第10話 今もこの時を思い出す。
6限目までは、ギリギリまで体育をしていたため、駆け足だった。
戻ったクラスは、消臭剤の大会でも開かれているのかと思う程に、さまざまな消臭剤の匂いで充満しており、窓際でカーテンがペチペチと顔に当たるが、風通しの良く初めて柳永はこの席で良かったと自覚した。
6限目は何事もなく、終わり帰りのホームルームも終わった時だった。
こころっちは、そそくさと直ぐに帰宅し、うららさんは友達と一緒にカラオケに行く話をしてこれまた同じく「恩人くん!またねー!」と言い残し教室を後にした。
ホームルームが終わった教室で、まばらに残っている生徒にまぎれ龍助、みっちゃんと会話をしている時だった。
「しかし、大変だよね柳永も、授業中も必死でさっ!あんなに頭良かったのに」
「それな、俺どうしよう……お前に教えてもらうの頼りにしてる説あったんだけど」
「んー勉強は無理かな算数とかもわかんないし……」
「算数とか、いつの時代だよ」
算数に反応した龍助の言葉を誰かが遮る。
自分を確かに呼ぶ声が、教室のドアの方から聞こえた。
「あ!いたちょっと柳永くんっ!いい?」
「柳永くんっやっほー!お昼ぶりっー」
そこにはお昼を一緒にした、美玲の友達のかなえと、えりがいた。
「どうしたの?かなえとえりっ一緒に帰る?」
「うんっ!それもいいけど、柳永くん少し借りてもいい?」
「えー?なんで」
みっちゃんが、首を傾げながらいきなりきて、柳永だけを呼ぶ2人に、お昼の時とは違う雰囲気を感じ柳永の変わりに理由を聞く。
「なんでって言わせるなよ!告白だよ!やぼだよやぼ」
その言葉に、柳永は正直行きたくない気持ちでいっぱいだった。生まれてこの方告白なんてされたことはないし、今の自分に告白するということは、全く赤の他人の告白に行かなければいけないのと同じであり顔を顰めた。
「ん?記憶ないのに?しかもかなえとえりに頼むというか、友達に頼むのおかしくない?それとも?えり、かなえ彼氏捨てて……」
柳永の表情を見て、また友人2人の焦り方にも違和感を感じたのだろう、みっちゃんも現状記憶喪失の柳永に告白しても、本人の意志がはっきりしているはずもなく、それなのに呼び出す違和感を感じ、探りを入れるつもりでかなえとえりに聞き返す。
「ち、ちがうよ!でもこの通り、柳永くんも一緒のお願い!!ねっ?」
どこかかなえからは必死さを感じ、えりはお昼の時と違い、手を合わせてこちらを見つめている。まるで何かに急かされているかのように。
「え?いきなり知らない人に言われても困るんだけど」
柳永の返答にその通りだと、みっちゃんも頷き2人を睨みつける。
「ね!お願い土下座でもなんでもするから、お願い!一生のお願い!!ね?」
かなえの方は、何がなんでも来て欲しいのか、クラスにまだ人が残っている中でも膝をつきいつでも頭を下げられる体制になる。昨日今日知った相手にそこまでされる言われはなく、またそこまでして告白を成功させてあげたい相手がいる……ようには見えず何かに脅されているようにも感じた。
「いいじゃねぇか、お前俺の知ってる限りでも何度も告白されてるし、ごめんなさいて言うだけ行ってこいよ」
見かねた龍助は、柳永にそう言う、中学も別だったはずのため、高校に入っても何度か告白されていたのだろう。だが今の自分には関係ない話であり、ハードルが高かいことであった。
「ちょ、ねぇ柳永記憶戻ってからでもいいと思うよ?柳永やっぱり変わったし、曖昧な時にそんなこと言われても困るでしょ?」
「正直困る……行きたくない」
龍助と違い、みっちゃんは援護をしてくれた。その目で真っ直ぐ柳永を見つめながら、2人の違和感と彼女なりの直感また、素直に柳永のことを心配して、せめて記憶が戻ってからと提案してくれた。
「ぅううっうう」
「「え?」」
すると、いきなりかなえが、崩れて泣き出してしまい、思わず柳永と、美玲は同時に言葉が漏れた。それを龍助はただ静観している。教室に残っている人も、最初は見ていたが、巻き込まれまいと、野次馬精神を置いて反対側の前のドアから早々に帰っていった。
「かなえ、泣かないで私も謝るからね、2人で謝ろダメだったて」
「違うの、私のせいでえりまで……」
「なんかわけありぽいな‥‥柳永行ってやれよ?流石に女が泣いてるのほっとくのはクズの中のクズがやることだぞ」
龍助の言う通り、泣き出すとは思わなかった。正直泣きたいのは柳永の方だが、今はそんなことを言ってられず、今この場で味方はみっちゃんしかおらず、3対2の割合の空気が、誰もいなくなった教室を支配していた。
なぜ泣き出したかわからないが、理由はあるのだろう、そしてそれは告白を受けるだけで解決する。もちろん良しとするはずはないが……。
「うーうん……そうだね行くだけなら行くよ」
「ちょっと?柳永なんか変だよ?やめときなよ、かなえとえりもどうしたの?」
「いいよ‥‥みっちゃん何かあったら相談に乗ってね?」
みっちゃんは最後まで心配してくれていたが、2人のとの仲を裂くことも、お昼の楽しそうな光景から憚られた。
柳永の心情から正直不安しかないが、きつい練習の時と同じで、時間はどんな時でも流れてくれるものだと柳永は自分に言い聞かせていた。
「そ、それはいいけどさ……もうー!かなえとえりも何かあったら言ってよ?」
「あ、あびがどぅぅううごめんねぇええ」
みっちゃんとえりがかなえを泣き止ませた。
場違いだと思ったのか龍助はじゃあまた明日と言い1人帰った。
落ち着きを取り戻したかなえとえりは柳永1人だけ来て欲しいとのことで、告白なら当たり前のことだが、みっちゃんは心配だからついていくと最後まで言っていた。
だがそれも叶わず最後までかなえとえりに止められて教室に残り帰りに柳永と合流することで納得してもらった。
「なんだか嫌な予感するの……ねぇ柳永もしもの時は逃げてね?」
最後までみっちゃんは腰をツンツンと突きながら心配してくれていた。
「大丈夫その時は急いで逃げてみっちゃんのところに行くから」
そう彼女に告げ。2人についていき、みっちゃんのいる教室を後にした。
今になっても思う、なぜこの時心の中にある不安のままに叫び出してでも逃げなかったのかと、2人とみっちゃんの仲を取り持とう思った行動が……。
この時の行動が、みっちゃんと2人の友達の仲を裂いてしまうことも知らずに……柳永は離れ校舎の使われてない空き教室へと案内されていた。
そこで誰が待っているかも知らずに‥‥‥。
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