第19話 涙の行く末。奪われた手紙


 告白した翌日のアリスの家での朝の出来事。

快晴の空、頭上の遥か遠くに輝く太陽から届いた日差しにより目を覚ます。


「あれ、何故でしょうか?」


それがいつもよりぼやけて見えるのは何故か、アリスが目を覚ますと夢の記憶に感して一切覚えていないはずなのに、アリスの頬を伝うものが自分の意に反して止まらなかった、止まってくれなかった。

俯き自分の膝下を濡らす。それと同時に胸になにか締め付けるものを感じ、心臓を掴むようにパジャマの胸元を強く握った。




それは実にアリスが母親を亡くしたその日から約3年ぶりに流した涙だった。



「やはり好きなんでしょうね‥‥本当にどうしようもないくらいに」


アリスから溢れて止まらない涙は、この3年間で何も変わらなかった何かが、彼女の中で動き出した証拠だった。

浮かぶのは怯えていた昨日の彼、それがとても可愛く見えて、好きな人の容姿も相まって思わずキスをしてしまった。

過去からきた柳永さん、5年前てことは10歳だなら柳永くん。あなたには悪いけど、壊れないくらいに、いや最悪壊れてもいいのだけれど……。 


私は悪くあり続けなければいけない。


この1年間の間で彼にはしてもらわなきゃいけないこと、いや知ってもらわなきゃいけないことがあるのだから。


私が恋したのは


憎んでいるのは


愛しているのは


とてもとても感謝しているのは大好きなお姉ちゃんの彼氏。そして……私の〇〇。


 柳永くん‥が壊れるくらいに、いや壊れてもあなたを愛してあげる。


 今の時代の私と彼の関係をどうにかするにはもう、時間が経ち過ぎてしまった。


 そして彼(柳永くん)が彼(柳永くん)である時間は限られている。今日だって1分1秒時間が惜しい。


 今年は永遠のような一瞬をあなたと過ごす一年にしないと。


 身支度を整えながら1人呟く。


「あぁ私てこんなに尽くすタイプだったんだ。」 


 制服には手を通さず、フード付きの黒いパーカーをどこにでも売ってる黒いリュックに、家にあったガムテープと軍手、そしてハンマー、足のサイズが合わなくてずっと履いてなかった。お姉ちゃんに憧れて購入した記憶のある、厚底になっている靴を見つけリュックに入れる。


その日アリスは学校には行かなかった。


 学校に休みの連絡を入れて、クラスRainに月見 美玲を陥れるためのメッセージを残し9時を過ぎたのを確認し家を出る。


 あとはクラスRainの内容を、心がもともと汚い人間達、クラスメイト含めた学年の人達がどう捉えるかであとは勝手に彼女を陥れて孤立させる。


「素敵ですね、来週が楽しみです」


 彼女のことに関しては嘘は言ってない、捉え方次第では脅迫と変わらない。目撃者も少なからず学食にいる。


 それに彼女は気付いてない様子だったが……真っ直ぐな愛情は時に盲目にさせることをアリスは理解していた。


 今回のRainはただ、彼女をおとしめる目的だけではない、彼女達には彼との親睦を深めて欲しい。そのためには学年の女子への牽制と彼女達の孤立が不可欠。


 彼はきっとほっとかないからこそ、その信頼があるからこそ彼女達の孤立を進める。人は群れないと生きていけない、弱っているところに漬け込むのが恋愛の必須の条件であることを彼女は知っていた。


 それにクラスにはあの西園寺うららさんもいる。

私は彼を恩人と呼ぶ彼女の人となりについても知っている。彼女が拘っている自由が束縛されて彼女達の心境に気づき始めたらきっと私の元にくる。 


 「そのあとは……ふふっ」


 彼にはある程度精神面でも強くなってもらわないといけないですからね。



 その足で電車を何本か乗り継ぎ、降りた先の近くの公園でパーカーに袖を通し、靴を履き替えて着替えを済ませる。


 そのまま記憶を辿りに4年振りに彼の家へと向かった。


(今の時代の彼が邪魔するのは阻止しないといけない、悪いことなのはわかってるの……ですが、この方法以外の愛し方を私は知らないし、わからないから……。手段が浮かばないから。だから先に謝っておきますごめんなさい柳永さん。)


 時刻は10時と少し家には誰の気配も感じられなかった。もし、柳永さんのお母さんに会っても顔見知りだからなんとかなる。ならなくても、目的のものはなんとしてでも手に入れる。


 その後もし見つかって警察に捕まっても大したことはない、初犯で未成年。すぐに解放されるだから、頑張れ私。そう自分に言い聞かせる。


 私は目につかない道路から視覚になっている庭から窓にガムテープを貼り、ハンマーで割って剥がす。そのまま家に入り彼の部屋を見つけ入る。


「やはり、今も昔も伝達する手段はこれなんですね。」


 私の撮影したあのノートは処分してしまったのかいくら探しても見つからなかったでも、目的のものは手に入った。



段ボールの中一杯に入っていた、幾つか開封されている痕跡のあるそれをリュックに入れて、入ってきた窓から彼の家を後にした。

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