第17話 出会った頃のような笑顔で。

閑散とする校門、そこには、異国の制服に身を包んでいたシャルが待っていた。実際に彼女はハーフであり、日本人なのだが日本人離れした容姿からそう錯覚した。


 柳永のその頬の紅は夕陽のせいかそれとも、今日の放課後の出来事のせいか、兄弟で似ている容姿を意識してなのかは柳永には分からなかった。


「シャルさんお待たせ」


「ダーリンー!遅かったね初登校大丈夫だった?」


「うんっ……」


 その先の言葉は出なかった、それは美玲に言われた嘘をつくような人に簡単にならないでとの思いから言葉が詰まってしまい上手く話せなかった。


「何かあったのかな?」


「まぁ色々とね……」


「そっか……話せなくてもいいよ……とは言わないかなこのこの!」


「ちょっ……何するのくすぐったいよ!」



 柳永が辛辣な顔をしていると、フワッとした鼻の良い香りが鼻腔をくすぐるとともに、抱きついたシャルは柳永のワキをくすぐっていた。


 くすぐられ、お腹を抱えていると、それを除くように彼女の顔が近くに見える。アリスと違うのは、目の色だけではなく、自然な目元まで笑っている満面の笑みだった。


 柳永が見惚れていると


「ふふっ沢山笑ってるダーリンが私は好きだよ!なにより夫婦は会話なの!何か不安なことがあったら言ってね?」


 好きと言われドキッとする。


「うん、もう少し整理できたら相談するよ」



「その首の絆創膏のことも?」


 彼女に指摘されて、絆創膏を手で隠す。先程のドキッとした気持ちとはまた別の心を見透かされたような彼女の言葉に心臓が跳ね上がる。

 みっちゃんもそうだっだが、シャルも細かいところまでよく気づくなと冷や汗を流しながら感心しつつ、素直な疑問をぶつける。


 それが柳永が意図せずとも話題を変えることに成功していた。


「……ねぇ女の人はそんなに色んなことに気づくものなの?」


「あー女の子と関わっていたことボロ出したね?そうだねーよく見ていると思うよ私もダーリンの事ずっと見てきたから余計わかるけど」


「そうなんだ……ねぇ僕ってどんな人だったの?」


「質問かな?そうだねぇー素敵な人て事を聞きたいわけじゃないだろうし……辛辣に言うと自己肯定感の塊みたいな人?簡単に言うと調子に乗ってたかな?」


「調子に乗ってた?」


「そう……。勉強もできて、スポーツもできて、甘いルックスに、いつも余裕そうな独特の……柳永の方が年上なんじゃないかて錯覚するような落ち着いた雰囲気を持っていたからね?まぁ今のダーリン見ていると想像も出来ないんだけどねっ。」


 彼女は続ける。


「でも魅力を持った人の周りにはそれに惹かれて魅力的な人が寄るものなんだよ。周りに女の子がいっぱい集まったりキャーキャー騒がれてたでしょ?それはその行動のたわもの、いや代償なのかな?」


「その、シャルさんは嫌だ?あの彼女だし、目につかないところでそう取り囲まれるの……」


「うーん、恋愛はね支配じゃなくて自由なんだよ、でもね、女の子は支配したい、支配されたいものなんだよ。もちろんそれは男の人も同じ。

 付き合った人が、他の女の人といたら浮気だと思うしイチャイチャされたら嫌だけど私はそれでもあなたを愛してるから。過去に戻った柳永くんが誰を選ぶかは自由だけど、この時代の貴方が選んだのは私だから、彼を待つよ。だから待ってる間の貴方に何かあったら大変だから話して欲しいのっ」


 彼女は、嫉妬はするけれど、話を聞かせてほしいそれは自由意志で、沢山いる女の子の、その中でも選ばれたのは誰でもない自分で、今はどこにもいない、未来の自分の帰りを待つと言う。


 そして過去に戻った時に自分が誰を選ぶかそれは自由だと、その支配しないように、束縛を感じさせないように語る彼女の気持ちに尊敬の念すら抱いた。


「わかった。シャルさんは凄いんだね。あとねアリスちゃんにも会ったんだけど……その、シャルさんじゃなくてエルさんて呼んだ方がいい?」


 全てはまだ整理も出来ておらず放課後のことは話せなかったがアリスと会った事を伝え、また疑問である呼び名についても質問をする。


「ふふっシャルでいいよっエルじゃなくてシャルでいいんだよっお母さんからもらったミドルネームだから、私が私だと呼ばれた始まりだから」


「それにしてもアリスにもあったんだね……あの子根は悪い子じゃないはずなんだけど……危険だからねなるべく一緒にいることは避けてね?」


 今のアリスとの出来事を隠している自分だからわかった、彼女も何かを言おうと喉まで出かかって、柳永を見つめたシャルの目尻が下がり申し訳なさそうに言葉を紡いでいた。


 その言葉から柳永は何かを隠していることを感じだが何かも分からず口には出さなかった。


「わかった、嫌な雰囲気はしたからなるべく近寄らないようにするよ」


「うんっいつか仲良くして欲しいけど、それは今の時代の柳永が帰ってきてからでいいから、なんとかしようと気負いしないでね?クラスも違うし、距離を置いて2人きりにならなければいいと思う」


 いつかはわからないがアリスと和解したいという彼女、でもそれは今の自分の仕事ではない事をわかりやすく対応まで教えてくれた。


 それから今日の授業の分からないことや、学食でのことなどたわいもない話しをしながらお互いの家路に向かう帰路に着く。


「私こっちだから!それじゃまた明日ねダーリンっ!」


「またねっ」


 彼女は高校から1人暮らしであると話の中で聞き最後まで送るか聞いたが、それはまた違う日にと拒否された分かれ道。

 またねといい手を振る柳永に、シャルは振り向き出会った頃のような笑顔で、口元に手を祈るように合わせ夜の街に響く声で柳永に思いを伝える。


「忘れないでね!私がいつでも柳永のそばで笑顔で居るから!」


「うんっ!」


 彼女と話していると不思議と元気が出る。それは彼女の人懐こい性格や、全てを包んでくれそうな包容力かはわからないが未来に来て家族よりも、自分の事を知っていてくれることから安心感を感じた。


 けれど彼女と別れてすぐに、気持ちが沈む。


 結局彼女に放課後のことは打ち明けられないまま、彼女が隠している何かを聞けないまま、家路に着く。




 心の中のモヤモヤが無くならないままに……。


 

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