第16話 結局同じこと(後編)

チラホラと談話する学生や、教科書を机に広げ勉強している学生が目に入る。19時から部活の寮生の夕食が提供されるため18時までの解放だがそれまでに自分の時間を過ごしている学生達がいた。


 その中で4人、目の前にアリス、斜め前にかなえ、隣にえりという形で1つの机に4人で座っていた。


「それでお話しとはなんでしょうか?」


「柳永のことだよ、言わなくてもわかるでしょ?」


「申し訳ありません、美玲さんおしってることがわからないのですが……」


彼女は首を傾げながら、本当にわからない様子で問いに答える。


 本当に知らないはずはない、かなえとえりは脅されてるんだろうけど現状証拠しかないのが痛い。あの時見送らず着いていけばよかったと内心後悔した。


「しらを切るの?貴方と柳永がさっきまで話して他でしょう?貴方が告白するためにかなえとえりまで使って」


「私がですか?かなえさんとえりさんとはそこで偶然あっただけですが……何か勘違いをされているのでは?」


口を割る気はない事を美玲は彼女達からの言動で感じる。


 だからこそ、2人を連れてきた、まだ友達でいるためには、彼女の口を割らせるためには彼女達の証言が必要だと思い切り返しを変える。


「かなえ、えり本当の事を言って?私達友達だよね?」


「…………アリスちゃんとは、そこで偶然合って帰ろうとしただけで美玲が考えているようなことはなかったよ」


「かなえは黙ってるけど?」


私は斜め前のかなえの方を向き声をかける。


「かなえもそうだよね?」


隣のえりが黙っている目の前のかなえに問う。


「……うん、そうだよ」


覇気のない、掠れてしまいそうな声でかなえは呟くように答えた。


「わかったよ……そう言うことなのね、私とアリスじゃアリスを選ぶよね」


 2人はアリス側につく事を示した。えりと違いかなえは罪悪感を抱いている様子だった。


アリスとかなえ、えりは同じクラス、恐らく柳永絡みで関わったら、クラスから無視されるとかそんな所をアリスから言われているのだろう。これは私とアリスどっちを選ぶかではなく、学校での立ち位置での話、その中で2人は揺れ動いていたがアリスを、変わらない平穏な生活を選んだ。


友達1人を犠牲にして……


「アリス、単刀直入で聞くけどなんで柳永にあんなことをするの?あんたの気持ちは知ってるけどやり方が違うでしょ?答えて」


「あの、美玲さん何か勘違いしてるんじゃないでしょうか?」


「勘違いか、私が友人3人を失うことは勘違いで済ませるんだ……そっか最初から話す気はないんだね」


「え、美玲……教室で泣いたのは悪かったけど3人て……」


かなえがそう枯れそうな声で、こちらを見て聞いてくる。


えりは、何も言わなかった。


 証言を聞く以外にその事を伝えるために2人を呼んだ。

えりは分かっているみたいだったけど、かなえは元々天然が入っており現状についても理解していないのだろう。


「かなえさんと、えりさん、それにアリスさんのことだけど?私は記憶を無くした人に酷い事をする人達と友達にはなれないから」


「ぅううう、美玲、美玲……」

「大丈夫かなえ……泣かないで……」


わざとさん付けで呼ぶ、もう他人だと2人に伝えるためにそう呼んだ。


耐えられず泣き出すかなえを、えりは席から立ち背中を撫でて慰める。

周りの学食に残っていた生徒も、こちらに注目している様子が伺えた。


「美玲さん今のは酷いんじゃないですか?勘違いでかなえさんと泣かせるのは違うと思います」


「あんたどの口が言うの!!」


「美玲さん……どうしたんですか?変ですよ?」


かなえに、寄り添ったアリスが私を見ながら、私が1番嫌いな言葉を言ってきた。

私は頭にくると同時に、私も彼女が嫌いであろう話題を出していた。


この時は、アリスに乗せられてたとも気づかずに。


「ねぇ、アリスさんなんで柳永なの……あの事件のことは柳永のせいじゃないよ?記憶を無くした柳永をどうしたいの?」


「美玲さん……私でも怒りますよ?あの事件は私の中で終わってます!柳永さんを好きなのは私の意志なんです」


「認めたね、さっき柳永呼び出したのはアリスさんでしょ?」


美玲の話題で彼女の余裕そうな表情が崩れる。


このままできれば話して欲しい、話して柳永にもう2度とあんな事をしないと約束して欲しい。


美玲は自分の頭が、冷静ではなくなっていることには気づいていた。それでもアリスと話し合いたい気持ちは少しは残っていた。


「本当に、どうしたんですか?だとしてもあなたになんの関係があるのでしょうか?それは私と柳永くんの問題で尚更美玲さんは関係ないと思います」


「おおありだよ、首にキスマークまでして記憶のない柳永を襲ってシャルさんていう彼女もいるのに恥を知らないのかな?」


「そんなことしてないです、酷いですよ、美玲さん……いいです。かなえさんも泣かないで、帰りましょう3人で」


「ねぇ話は終わってない、もう2度と柳永に近づかないで!」


自分でも捲し立てるように、こんなに声が出るのか自分でも不思議なくらい、怒声が口から飛び出てくる。


「なんでそんなこと言うのですか?なんで柳永くんに近づいちゃダメなのですか?貴方は柳永くんのなんなんでしょか?」


「本当に吐き気を催すやつているけど、アリスあんたはそういう奴だよね、話にならないから言っておくけど、私の目の黒いうちは柳永に近づけさせないから」


「ぅうう、酷いです、酷いですよなんでそんなに言われなきゃ行けないんですか……なんで会っちゃダメなんでしょうか?」


息を切らしていたため呼吸が戻るのを待つ。


自分の目の前にいる、誰もが振り向きそうな絶世を隠した美少女アリスは、かなえの隣で屈みながら寄り添って泣いている。


周りを見ると食堂の人達の視線が私に集中していることに気づいた。


(熱くなり過ぎた……)もともと口喧嘩すら慣れていないためヒートアップし過ぎたことを自覚し、今すぐにでも、学食にいた人達に頭を下げたい気持ちでいっぱいになった。



「帰ろう、アリスちゃん、かなえ……美玲……さん今のは私でも酷いと思う……じゃあね……今まで楽しかったよ」


席を立ちかなえとアリスを連れながら、通り過ぎる際えりは小声で私にそう呟いた。


そうして私は友達3人を1日で失った。





 伸びる3人の影が、校舎を後にする。

周りに生徒が居なくなった、帰り道アリスが口を開いた。


「ご協力ありがとうございますねえりさん、かなえさん」


「う、うん……でもこれで良かったのかな」


 先ほどアリスが泣いていたのは、嘘泣きだった。校舎を出た途端、普通に歩き出し、いきなり声をかけてきた彼女にえりは動揺した返事になってしまう。


「何か気になることがありますの?えりさん?」


「ううん!何にもない!何にもないけど……」


えりを綺麗な、綺麗なアリスの瞳が私を覗き込む。


 中学来の今日のお昼まで、一緒にご飯を食べていた友人を無くしたのだ、何もないはずがなかった。


だがそれも自分のした選択からであった。


えりはお昼の時のことを思い出していた。


あのお昼の後、クラスRainに気づき2人で戻った時だった。


そこには、クラスの女子達がほぼ全員いた、わたしたちは急いで合流した。


「私柳永くんが好きなの……だからですね?みんなで押し寄せて柳永くんに話しかけたり、迷惑をかける人は……友達ではいられないので(はぶりますので)そのことを伝えたいと思いまして」


それに「いいねそれと」言葉が違うが同意をしましたのはカースト上位の2人、桐野に和葉だった。

それにアリスを含めた3人がこのクラスのカーストのトップ。


先ほどほぼ全員と言ったが、一部は入学してから既に、容姿や言動からハブられたりしていた。それ以上の行動は今の所ないが、何かの弾みでイジメがエスカレートーする危うさは感じていた。


 友達でいられない=ハブる事だとクラス全員は理解した。

 それだけではなく、学年の人にもこの事を伝えるように言われその場は解散した。

それから、柳永を見に行くギャラリーは減った。


 お昼の事を思い出し、隣を歩いている友人を見る。かなえは一言も喋らない、幾分か泣き疲れたのか疲労感を足取りと表情からも感じ取れた。


「そう?ならいいのですけど?帰りましょうか3人で……」


 アリスは、えりの心情を分かった上で何も言わない。本当にどうでも良いことだったから何も言わなかった。


 アリスは今日のことを帰路につきながら頭で整理していた。


 美玲さん……柳永くんを思っての行動でしょうが、爪が甘いですよ。状況証拠だけじゃなくて、あの時ついてこなかったこと、友人達を甘い信頼なんて言葉で信じた怠慢から、既に答えないという私の方針は決まっていた。


 それからは楽だった。まんまと学食で他の人の目がある中で怒りに身を任せた。


 周囲の目も、アリス達を被害者として捉えさせることにも簡単に成功した。


 私自身も身を任せて、柳永くんとキスしてしまったけれど……、それと結局同じこと。


 彼女のしたことは、私が柳永くんにしたことと同じで恐怖や脅しでどうにかしようとしたていただけのこと。最初から話す気なんてないのだから、このような結末になるのは必須。だから彼女は加害者になる。




 美玲さんは私の障害になり得ない、まっすぐ過ぎる男勝りな性格だからこそ、女性同士の喧嘩と言うものを理解してない。




(そんなんだからあなたは柳永さんに捨てられるんですよ……)と心の中で呟き家のドアの鍵を開けた。





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