第13話 浮かぶのは彼女の顔

彼女が自分に覆いかぶさる形でキスをしていた。

ただ2人だけの空間で、外から聞こえる喧騒ですら自分から聞こえる心音の音で聞こえなかった。

そんな2人だけの世界で‥‥

最初に唇を離したのはアリスの方だった。


「ごめんなさい、正直ここまでするつもりはなかったの、でもあなたがとても可愛くて魅力的だったから……ね?」


不思議と唇と、唇が離れるのが恋しく感じた。

頭の中は混乱で支配されていたが、今目の前で話している彼女とキスをしたことを自覚すればする程、先ほどの恐怖とは違い恥ずかしくなるのは異性故なのか今の柳永には分からなかった。


「尋ねてよろしくて?」


「どうぞ‥」

先程まで自分と重なっていたピンク色の唇が動くのに集中してしまう自分がいた。

キスの味どうでしたかなんて聞かれたらと心配していたがそれは杞憂だった。


「これからも私と付き合ってくれます?柳永くん?」


「いや……もう近づかないで欲しい。今日のことはお姉さんにも内緒にするから」


彼女の付き合うというのは異性の彼氏彼女の関係だと瞬時に理解できた。だがキスのせいでショック療法のように恐怖は和らいだが、先ほどの緊張とは違い、まだ異性に目覚め始めた程度の精神年齢の柳永にはまた違うキスされたことに対する緊張が芽生えていた。

何より脳裏に、初日に飛び出して路頭に迷っていた自分を助けてくれた。今の時代の彼女の笑顔が浮かび、その顔から今の出来事を聞いたら悲しむのだろうかと考えていた。

そして勇気を出して、先ほどの断りの言葉を入れたのであった。

身体に力を入れると転んだ時のような震えはなく、立てることを確認しながら、ゆっくりと立ち上がった。


「両方とも残念ですね……でも、これからはあなたの方から私に会いにくるようになりますよ?」


彼女は、今日の用事を済ませたのか、この場を支配していた圧迫感や、緊張感はその言動からは感じられなかった。


「それは、どうゆう……」


「そうですね‥‥これは予言ですかね?柳永くんは難しく考えなくていいですよ?きっとそうなりますから」


「……そうだね僕には君がわからないよ。それじゃ」


この後も何をされるのかわかったものじゃなく彼女の言ったことは気になったが、この場を去ることを選択した。


教室を出るときは、特に止められることもなく、あっさりと廊下に出ることができた。

だが扉を閉める時、彼女は最後に


「お気をつけて、お帰りくださいね」



自分の身を案じてなのか、これから何か起きる前兆を憂いて声をかけてくれたのか、はたまた社交辞令で声をかけてくれたのかその時の柳永には知る由もなかった。



扉を完全に閉め、自分を待っている。幼馴染のみっちゃんのいるクラスへと戻った。

戻る最中、浮かぶのはシャルのことだった。今の時代の自分の彼女、過去からきた自分からしたら関係ないと言えなくもない。

だが、浮かぶのは自分を支えようとして空回っていた。彼女の悲しむ顔だった。



途中、自分を彼女の元に案内した。かなえにあったが、自分を見るや否や顔を俯き一言も喋らなかった。えりはきっと反対側の階段にいるのだろうと思った。


何か言ってやりたい気持ちはあったが、柳永はぐっとその場は堪え、自分を待つ幼馴染を優先してクラスへと向かった。

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