に着くなり誰もくるはずがないが、念の為鍵を閉め6月1日最初に読むようにと書かれた手紙から読み始めた。
それから1時間じっくりと10通続けて読んだが、当たり障りのない事ばかり、人物についても未来に必ず起きることではなく、憶測で書いたもののように感じる。実際アリスの行動は最初の手紙には書いてなかった。
だが、彼がそう書くしかなかった理由をアリスは知っていた。
なぜなら彼は『未来を変えたから』からだ。
彼は少なくともタイムスリップをノートに記載された限りでは2回していることまで把握している。
実際はもっとかもしれないがあのノートからの箇条書きからでは、前回と、前々回付き合っていた人の名前についての記載があったからそうだろうと推測していた。
だからこそ、この手紙は大まかな天候や、天災、私たち周辺のことではない事件や、世間の事情など影響していないことに関しては役に立つ。
だがそれもノートで知っているため意味のないものだった。
リスクを犯した意味は、広い捉え方ではアリスの今後の行動にも関わるため意味はある。あるのだが手紙の内容としてはアリスが欲しい情報は今のところ得られてなかった。
「これでは、彼のスマホのパスワードがわかったくらいで、柳永くんとお姉様を誘い出す餌にしかならないですね……」
手紙から安易にスマホのパスワード114106が分かった。昨日今日でパスワードを変えることはしないはずであり、スマホに重要な事を残しているのなら手紙に残すのは悪手な気がする。
スマホには何も情報がないのか……それとも……114106なんてすぐ分かる下らないアナグラムだが何かが引っかかる。
1番最初に読む手紙に書くということはパスワードだけではなく過去からきた彼にしか分からないまた何か違う意味がある気がしてならなかった。
少し休憩を入れて、クラスRainを見ると幾つか心配する声が個人チャットで来ていた。それを一つ一つ返す。今学校で起きている事は正直アリス自身にもわからない。
だがどう転んでも良いと踏んでいる。
彼の周辺のお姉様を除いた、学校の彼女達と仲良くしてくれれば。
その真意は未来について知った彼女だからこそ分かるものであり、今は胸に秘める。
うーんと気分転換のため背伸びをして、気持ちを切り替えて手紙を読むことに専念する。
手紙は一部彼が読んだ形跡があり、順番や日付が違うものがあるため一度すべて広げて、順番を整えることにした。
本当は1番最初にやる行動だが、焦る気持ちからか冷静ではなかったことを今自覚した。
その中で、大きなちょうどA4サイズが入りそうな包みと、それに付属された手紙を手に取る。
包に付く形で、それは付属するようについており、包みから剥がすとともに手紙の裏面に目をやる。
それを見た、アリスの瞳は驚きで開かれていた‥‥。
もちろん冷静さを取り戻したはずのアリスが驚いたのには理由があった。
その手紙の表紙には「アリスへ」と書かれていたのであった。
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